51 【対戦】
「嘘……ですよね? なんで、だって、あれは……」
「あれは確かに遥季だよ。姿も声も形も全て遥季。ただ、意識を犬榧が乗っ取っているだけ」
「え、わ、私はあれを倒すんですか?」
「倒さなくていい、せめて大人しく、遥季から引き剥がすだけでいい。重く背負わず、遥季を助けてやって」
「助ける……」
悠依は少し考え、
「私はどうしたらいいんですか?」
と、陽翔に尋ねた。
「これを使って?」
陽翔が差し出したのは長い槍のようなものだった。
「これは?」
「実体は傷つけず、幻霊のみを傷つける。幻霊槍という。これなら遥季は無傷で犬榧だけを攻撃できる」
「――わかりました。やってみます」
「気をつけて、悠依」
悠依は槍を手に持ち、遥季へと向かう。
「ごめんね、遥季。早く終わらせるから……」
その言葉がきっかけになったのか、犬榧と悠依の戦いは一気に激しさを増した。犬榧の蹴りで悠依が吹っ飛び、悠依の剣撃で犬榧が舞う。まさに一進一退の攻防が繰り広げられていた。おまけに悠依も犬榧も空を飛ぶため、戦いの場は陸だけでなく空中戦へと発展していた。
「はぁ、はぁ……」
「何だ、もう息上がってんのか?」
犬榧の挑発に悠依は決して耳を貸さなかった。むしろ、悠依の眼は遥季をみつめていた。
「行くよ遥季……。これで終わらせる」
「来いよ、2代目」
キンッ、キンッと金属音が鳴り響く戦いの最中、悠依はあることに気がついた。幻霊槍を使っているはずなのに遥季の体が傷ついているのだ。
「陽翔さん! この槍……っ!」
悠依が陽翔に聞こうと振り返る。しかし、その目線の先に陽翔はいなかった。そしてその背後から忍び寄る影が……。
「残念だ。 君がそこの陰陽師くんを倒してくれると思ったのに……。まあそいつ、“遥季じゃない”んだがな」
「えっ?」
悠依が振り向くとそこには刀を両手に持ちその切っ先を悠依に向ける陽翔の姿があった。
「どういうこと……ですか」
「わからないか? 俺は犬榧。“遥季の意識を乗っ取って陽翔に成りすました”犬榧だ」
「えっ……? 何? 何を云ってるの?」
「本当に分かんねぇか? こっちの、今お前が話している方が犬榧だって言ってんだ。じゃあ、さっきまでお前が戦ってた方はどうなる?」
「――まさか、そっちが本当の陽翔さんだっていうの!?」
「ふっ、ご名答」




