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 (―気が付いた?ダメージ自体は大した事、無いはずよ)

 アルターノの呼び掛けに、頭を振って意識を起こす。

 「…すまない。助かった」

 衝撃波で少し飛ばされたのか、横穴の出口付近にいたはずが、今は数メートルほど距離がある。土煙の向こうにはちらちらと赤い光が見え隠れしている。

 (―まだ戦っているようだけど。この調子では視認は厳しいかもしれないわね)

 (それは困る!私の任務は、彼の情報収集なのだから)

 アルターノの指摘に焦りを感じたユラントフは、立ち上がって横穴の出口へと向かう。

 (―どうするの?)

 (近くまで行くしか無いだろう…)

 正直、気は進まない。キメラの攻撃余波だけで気絶するような状況である。後のことを考えれば力は使うべきでは無い。かといって、また巻き込まれては意味が無いので、結界はそのままにユラントフは走り出した。

 ――先程の一撃、振り下ろした巨腕の真下にいたバスクは何とか無事だった。巨腕の落下地点から飛び退いたバスクはキメラの足元、股の下を潜って背後へと回り込んだ。衝撃波はすべてキメラ自身の結界で防がれ、難を逃れたのである。

 そして現在、足元をうろつくバスクにキメラが手こずっている所である。

 「―さて、そろそろ魔力も練り上がったからな、仕上げと行こうか」

 そう言うと急加速、一気にキメラの肩の上まで登っていく。身体を虫が這うかの如く、むず痒さを感じたキメラは根源を断とうと手で払い、叩くが捕らえられない。

 「近距離戦になった時点で、貴様の負けなんだ」

 肩まで登ったバスクは勝利宣言をすると、その場で片手を前へと上げる。その手は途中作り出した火球を、ずっと保持し続けていた方の手だった。その手にあの時の火球は無い。

 「さあ、どうだ?見えるだろう、赤い糸が。小指には繋がって無いがな」

 かかっ、と空笑いしたバスク。その手から伸びるのは赤い糸、まるで蜘蛛の巣のように幾重にも交わり合った糸が、キメラの身体前面に張り巡らされていた。結界の上から張り巡らされたその糸は、キメラの動きそのものも封じ込めているようだった。糸を振り解こうと、キメラが力む度に軋む音がする。

 「…無駄だ。それはお前には切れない。我が魔力で編み込んだ特別製だからな」

 ちょうどその時、ドームの中に入ってきたユラントフを土煙の中に見つける。

 「ついでだ。あの青いのも片付けるか」

 すっと手首をひねり、パチンと指を鳴らすと、キメラに張った赤い蜘蛛の巣は熱を発し始め一つ目の爆発を起こす。

 ―ドォン!


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