44 【逆転】
「いや~すごかったよ、悠依ちゃんの舞。架威もあんなに踊れるとはね」
「あ、ありがとうございます、陽翔さん!」
目立った失敗もなくステージ発表を終えることが出来た悠依と架威の2人は陽翔とともに次の遥季の発表を待っていた。
陽翔はふと、不思議そうな顔をすると、
「そういえば遥季って何の役なの?」
と2人に聞いてきた。
「えっと……」
考え出した2人は自分達も遥季の役を知らないということに気が付いた。薙癒は物語の中心人物の姫様役と聞いた。しかし遥季は何度聞いても「教えない。てか見に来なくていい」の一点張りだった。
「私もわかんないんです……。遥季、何回聞いても教えてくれなくて」
「えっ! 悠依ちゃんにも教えてないの?」
「はい……」
悠依が俯きしょんぼりしていると、突然架威が
「教えてやろうか?」
と言ってきた。
「「えっ!?」」
悠依と陽翔は声をそろえて驚いた。
「知ってるの? 架威」
「ああ、遥季のことならたいていわかる。出てきたら教えてやるよ」
「ありがとう!」
数分後――
映画館のようなブザーが鳴り発表が始まった。そして開始から何分も経たないうちに架威が指を指し言った。
「遥季、あれだぞ」
「え?」
悠依が指の方向に目をやるとそこにいたのは美しい姫だった。
悠依は小声で、
「ちょっと架威。薙癒じゃなくて遥季の役が知りたいの!」
と少し強い口調で言った。
しかし架威は
「だからあれだって」
と変わらずに姫を指差し続ける。
いよいよ悠依が苛々しはじめたとき、隣にいた陽翔が“ああ~”と何かに納得したような声を上げた。
「悠依ちゃん。あれ女の子に見えるけど確かに遥季だよ」
「えっ!?」
驚き呆然とする悠依を横目に架威と陽翔は話し続ける。
「だから言ったろ、あれだって。さっきの女装と男装のペアのやつと一緒だよ。薙癒が王子の方をやりたいって言ったんだと。んで、王子役だった遥季が姫役をやることになったんだとよ」
「へぇ? 薙癒は男装癖があったの?」
「いや、別にそんなことは。今回で目覚めた、って感じですかね」
「なるほど」
我に返った悠依は疑問をぶつけた。
「でもなんで声まで変わってるの? それに身長も、骨格も違う気がする……」
「簡単なことだよ。大方、魔術でも使っているんだろう。でも……」
そこまで言うと陽翔は目を細めステージを見て、
「――ちょっと雑かな?」
と言った。
「そうなんですか……」
この日、悠依は初めて陽翔の本性を垣間見ることが出来たような気がした。




