37 【3日目】
「おい馬鹿、いつまで寝てるつもりだ」
次の日、悠依は誰かに蹴られる所から始まった。
「痛っ! ん……架威?」
「遥季はどこに行った?」
「あぁ、遥季は陽翔さんについてったよ」
「そうか」
そのまま去っていった架威とすれ違い薙癒が入ってきた。
「あ、起きた?」
「うん、薙癒おはよ」
「おはよう!」
昨日、“敬語で話すのはやめる”と決めた2人の距離は一気に縮み「今日はどこ行く~?」「どうしようか?」「買い物したいな~」「またー?」などとキャイキャイ女子トークをしている。
するといつの間にか戻ってきていた架威が着替えていた。
「どうでもいいが、早く決めてくれ」
「街ブラブラしようかと思って」
「そうか」
こうして天曳に着いて2日目。
天曳旅行3日目は買い物と観光の1日となった。
***
部屋に着いた悠依はクタクタだった。
「はぁ~。疲れたぁ」
薙癒は心配そうな顔をしてペットボトルの水を差し出した。
「大丈夫? 悠依」
「うん……」
ふと見てみると、架威と薙癒の2人は息こそ切れているものの疲れている印象は受けなかった。
「2人とも疲れないの?」
「俺達は基本遥季の映し身だからな。遥季が風邪とか引かない限りは平気だ。怪我とか傷とかは遥季に関係なく反映されるがな」
「そうなんだ、なんか便利なのか分からないね」
架威は不敵な笑みを浮かべた。
「別に、怪我しなければ良いだけの話だろ」
“俺は怪我なんてしないからな”というような勝ち誇った顔をした架威の背後、引きつった笑みを浮かべる遥季の姿があった。
「へぇ? お前そんな風に思ってたのか。なんなら少しの傷でも数倍の痛みが反映されるように改良してやろうか?」
「おかえり!」
遥季は柔らかい笑みを浮かべ悠依の頭を撫でた。
「ただいま悠依」
「どうだった? 陽翔さんの仕事」
遥季は苦い顔をした。
「難しいな、まだ全然だよ」
悠依が何て言おうか迷っているとガラッと襖が開いた。
「そんなことないよ?」
「陽翔さん! おかえりなさい」
「ただいま悠依ちゃん」
陽翔は先程の遥季と同じように柔らかい笑みを浮かべ悠依の頭を撫でた。
「学園長も褒めてたよ。最初からこれだけ出来れば良い方だって」
「すごい! さすがだね遥季」
遥季は浮かない表情だった。
「でももっとちゃんとできるようにならないと。悠依のために」
「焦ると失敗するよ。遥季、学園長が君さえよければまた来て欲しいと言っていた。返事は星劉に帰るまで。考えておいて? あ、悠依ちゃん。僕明日休み貰ったからドライブにでも行く?」
「本当ですか!? じゃあ陽翔さんも一緒に回れるんですね! よかったです、渡せないかと思ったー」
陽翔は首を傾げて聞いた。
「渡す? 何を?」
「あ、そうですね! じゃあ今渡します!」
悠依は自分のカバンから小さな袋を出した。
「はい、どうぞ!」
「ん?」
「開けてみてください」
陽翔が袋を開けるとそこにはブレスレットのようなものが入っていた。
「これはブレスレット?」
「あ、いえ、ブレスレットにも見えますけど、アンクレットというものです。足首につけるものらしくて……私たちとお揃いなんです。陽翔さん、仕事してるからアクセサリーとかダメかなって思ってだからあまり目立たなそうなアンクレットにしてみたんですが……」
「可愛いね。ありがとう! 明日からつけるよ」




