41 【星劉祭】
約1カ月後、星劉祭は無事開催された。
「ありがとうございました~」
ふう、と小さく息をつき悠依はすっかり和風に飾り付けられた教室の壁に寄りかかる。
結局悠依のクラスは和服で茶屋を、遥季のクラスはゲームのような格好でRPG喫茶というものを出店することになった。
(疲れた……)
疲労の色を隠しきれなくなってきた悠依に追い討ちを掛けるように来店を知らせる鈴の音がした。
「いらっしゃいま……あ、陽翔さん!」
「やあ悠依ちゃん。可愛い格好してるね。ここは、和がコンセプトなのかな?」
「ありがとうございます! はい、あんみつとか抹茶とか売ってますよ?」
陽翔の顔が一瞬にして明るくなる。
「メニューを見せてくれるかな?」
「はい! こちらへどうぞ」
陽翔は席につくとすぐさまメニューを手に取り食い入るように凝視した。
「決まりましたらお呼びください」
陽翔は悠依を呼び止め満面の笑みで言う。
「あ、待って悠依ちゃん! あんみつと、抹茶と、大福、最中、白玉パフェを1個ずつ下さい!」
「え、っと。そんなに頼んで大丈夫ですか?」
「大丈夫! 今日朝から何も食べてないんだ~」
サラッと衝撃の告白をした陽翔。しかし、悠依は違うところで心配になった。
「――足りますか?」
陽翔は微笑んで答える。
「遥季の店も行くから大丈夫、悠依ちゃん休憩ってもう終わった?」
「まだですよ?」
「じゃあ休憩になったら遥季の店一緒に行かない?」
「いいですね! 行きましょう!」
「よかった」
「それでは少々お待ちください」
数分後――
「お待たせいたしました!」
机の上いっぱいに並べられた食べ物の数々に感嘆の言葉を漏らす陽翔。
「わぁぁぁ……。食べて良い?」
「もちろんです!」
「いただきます~」
陽翔は瞬く間にぺろりと完食した。
「ご馳走様でした」
「わ! 陽翔さん早いですね」
「あ、悠依ちゃん。美味しかったよ~ご馳走様」
「いえ、こちらこそ! ありがとうございました」
「それじゃあ行こうか?」
「はい!」
遥季は悠依の姿を見つけると不思議そうな顔をした。
「悠依? 早いな。もう休憩か?」
「ううん、少し早めにしてもらったの。陽翔さんがきたからね」
「やぁ遥季、なかなか面白い格好してるね」
「兄貴!? なんで……」
「なんでって失礼な。弟の晴れ舞台なんだから来るのは当然でしょ?」
「そう思うなら俺のクラスに来るだろ、普通」
「だってどうせなら悠依ちゃんも連れて行ったほうが遥季喜ぶかと思って」
「ちっ」
遥季が去って数分後――。
「悪い! 遅くなった」
「休憩もらえた?」
「おう、回ろうぜ!」
「うん!」
悠依は学校中の視線を集めた。浴衣姿の女子と剣士の格好をした男子、それだけでも目を引くがその2人が生徒達の噂の対象となればなおさらである。現に悠依達が星劉祭を楽しんでいる今、この時でさえもこそこそと潜めた話し声が聞こえてくる。
するとそれまで笑顔で話していた遥季が急に真顔になった。
「――悠依」
「ん?」
「お前はもう少し素直になった方がいい」
悠依は首を傾げる。
「なんで?」
「お前、なんでもかんでも心の底にしまい込むだろ? 俺はそれを見るのが辛い……」
「遥季……?」
真面目な顔の遥季に見つめられ悠依はどうしたらいいのかわからなくなっていた。
「あ、えっと、気をつけます……?」
「ああ、じゃあ行こうぜ? メインイベントだ!」
遥季は悠依の頭を撫で体育館へと向かった。




