31 【黎羽】
「失礼します、黎羽様」
「どうした? 藜、何かあったのか?」
「来客です。――それも、幽羽様に関係する方かと」
“幽羽”と名前が出た瞬間、黎羽の顔色が変わった。
「幽羽だと?」
「はい」
「なぜここに……」
「陽翔の紹介だそうで、弟さんもいらっしゃいます」
「陽翔の弟……遥季か」
「どうなさいますか?」
「よい。通せ」
「はい」
***
「遅くなって悪かったな」
「あ、いえ。突然押しかけたのは我々ですから」
「主の許可が出た。ついて来い」
「はい!ありがとうございます!」
「それと、そこの白狐!」
「は、はい!」
「お前が俺のあとにつけ」
「はい!」
悠依たちを社の中へ案内した藜はある屏風の閉まっている部屋の前で止まった。
「黎羽様、お連れしました」
「入れ」
「失礼します」
藜のあとをついて中に入った悠依の顔を一目見て黎羽は問うた。
「……おぬし、幽羽との関係は?」
黎羽の口から幽羽という名前がでて悠依は動揺した。
「え、あ、えっと……娘、です」
悠依が答えると感慨深そうな顔で
「――そうか、幽羽の娘か」
と呟いた。
「はい、あの、父とは……」
「あぁ、幽羽と私は世界に2人しかいない“妖狐の神”だ」
「え……でも」
「――なんだ?」
「陽翔さんが“現世各地に社がある”と言っていたのでもっといるのかと……」
「昔はもっといたんだがな、昔といってもおぬしらの生まれる何千年も前のことだ」
「そんなに前……」
「今はこっちの世を私が、おぬしらの言う現世を幽羽が守っている。度々私もあちらにいくがな」
「現世に行くことは可能なんですか!?」
「あぁ、なんだ、おぬし知らなかったのか? 行こうと思えばおぬしも行けるはずだがな……」
「――もし、現世に行けたとして、帰ってくることは可能ですか?」
「私は可能だ。……しかし、悠依といったか。おぬしはわからん。何せ、“神の娘”というのは私でさえはじめて見たからな」
「初めて……ですか?」
「あぁ、普通神は結婚は出来んのだ。 まあ、幽羽は昔からちょっと変わっていたからな」
黎羽は懐かしそうな顔をして悠依を眺めながら言った。
その表情をみた悠依はなぜか悲しくなった。
「――今、父はどこにいるんでしょうか」
少し悩んだ黎羽だったが、ふぅ、と息をついて話し出した。
「悪いが、陽翔の弟よ、式神を仕舞ってもらえるか。 機密情報だ」
「はい」
2人の体は消え、代わりに人の形をした小さな紙が残った。
「それでは話そう。今の幽羽の行方と機密を」
藜が確認するように聞く。
「……よろしいのですか? 話してしまって」
「よい。……このまま帰る者たちでもない」
「――わかりました」
「悠依、遥季、これから話すことは陽翔には言ってあるが、他の者には全て他言無用で頼む」
「「はい」」




