52 【真実】
「なんで? いつから……?」
「いつから? ぬるいこと言ってんなよ、気付かなかったのか? 自分の兄だろ?」
「……兄? 誰が?」
「は? まさかお前何も知らずに育ったのか?」
犬榧は“はーっ”と深いため息をつき、頭をかくと
「悪い、聞かなかったことにしてくれ」
と言った。
「え?」
「だから聞かなかったことにしてくれ。お前に兄なんていねぇよ」
「……」
悠依が納得いかなそうにしていると犬榧は悠依を挑発するように言い放った。
「それよりいいのか? オレを倒さなくて。倒せと言われたんだろ? 言っとくが、オレを倒したとしても遥季の意識が戻るかは知らねぇぞ」
「え、なんで、だってあなたが遥季の意識を乗っ取ったんじゃないの?」
「もしお前の言ってる遥季が引っ越す前の幼い遥季のことなら、そいつはとっくの前に死んでる。高校に入ってから再会した遥季のことを言ってるならそれは今のオレだ」
「――ちょっ。ちょっと待って? さっきから何を言ってるの。遥季は死んだ? 高校からは今の俺が遥季?」
「そうだ。本物の遥季は5年前お前が引っ越した直後に、風邪をこじらせて死んだ。正確には遥季の“肉体”が死んだだな。精神は今も生きてるが、滅多に出てこないし出てこられたとしてもほんの少しの時間だ。そっからはずっとオレが遥季のフリしてきたんだよ」
「……」
悠依は混乱していた。知らない間に遥季が亡くなっていた事実、付き合っていたのが因縁の相手犬榧だったという事実。この二つの事実のどちらともが悠依は信じることの出来ない真実だったのだ。
「泣くなよ悠依」
「泣いてない……」
口ではそう否定した悠依だったが、悠依の目からは大粒の涙がこぼれていた。
「一応言っとくとな、オレを遥季の体に入れて乗っ取らせたのはお前の父親だぞ」
「お父さんが……?」
「ああ、生まれつき体が弱かったからな。少しでも強く、もし仮に死んだとしても遥季のように振舞って悠依を助けてくれればって言われて入れられたんだ」
「――でも、それじゃあなんでお父さんを殺したの……」
「は? オレじゃねぇよ? 幽羽はオレを匿ってくれたんだ。でも、そのせいで学園に目をつけられた」
「学園って……。じゃあ学園長が!?」
「正確には前々学園長な。今の学園長はいい人だぞ? あの人オレの存在も知ってるし、悠依のことも助けてくれるからな」
「じゃあなんで今日、呼び出されたの?」
「それは僕の口から話そうかな?」
背後から聞こえたその声に悠依の止まりかけていた涙が再び零れた。




