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んだ。集束した魔力が開放される。
―竜装「赤尾」特攻撃術壱型 レッドサン 発動。
尾の先端部に現れた小さな火球は、一瞬で辺りを光の中へ没した後にその姿を現した。直径は十メートルほどの大きさ。それは数分間、中空に居座った。その間周囲は熱せられ続け、溶岩のように流体化する部分もあった。岩に埋まるキメラは確実にその命を終え、身体は魔力の加護なのか辛うじて形は残したが、何か分からない塊へと変貌してしまった。
しばらくしてその活動を終えた小さな恒星は、周囲に余熱を残して消えていった。いつの間にかブラッドと同化していたバスクも姿を現す。その背には魔力でできた羽が生えていた。
「―流石に肝を冷やしたが、これで我らに負けは無い」
控え目な感想を述べたバスクは、治りきらない矢傷を抑えながら、融けていない足場を探して降り立つ。大きな魔力は感じられない。
「まだ生きているだろう。出て来たらどうだ?」
呼びかけに答えるように、バスクの正面岩山が轟音を上げて弾け飛ぶ。中から出て来たのは、もちろんユラントフだ。
「―まさかここまでやられるとは思わなかったわ。相性かしらね…」
よろよろと立ち上がったユラントフは竜装の片翼を失い、左半身が辛うじて存在するという致命的な状況だった。だがその傷も、同化現象の効果で再生が始まっていた。
「それだけの傷、完治には時間が掛かるだろう。―治りきる前に殺してやる」
バスクの側にも余裕は無かった。こうして同化を維持できる時間も数分と無い。赤尾の先端、鋭利になっているそれをユラントフの喉元へと突き付ける。
「―貴方をここで始末すべきだという私の判断は間違っていなかった。でも、まさか私たちが負ける事になるなんて…」
覚悟を決めたようにユラントフは脱力した。それを見たバスクは少し安堵し、首を落とす動作に入った。―ふと違和感を感じた。背後に在るはずの無い圧迫感。人間の放つ、独特な殺気。振り返ったそこにはキメラの死骸だった塊と、それに寄り添う二つの人影。
「―気にせず続けて下さい。こちらの用は済みましたので」
人影の主は、バスクたちを連れて来たワイバーンの騎手たちだった。
「用件は我々竜装騎士の始末か?それともその塊か?」
バスクの問いにユラントフも気付き、顔を上げる。
「―傀儡炉!それをどうするつもり!」
ユラントフが発した「傀儡炉」、ひと月ほど前にバスクが起こした、ルヘイ丘林の大規模魔力爆発の根源。それと同型か、少し小さめの魔力炉だった。
「以前よりも少し威力は劣るかも知れませんが、今のあなた方ならこれでも十分でしょう」
「―誰の命令?貴方たちも死ぬ事になるのよ…」




