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バスクの言う普通、とは一般的なオークのことを言っている。決して知能は高くなく、集団行動を行うが連携という概念は持ち合わせていない。得物を狩る為だけの単純な戦闘力。目の前の、いわゆる陣形と呼ばれるそれを実行する姿は、オークと名乗るには些か利口過ぎる。
―確かにな。だが、あの老人も言っていただろう?飼い馴らした、とな
一国の王様を一老人扱いかよ、と思ったが一々口にはしなかった。仮にも戦闘中である。要するに薬漬けか、それに類似する方法で洗脳染みたことをやっているという訳だ。
「―悪趣味だな。そんな悪いことをするイケナイ子には、お仕置きをしてあげたいね~」
若干の嘲笑を含みながら、バスクは歩を進める決断をした。歩き始めたバスクの姿を見て取ったオークたちは、じりじりと左右に展開して行く。林の中に居るオークは動かないようだ。
―とりあえず、手前の五匹を片づけるぞ。いいな?
了解。と小さな声で答えたバスクは、踏み出した左足に力を込め、次に右足を踏み出す動作で目の前の小さな丘を飛び越えた。
着地と同時に、左右に広がったオークたちが距離を詰め始める。取り囲むようにバスクの背後へと両翼のオークが回り込む。中々上出来である。
「うちの新米騎士にも見せてあげたいね。熟練してるじゃないか、これ」
左右に広がるオークの姿を横目で確認しながら、ようやくバスクも戦闘態勢へと移行する。小さく息を吸い込み、ぐっと全身に力を込めると、バスクの周囲に熱気が満ちる。その異様さに、オークたちの野生の感と呼ばれる感覚が反応して一瞬、動きが止まる。
バスクの背面、腰の辺りから伸びるそれは、まるでトカゲの尻尾のような形状をしている。先端にいくにつれて細くなり、風を切りながらしなるそれは、自身の生み出す高温の熱で小規模の陽炎を生み出しているようだった。―竜装「赤尾」である。
オークがその状況を考察するだけの知能を与えられているかは不明だが、反射的に竜装「赤尾」の存在する下半身ではない、バスクの上半身へと攻撃は集中した。周囲を取り囲むオークたちは自身の持つ、鋼鉄製と思われる棍棒を振り下ろし、薙ぎ払う。初手を担ったオーク三体の棍棒は次の瞬間、バスクを押し潰す事無く宙を舞った。熱せられ、赤く溶融した不格好な鉄の塊はオークたちの頭上を越えた後に、地面の上へ音を立てて落下した。高温になった鉄の塊は周囲の草花を燃やし、焦がす。
「―でもまぁ、棍棒の扱いはまだまだみたいだけど」
バスクが踏み出すのと同時に竜装「赤尾」がしなり、周囲を一薙ぎする。上半身と下半身に分けられたオーク三体は、火に包まれながらその場に崩れる。少し後ろに待機していた残り二体のオークは、攻撃第二波を担う事無く二分割され、すでに炭と化していた。
「洗脳だか知らないけど、道具の使い方くらいは刷り込んでおくべきだと思うよ」
―誰に言ってるんだ?
「いや、独り言だけど」