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「―近頃どこぞの軍隊がオークを飼い馴らしたらしく、国境付近で騒いでいるらしい。ここまで言えば、わかるな?」
――日も落ちて、街には街灯の明かりと住宅から漏れだす優しい匂いに、昼とは違う賑わいが溢れていた。そんな中、大通りの噴水に腰掛ける。
―いい暇つぶしじゃないか。なぁ、バスク
「うっさい!」
王都に帰ってきて早々に、面倒を押しつけられたことへの苛立ちから思わず出た一言が、目の前を歩く幼い少女に浴びせられた。
「―っ!ふえぇ…」
途端に立ち尽くした少女の眼から、大粒の涙が溢れ始める。人の多いこの時間、街中でこの状況は大変宜しくない。
「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ…」
文字を体現するというのは難しい。しかしながら、異性に対しての言動に関しては慌てふためき、照れ隠れる。バスクにおいてはこの限りである。
「きっ、君に言ったんじゃないんだ。ホントだよ?あーっと、えーっと、飴でも食べる?美味しいよ?だから、その、あわわわ…」
―ぷっ
笑ってしまった。
状況としては笑えるものではない。衛兵がこちらに鬼の形相で走ってきているし、周囲には人だかりが出来上がり、とても逃げられる様子では無い。これはまた後で、国王と文官たちに嫌味を言われるな。―などと思いながら、ブラッドは笑いをころした。
「視認できるのは林の中に三、その手前に五」
―さらにその奥に四だ。余裕だな、バスク
アリスト東方にある森林地帯「ルヘイ丘林」。国境が近いこともあり、近年でも軍の衝突が稀にある紛争地域である。件のオーク部隊掃討任務遂行の為、バスクとブラッドは戦闘行動中。現在、斥候と思われるゴブリンの小隊を壊滅。本隊であるオーク部隊と、小さな丘を挟んで対峙している。
バスクは普段と違う姿をしていた。いつもの小奇麗な服の上に機械的な、この世界ではあまり見ない形状の何かを纏っていた。
「竜装」。
竜をその身に宿し、纏うことでその力を行使することのできる技術。オーブという特殊な宝石に竜を封じることで使う事ができる、異形の兵装。
「けど、あれは普通じゃないだろう?」