70 【関係】
翌日、遥季と悠依を学園に登校させた陽翔は、何度目かの黎羽に呼び出され、蓮華の社へと来ていた。
(今度は何の話だろう……。いっつも怖いからなぁ)
陽翔が苦笑いを浮かべていると、社の引き戸が開いた。
「何を笑っている、蒼麻陽翔だな?」
「あ、はい」
「来い、黎羽様はいつも通り怒っているぞ?」
(やっぱり~……)
奥に案内された陽翔は早々に黎羽の社へと飛ばされた。
***
「おいっ!」
「あっ、黎羽様! おひさしぶりです!」
「お久しぶりです! じゃないだろう? いつまで悠依に黙っているつもりだ」
「――やっぱりそのことですか」
「わかっているのなら……」
「そう簡単には言えないんです。遥季との関係もあるし、犬榧はまだ僕が兄だと信じてるんです、悠依ちゃんと遥季、2人を一緒に混乱させるわけには……」
「ふむ、別に良いではないか。悠依にしろあの犬にしろ、そんなことで態度が変わるようなやつではないだろう」
「でも……」
黎羽は陽翔のどっちつかずの態度に苛立っているようだった。
「ああ、しつこいな! さっさと言ってしまえば良いのだ! おぬしは悠依の兄なのだぞ!? わかっているのか! 父を亡くしたも同然、母も亡くした悠依の、残っている最後の家族なのだぞ!?」
「黎羽様……。なぜそこまで」
「気分が悪くなるのだ。おぬしを見ていると。言いたいことも言えず、うじうじしている……。言ったら良いのだ、おぬしの言いたい相手はすぐ近くにいるのだから……」
黎羽は顔を伏せ、悲しそうな表情を浮かべた。
「黎羽さ……」
「私の話はこれで終わりだ。もう戻れ」
***
「ん……」
「酷く絞られたか?」
蓮華はフッと鼻で笑った。
「思ってたよりは優しかったです……」
「そうか、まあ、自分の道だ。長いようで短い道、後悔しない道を行くといい」
「はい。わかりました。失礼します!」
陽翔が社を出ると日が傾きかけていた。
(そろそろ帰ってくる頃かな? 買い物していかないと……)
陽翔がスーパーで買い物をし帰宅すると、すでに遥季は帰ってきていた。
「ああ、おかえり!」
「どこ行ってたんだよ? 今日休みだったんだろ?」
お菓子を咥え、遥季はソファでくつろいでいた。
「ごめんごめん、ちょっと用事があってね。今晩御飯作るから」
「ふ~ん。無理すんなよ」
「何? 兄ちゃんのこと心配してくれてんの?」
「ばっか! ちげーよ!」
(まだ、この関係でいいか……)
そう思った陽翔だった。




