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イラストレーター志望のおっさんが書いたものです。小説?処女作。
竜と呼ばれる生物が居る。巨大な身体を硬い鱗で覆った空飛ぶトカゲ。火を吹き、鋭い爪牙で破壊の限りを尽くす強者。―そう、かつて彼ら竜族が世界の覇権を握っていた時代もあったのだ。―しかし、そんな時代もいつのことか。
今はアリスト新暦五九六年の春。十年前まで続いた隣国との小競り合いも終息した、この王制集合国家「アリスト連合国」には平穏と呼べるだけの日常が戻っていた。
「―はいはい、わかってるってば。……え?いや、それはちょっと…」
街を歩きながら一人、歯切れの悪い返事をしている少年。独り言にしては大きいその声は、彼の首から下がるペンダントに向けられていた。
「―わーかりました、わかりましたよ。従・い・ま・す。えーえーはいはい」
フードに隠れてその表情は周囲には見て取れないが、明らかに妥協したであろうその返事から、相手との立場の違いは見て取れる。
その旅人にしては小荷物で、何処か小奇麗な服装の少年は、アリスト連合国中枢である、王城へと延びる道幅十メートルほどの大通りを、大きな独り言を呟きながら足早に登って行った。
―はぁ、と溜息が漏れた。
先ほどまでの小言には妥協と云う名の終止符を打ち、その後のお説教には沈黙と云う名の逃避行を演じたのだ、疲れもする。なんて格好付けた言い回しを考えて少し恥ずかしくなり、薄く頬が染まる。
「どうかされましたか?」
隣を歩く若い女官に、俯いた薄く桃色に染まるそれを覗かれた。
「っ、なんでもない!」と反射的に両手を顔の前でばたつかせて、相手との距離を取ろうとする乙女の如き行動。おまけに声が裏返った。恥ずかしさ倍増し。
―処女か、お前は。
冷たい声音で放たれた一言が、彼の冷静さを取り戻させる。
「ブラッド」。それが、その声の主。今はペンダントに埋め込まれた宝石に封じられた、かつては竜と呼ばれた者の成れの果て。
(うるさいよ!こんなんでも二十歳間近の男だ!)
身の丈一六〇と少し。金髪碧眼に透き通る様な白い肌はまるで少女のそれだった。隣を歩く女官も似たような感想を抱いていることだろう。可愛いと言いたげな瞳がこちらを見ている。恥ずかしさでもう一度俯き直した青年は、そのまま女官の背中を追いかけ続けた。