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2/開幕前

2015/7/4 修正

 目が覚めた。暗い暗い闇の中だった。水の中にいるような、心地いい浮遊感の中にいる。ここはどこだ、夢の中なのか?

 記憶が霞んでいて、なぜここにいるかぱっと浮かばない。


(なあ、由井。どうして俺がこんなところにいるか、わからないか?)


 ……返事は無い。どういうことだ、今まで生きてきて彼女たちから返事がなかったことなんて、俺の思い出せる限りだと一度も無いはずだ。

 いや、生きてききて――あ。


「っ、ぶお…っ」


 思い出した。最後のあの感覚。自分という存在が、肉体がばらばらに引きちぎられる感覚。こみ上げてくる吐き気を我慢できずに嘔吐する、が出てくるのものが出てこない。気持ち悪い感覚が残るだけだった。


「目覚めましたか。気分はどうですか」


 不意に目の前に浮かんだのはプロジェクターに移されたような映像だった。いや、違う。まるでゲームのポップアップしてくるウィンドウのように、俺の目の前にそれは浮かび上がってきたのだ。聞こえた声は電子音のようなもので、非常に聞き取りにくい。

 ウィンドウに映されているのは白と黒のノイズ画面。


「最悪だよ、これでいい気分っていうやつはとんだマゾだ」


 相手が人でなければ言葉もすらすらと出てくるものだ。


「最悪でもこの手続きはしてください。今後に影響を与える、重要なセクションです」


 ぱっとノイズ画面が消え去り、いくつかの項目がある画面へと切り替わった。俺がこれからどうなるかは分からない。このまま死んで意識がなくなる、っていうならそれで構わないが、もし続きがあるのなら、少しでもその続きを良くする為にこの声に従うしかないだろう。


「確認しながらで構いませんので聞いてください。これから貴方には好みの世界を創造していただきます――質問は後で受け付けますので挙げた手を下ろしてください」


 質問は後回しか。というかどこから見てるんだ。


「手順は、一・世界観の設定、二・キャラクター、三・ステータス、の順で行います」


 無機質な電子音による説明が始まった。 


 ・・・

 

 要約すると何でもありだった。まるで俺が神にでもなったかのような自由度だ。どうやらこの自由度は俺の妄想の大きさに依存しているらしく、素晴らしい世界をお持ちでと褒められた。ただの妄想だが褒められると鼻が高い。生まれて二十七年の妄想は重みが違うのだ。


 世界観についてはほぼ俺の妄想そのままを希望した。どうやら妄想どおりになるらしい。妄想で足りない部分はオートで生成されるとか。大陸に住まう民族やら所謂モブキャラなどのことであろう。敵となる相手も生成してくれるようだ、主となる部分は俺の妄想に寄るらしいが。初めから理想通りの世界は作れないらしい、俺が「敵」を「倒した」結果の妄想を続けていたからだとか。


 次にキャラクター。当然今まで縋ってきた彼女たちも出てくるようにした。神崎由井や矢島瑞葉たちのことである。これから想像される世界では彼女たちと脳内会話だけでなく、実際に声を交わし、触れ合うことができるのだ。体温のある、一人の人間になるという。

 ああ、感無量。


 ステータスの設定では善・悪の二種のパラメータがあるらしく、俺は迷い無く善を選んだ。英雄は善というイメージを持っているのもあるのだが、どうせ剣を持てるなら誰かを救う為に振りたいものである。


 ゲームでいう初期スキルも選択できるようで、この数の多さから自由に選べるということは、やはりこれも妄想の大きさに依存しているのだろう。イメージでいうと、平均で二十ポイントしかないものが二百以上あると思ってもらえればいい。

 凄く時間を掛けて選ばなきゃいけないものだろう、何にするか。


「あのさ、このパラメーターって対人関係やら精神力とか、そんなコミュニケーションを取るのに関係するのってないのかな……?」


「残念ながらありません。精神に関しては、貴方が研鑽を積み磨き上げてください」


 てっとり早くコミュ症は治らないようだった。


 最初のステータスに関わり、影響が大きそうなのは以下の通りだ。


・生命力増加Lv1~Lv5

・魔力増加Lv1~Lv5

・身体能力増加Lv1~Lv5

・魔術耐性Lv1~Lv5

・武器熟練(剣・槍・杖・拳・短刀)格Lv1~Lv5

・武器スキル取得Lv1~Lv5

・魔術スキル取得Lv1~Lv5


 バグかなにかか、スキルという項目を考えなければこれらを大体取得できる。ウィンドウから響く電子音声によると、Lv1で平均程度の才能、Lv2あればト才能あるな、という程度。Lv3もあれば確実に天才、と褒めちぎられ、最大のLv5を持てばその分野で神と呼ばれてもおかしくないレベルになるらしい。

 ……問題はスキルと打たれたタブの方だった。


・両利き(右腕、左腕共に同じ練度になる)

・才能(全てのステータス上昇、スキル習得に影響)

・先天性魔眼(ランダムで魔眼を持ち生まれる)

・無詠唱魔術行使(魔術を詠唱無しで使用可能)

・禁忌(禁忌に触れることが可能)

・パラメーター視認(数字でステータスを視認できる)


 他様々な心躍るものが数多くあり、それらが全て有効かつ、消費ポイントが馬鹿みたいに大きかったのだ。俺が最初から持っていたポイントでも全てを取るのが到底不可能なほどに。

 

「……なぁ、この魔眼っていうのはなんなんだ?」


「それは貴方が妄想した中から選ばれます。ナビを勤める私よりも、貴方のほがより多くの知識を持っているでしょう」


「正直なところ、ここに来てから妄想を思い出すのが難しいんだ」


 由井も瑞葉も妄想できないからこれは本当のことだ。さらさらとどこかへ流れ落ちていってるような、そんな錯覚すら覚えるほどに曖昧になっている。


「回答しましょう。世界の生成に貴方の妄想の記憶を使わせて頂いています、酷く曖昧になると思いますが一部の妄想は残りますのでご安心を」


 ……なんでもありだね、ほんと。

 

 別にこの先の世界があるだなんて完全に信じたわけでもない。ただこういうのが好きなだけなんだろうな、きっと。死んだ感覚は凄いリアルで吐き出しそうになるし、あれが夢であればいいと思う。けど、それが夢であったとして、あの繰り返しの輪の中に戻るのも嫌だと思う自分がいるんだ。色褪せた中で輝いているのは妄想だけ、っていう人生。ああ、とてもつまらないと思う。

 ならこの先に新しい世界があると思ったほうが気が楽だ。夢だったらまた由井たちと笑い話にすればいい――。


「決めたよ、これでいいか?」


 ウィンドウをタッチして項目にチェックを入れ、確認。

 ステータスボーナスはスキルの関係もあり、全て最大にはできなかった。修練で伸びそうなものは控えめに設定した。


・生命力増加Lv4

・魔力増加Lv4

・身体能力増加Lv5

・魔術耐性Lv4

・武器熟練Lv3

・武器スキル取得Lv2

・魔術スキル取得Lv3


 これでも十分にチートキャラだろう。

 迷ったスキル項目は、ほぼ直感で選んだやつもあるがこの通りになった。


・両利き(右腕、左腕共に同じ練度になる)

・才能(全てのステータス上昇、スキル習得に影響)

・無詠唱魔術行使(魔術を詠唱無しで使用可能)

・禁忌(禁忌に触れることが可能)

・パラメーター視認(数字でステータスを視認できる)


 この中でも特に必要ポイントが高かったのは【禁忌】というスキルだった。どう関わってくるかは分からないが、ほぼ直感で選ぶことにした。このスキル一つだけで俺がもっていた莫大なポイントうちの半分近くを使っているのだから困る。ソレ相応のリターンは欲しい、が人生二週目始めるまで効果は分からない。ナビ役らしい人口音声もこれには答えてくれなかった。 


 パラメーター視認というのはどうやらゲームのように自分や人のステータスを視認することが可能なスキルらしい。あって困ることはないので取っておくことにした。魔眼は諦めた、莫大なポイントを使いランダムっていうのはね。

 

「では、これでよろしいですか? これ以降の変更はできませんが」


「構わないよ、これで頼む」


「了解しました。貴方はこれより、望んだ世界への転生を果たします。名前も姿も変わるでしょうが落ち着いて行動してください」


「そういえば名前はどうなるんだ?」


「……それは貴方の親が決めることです」


 気のせいだろうか、少しだけ電子音声の声に温かみが混じった気がした。表情として視認できればきっと微笑んでいるのだろう。そう、俺の妄想が語っている。


「それでは貴方が英雄で有り得ることを。転そ……開……」


 ザッというノイズがウィンドウに走り画面が乱れ始めた。読み込み中というゲージが表示され、ゼロから最大へと上がっていく。……今のノイズはなんだったんだ、変なことが起きなければいいのだが。乱れた画面は戻ることなく、ゲージが進んでいくだけの時間が過ぎ、もう少しで満タンになり読み込みが終わるということで。


「――お前か、今度の英雄は」


 低く重い男の声が鮮明に聞こえ、身体が震えた。本当的な恐怖だった。

 にも関わらずゲージが満たされ完了の文字が見えると同時に、すとんと俺の意識は暗闇のそこへ落ちていった――。


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