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彼方と涙と私と詩  作者: 中川 渉
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おじさんとの出会い

7月25日

ジリジリと陽射しが照りつける昼過ぎ、駅を出て人通りが多い場所に大きな音を立て荷物を下ろした。というより落とした

『ついに、私も都会人だ』

心では【まだ早いかぁ】と思いつつも体が先に東京の雰囲気に汚染され口が動いてしまう

『さてとこれからどうしよっかな…とりあえず歩いて徘徊するか』

上京するにあたって宛もない私は先ずは歩いて考える事にした

『荷物邪魔だな‼ロッカーは何処かな?』

辺りを見渡すとすぐ目の先にありピンクのキャリーバッグを1つと人が悠々入れそうな旅行バッグを無理やり押し込もうとする。が全然入る気配がない

『無理、このロッカーのキャパでは私のライフは入りきらない様ね』

東京の雰囲気に汚染されたのか誰もツッコミが入れれない状態で私はわけのわからないロッカーに対する不満感を漏らす

『そこの可愛いおねぇちゃん』

ナンパ⁈ここに降り立ってまだ10分も立たないうちに、【私はやっぱり魅力のある女ね】と心の中で自画自賛しながらゆっくり髪をかき上げながら振り返る

『荷物大変そうだね。と言うか良く持ってこれたもんだねこんな大荷物をこんな細いねぇちゃんが』

普通のおじさん、髭で口の周りを保護しているおじさん

【あっ】恥の余り、何処から出たかわからない、【あっ】が口から漏れる。

細いとか言ってるけど身長162センチの52キロ。決して痩せている訳ではない。ただ地元では結構可愛いと持て囃されていた私だけに自画自賛して反応した自分が恥ずかし、耳がにわか赤くなり答えた。

『そ、そうなんです。今さっき神奈川県のど田舎から来てここら辺を見て回りたいんですけどに荷物が入りきらなくて。』

動揺して、私の素性を軽く話した事に『しまった』と思いつつおじさんは話を進める

『そうだったんだね。お疲れ様でした。』

見ず知らずの人にお疲れ様など言われても

【どんなけ疲れてるかなんてわかるわけないだろ】と言いたい。

『荷物入らないんだろ?じゃあウチに荷物置いとくかい?こう見えてもお店やっててね。すぐ近くだから。』

私の間を待たずしゃべるおじさん。ただ別におじさんの事は聞いてないし、興味が無いと思いながら答える

『いや結構です。そんな見ず知らずの人に荷物預けるなんて物騒な事出来ません。私の大事な物もあるし』

私の後ろから突き出た黒い物を主張しながら目で上を見ながらおっさんを拒絶する

『ギターか…ミュージシャン?』

『さぁどうですかね。』

私はおじさんを凍える様な冷たい目で見ながらさっくり言葉を返す

『確かに今始めて逢ったのに信用できるはずないわな?』当たり前だおじさん。と心で叫びながら10秒ほど両者ジャンケンで何を出そうか決めている様な状況で向かい合い沈黙が続く。決心がついたのかおじさんから【最初はグー】の掛け声が聞こえた様な気がした

『だったら特にする事も無いだろうし、内のお店を見てから決めたらいいんじゃないかい?』

これでは決着がつかない。また私が【結構です】と言ったところで同じ事をしつこく言われて長期戦になるだろう。まぁ今のところ目的も無いし付いてって危なそうだったら逃げれば良いかと一瞬心を許す

『じゃあ…!』口に出した瞬間に頭の中で悲劇の映像が浮かぶ。おじさんが私を見てクエスチョンマークを飛ばしているが完全無視。そして妄想に耽る

【言葉を全て発する前に気づいて良かった】私はこの誘いに安易に乗ろうとしていたとホッと肩を撫で下ろした。今最後まで言葉を発していたら私は明日ニュースで【21歳女性、強盗殺人か?】で報じられていたかもしれないとゾッとした。

しかしこのおじさんは怪しい。見ず知らずの人にこんな優しいのには何かある。

しかも私の予定が無い事もばれている。実は心が読めるのでは、と閃き顔でおじさんを見つめながら私は最終戦の心意気で 【アイコで】と心で叫ぶ

『おじさんの店は占いのお店でしょ!私がこんな大荷物を抱えているのに予定無いなんてわかるはずがないわ。観光しに来たかもしれないじゃない。私占いを全く信じていないの。だって占いを信じてる人に未来に楽しさは無いと思うし、もし占いで全てがわかるんだったらもう悲しむ人は居ないでしょ。だから占い師は信用出来ないわ』

決まった。【完全勝利】の文字が頭の上で花火の如く輝いている。

占い師が占い師だと予知されるという前代未聞の出来事をやってのけた私を褒め称えたい

『最高に面白いね君は』

褒められた様なけなされた様なドキマギした気持ちで

『という事は?』

『全然違うよ、けど物凄い気に入ったよ君の事』

おじさん大爆笑。顎が外れてるんじゃないかと思う程の大口で笑う。ぶっ飛ばしたい…

私は完敗した。【アイコで】と心で叫んだ時点で、いや【最初はグー】の時にペースは向こうにあったんだと顔全体を赤く染め、腹立つ私に追い打ちをおっさんがかけて来る

『因みに行っとくとだね。さっき言ってたじゃないか徘徊とか。観光に来た人がそんな事言わないだろうし。そんなギターまで持って観光に来る人少ないだろと思ってね。』

ニヤニヤしながらおっさんがいってくる。

『あとライフとかごちゃごちゃ言ってたじゃないかぁ!生活するってことだろ』

またまた大爆笑するおっさん。あぁホントにぶっ飛ばしたい…

噴火寸前で気持ちを抑え、完敗をきした私は

『参りました。私の負けです。お店連れて行きなさい』

イライラしている私をそっちのけに、おじさんは【よしっ】と言いながら私の重い旅行バッグを担ぎ上げ、キャリーバッグを引いて人々の中を通り抜けて行く。

私はジャンケン大会、完敗の深手を負いながら交差する人々に対応出来ないながらも必死におっさんの後を追っかけた。

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