48 【葛藤】
陽翔との特訓をはじめ、半年ほど経ったある日。ふと、悠依が陽翔を呼び止めた。
「陽翔さん……」
悠依は黎羽のように変わった姿で泣きそうな顔をして振り返る。
「――本当に倒さなきゃいけないんですか?」
搾り出すように発したその声はきっと悠依の本心なのだろう。
しかし、悠依の願いは叶えられない……。
「悠依ちゃん、それは……」
「すみません、分かってます。犬榧は倒さなきゃいけない、って。分かってるんです……けど」
悠依は泣きそうな顔で唇をきつく噛み締め、俯いた。
(ああ、こんなときはなんて声をかければ……)
陽翔は悠依の気持ちが痛いほど伝わってきた。“彼氏”を倒さなくてはいけない悠依と“弟”が標的の陽翔。そんな陽翔は未だ俯いたままの悠依に向け、言った。
「悠依ちゃん、確かに犬榧は倒さなきゃいけない、でも、“倒さなきゃいけない”じゃなく、“助けなきゃいけない”って考えたらどうかな?」
「……助ける?」
「そう。なにも犬榧が憑いた人ごと倒さなくても、“犬榧が憑いた人を助けて犬榧そのものを倒す”って考えたらどうかな?」
「……」
悠依はまだ納得していない様子だった。
「倒す、ってよりは助けるって考えればまだ楽じゃない?」
「……はい!」
「じゃあ特訓再開しようか?」
「はい! お願いします!」




