38日目 3分間くっきんぐ
「BGMが欲しくなるね」
「お兄ちゃんは無視して今日はちゃんと料理を教えてよね、お姉ちゃん」
「前回はごめんね」
あの時の夕飯は結局、ヒカリが使い物にならなくなりマサヤが作った。
「材料は某料理漫画のような品揃えで冷蔵庫の中に揃ってるけど、なにを作りたいの?」
「お姉ちゃんにできない料理ってなにかある?」
「非現実的な、日常からかけ離れたものを除いて、思いつく限りで二つだけ、どうしてもできないものがある」
「へえ、お姉ちゃんでもできない料理って知りたいかも」
基本的な料理なら特別美味しく作れるわけではないが、普通に美味しく作れるマサヤに対して、その上をいくヒカリ。
そのヒカリに作れないものがあるとなれば知りたくもなる。
アカリが知る限りヒカリの弱点はマサヤ以外ないのだから。
「一つ目は女体盛りね」
「それ料理じゃない!」
「私というキャンパスを使って、マサヤに活きのいいお刺身と私を食べてもらわないと! 料理っていうのは、食べられてこそ完成なのよ」
「家に帰るまでが遠足っていうのと同じ考えで語らないで。で、もう一つは?」
嫌な予感しかしないが、聞かないわけにもいかない。
「愛妻弁当」
頬に手を当ててうっとり顔を見せる。
「それなら別に……」
「駄目よ! シチュエーションの整わない愛妻弁当なんてただのお弁当よ!」
変なところに火をつけたことに後悔したと気づいた時には、料理を教えてもらう空気などなかった。




