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とも言われる。
「ルヘイが潰れた事でガルヴァも容易に仕掛けられまい。我が国にしても代償は大きかったが、元はあちらが仕掛けたのが始まりだ。オークなんぞを送り込みよって…」
―どっちの味方だ、とローグは思ったが話を戻すことを優先する。
「例の件ですが、陛下。そろそろ詳細をバスクに」
「ん、そうだな。バスクよ。この件でガルヴァ連邦との間に溝ができた。どう言い訳してもこれはお前が原因だ。よってこれより自宅謹慎七日の後、ガルヴァ連邦への出向を命じる」
「―かしこまりました。ガルヴァ出向、拝命致します」
床に頭を押し付けたまま、バスクは機嫌の直し方についての思考を再開した。
アリスト城下街の南西、バスクの屋敷までおよそ1キロ。西本通りをバスクとローグは並んで歩いている。夕焼けに空が染まる時間である。
「―お腹空いたなぁ」
「買い食いは駄目だぞ。既に謹慎は始まっているのだからな」
「ちぇ、ケチだな…」
「……」
「ごめんなさい」
グゥーと腹の虫が鳴いて、背中を丸くするバスク。その姿はとても小さく見える。
「…この阿呆が」
フードの上から頭をガシガシと酷く撫でたかと思うと、そのまま近くの露店へ入り、大きなハニーブレッドを三つ抱えて戻ってきた。
「半月以上、帰ってないのだろう?手土産くらいは…な」
そう言いながら、その内の一つをバスクに突き出す。
「ありがと、ローグ!」
ふん、と鼻を鳴らしたローグは、残り二つのハニーブレッドを袋に入れ右腕で抱える。左を歩くバスクは、子供のような笑顔でパンを頬張っている。こういう時間は嫌いじゃない。
「手が掛かる阿呆だ」
「ふご?ふぁふぃ?」
リスのように頬袋を膨らませて喋ろうとするバスクの頭を、今度は軽く小突いた。
バスクの屋敷は、西本通りの脇にある少し小さめの貴族館である。没落貴族の館を安値で譲り受けた。その庭に一人、少女の姿があった。バスクが片手を上げて声をかける。
「ただいま、ブルーノ」
「バスク様!お帰りなさいませ」