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悪魔の借用書  作者:
第一話 弁護士リベナの斬激爆破
2/32

『公園』

ここからが第一話といった扱いです。

「はあぁ……」


 スーツを着た男は、鮮やかな青を放つベンチに座り深いため息をついた。


 一般にその様子から連想されるのは『解雇』という単語であろう。

 実際、彼……高木俊介タカギシュンスケは大変困っていた。


 しかし高木は解雇では無い。


 寧ろこの頃の勤務先での業績は良く、『ヒトが変わったようだ』と周囲に噂されていた程である。


 高木の性格は『真面目』そのものだった。


 だがその彼は今日、自らのアパートの近所にある公園でベンチに座り、長年真面目に勤務していた会社を無断欠勤していた。


「よぉ高木、久しぶりだな……」


 ベンチに座り塞ぎ込む男に一人、話しかける者が現れた。


「よお……久しぶり……」


 長身で金髪の男、髑髏の描かれたジャンパーを羽織り、穴の開いたダメージジーンズを履いている。


 「どうしたってんだよ、こんな所に呼び出してよぉ」


 二人の姿は対極的で、傍から見れば高木が脅されている様にも見えたであろう。

 彼の名は山口洋介ヤマグチヨウスケ、高木俊介とは物心ついた頃からの幼馴染みである。


 彼は建築現場で働く大工の見習いで、高木と会うのは実に三年振りであった。


「ああ、少し……な……」


 そう力なく言葉を発する高木は、少しやつれている様にも見え、暗い雰囲気が漂っていた。


「金なら無いぞ」


 その様子から、山口は据え置くように高木にそう提言した。


「『そういうの』は一切期待して無いから安心しろ……」


 山口の発言に高木「ははっ」と息を吐くように微笑した。


 しかしソレは心からの笑いではなく、山口もその事を感じ取っていた。


「……俺に出来る事なら協力するぞ」


 山口は高木の横に座り、両の腕を胸の前で組んだ。


 高木は少し驚き山口の顔色を眺め、その後僅かに頬を緩め「ありがとう」と小さく呟いた。


「それじゃあ、話を聞いてくれないか……今はそれだけで良い」


 山口は「おう」と一言発し、自らが頼りにされていることを感じてか満足げな表情を浮かべていた。


 その表情を確認した後一度、高木は素の表情となり顔を前方へと戻した。


「『アレ』……何だか知ってるか?」


 そう言いつつ高木は右腕を挙げ、眼前の虚空を指さした。


「ん?」


 山口は高木の行為に顔をしかめさせ、高木の指の示す先を眺めた。


 其処にあるは、天高くそびえる巨大なる『塔』。


 高木の指をさす『塔』は周囲の風景に馴染まず、一際異彩を放っていた。


 周辺のビルやマンション等は比にならず、それらがまるで米粒のようにも思える程である。


 形状はパイプのような円柱状で、漆器のように黒く染まっていた。


 山口は「ああ」と呟き、何の疑問を持った様子も無く『塔』を眺めた。


「『白鯨の城』だろ? 何を今更言ってんだ?」


 悠然とそびえ立つその『塔』は、この世界の人々から『鯨の城』と呼ばれていた。


 が、その名称を知らぬ者は殆んどおらず、少し知識のある幼児であれば十中八九答えられる程の常識チシキだった。


 勿論山口もその名称は知っており、彼は山口に馬鹿にされたように感じた。


 そして彼は少し苛ついた様子で、横に座る高木を横目で睨むのだった。


 加えて言えば、山口も平日に近所の公園に向かう程の暇人では無い。


 彼は友人の緊急の呼び出しに応じ、最近軌道に乗ってきた仕事をほっぽり出してきたのだった。

 更には「親友トモを助けれねぇでいるような奴はオトコじゃねぇ」などという臭い言葉セリフを出て行く際に同僚に語っていた為、『ハナシみ』次第では高木を殴ってやろうとさえ考えていた。


「そうじゃなく、『あの場所』が何の施設ってことだよ」


 高木はため息交じりに『鯨の城』を見、山口に諭すような口調で話した。


「何のって……そりゃあ……」


 山口は苛つきながらも、高木の問いに答えようと脳内の情報を掻き回した。


「ん?」


 が、『答』は出せず、腕を組み首を横に傾けた。


 『白鯨の城』は彼らが幼少の頃から眺めていた一つの『風景』であり、それについて深く考えるような機会は皆無に等しかった。


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