67 【真実】
「まず奥様の方ですが、そちらについては娘さんの悠依さんの方がお詳しいかと思われます……」
十六夜は目を丸くした。
「と言いますと?」
「私が知っているのは、娘さんを育て、病気で亡くなったと言うことだけですので……」
「そうなのかい? 悠依ちゃん」
十六夜に尋ねられた悠依は懐かしい記憶を思い返していた。
(確かに私が13歳のとき、お母さんは病気で亡くなった。――この人の言うことは間違ってない)
「はい! あってます」
「そうか、瑠李のことは悠依ちゃんに聞くべきだったな……。すみません、続けてください」
「――わかりました。ちょっとお待ちください」
不知火はスッと席を立ち、机の引き出しから古びたノートを持ち、戻ってきた。そしてそのノートを見つつ、不知火はポツリ、ポツリと話しだした。
「先程も言いましたが、私の知っていることだけをお教えしましょう。3千年前、彼は次々と消されていく神、いや、友人たちを前に我を失う寸前でした。しかし、彼一人が戦ったところでとても敵う相手ではない、と間一髪逃れることが出来た黎羽様が止め、その場は収まったのです。問題はその次でした。実栗が犬榧を排除しにかかったのです。元々、実栗の理想は非科学的な存在を抹消すること。それには犬榧でさえも、邪魔だったのです……」
不知火が話していると、ふと扉が開き、空木が入ってきた。
「お話中すみません、お飲み物をお持ちしました」
「ああ、悪いな」
「すみません……。いただきます」
「失礼しました」
空木が出て行った後、不知火は一口コーヒーを飲み、再度話し始めた。
「そしてそのあと、実栗は警察に、自衛隊、部下など、総力を結集して徹底的に犬榧を迫害していきました。しかし、犬榧は実栗に薬を打たれ暴れただけであって、元々神たちや仲間の鬼天狗たちには何の恨みもなかったので、徹底的に逃げたと言います。ついに追い詰められた犬榧は山の中、明羽の社へ戻ったそうです。そこに隠れていた犬榧を救ったのが、貴方のお父様、幽羽様です」
「父が……」
(遥季が言ってたことは本当だったんだ……)
「ええ、幽羽様は実栗の策略を知り、犬榧を探していたらしいのです。そして犬榧を見つけ、保護した。その行動が、実栗の反感を買ったのです。しかし、実栗が幽羽様を見つけたとき、そこに犬榧がいなかったと言っていました。『あの鬼天狗はどこに行った』と実栗が尋ねると、『私が殺したのです、何か問題でも?』と答えたと言います。その態度に実栗は激昂し、この世界からの追放、つまりあちらの世界での神に就任させた、と言うことです」
話し終わると不知火は手にしていたノートを閉じた。
「以上が私の知っている幽羽様についてです」
「あの、もうひとつ……」
「はい?」
「あちらの世界にいる父と、コンタクトを取ることは可能なんでしょうか?」
悠依の言葉に不知火の顔は一気に明るくなった。
「悠依さん、今私はそのことについて研究しています」
「研究……?」
「はい、今はまだ出来ませんが、近い将来、必ず、必ず出来るようにしたいと思っています。それが私に出来る、唯一の方法ですから……。そのときは、悠依さん、貴方に連絡差し上げます」
不知火は目を潤ませ、悠依を見つめた。
「――よろしく、お願いします」
(この人は、奥さんを止めたくても止められなかったんだ……)
「たいしたお話も出来ませんで、申し訳ありませんでした」
「いえ、十分です! 本当にありがとうございました」
「悠依さん、十六夜さんも、どうかお元気で……」
「不知火さんも」
「では失礼します」
こうして、2人は不知火の屋敷を後にしたのだった。




