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100日目 【100話記念】 超・番外編

 お城のアカリ姫が攫われたとの報せを聞いたのは、ドラゴン狩りを終えてギルドにもなっている酒場に帰って来た時のことだった。

「なに、姫様が攫われたって? どこの亀だ?」

「勇者マサヤ様、亀ではありません。相手はこの世界を破壊しようとしている魔王です」

「魔王……そうか、この世界にはトカゲの化け物以外にもそんなのがいたんだな」

 カウンター席で柿ピーのピーナッツだけを選んで食べている勇者マサヤは装備を整えて、立ち上がる。

 ピーナッツしか食べない理由は辛いからだ。

「ここにいる誰でもいい、僕と一緒に魔王を倒し、姫様を救いに行かないか!」

 酒を飲んでいる戦士たちの力を借りようと仲間を募るが、総スカン。

「ファンタジー世界でも僕はぼっちか!」

 ここは魔法とドラゴンと魔王とその他諸々の世界です。そういう現実的な発言はお控えください。ぼっち勇者様。

「誰がぼっち勇者だ!」

 安心してください。真の悪役とは最後は1人です。ファイト、ぼっち。

「地の文が流暢に言葉としてありえない言葉を表示しているようだ」

 ファミコンはバグったらソフト抜いて、息をふーっですよ。

「それは効果ないって言ってた。で、そうじゃない。勇者として魔王を倒して姫を助けに行かないと!」

「おや、そこで鼻息荒い勇者様。俺をパーティーに加えてみませんか?」

 そこに現れたのは安物買いの銭失いでお馴染みの盗賊ヤマト。

「……嫌な二つ名だな。頼りになるのか?」

「さっきから勇者様が誰と喋ってるのかわからないが、俺にかかれば女物のパンツから男物のパンツまで任せておけ」

「ふむ。ホモはアカリ姫のお気に入りだ、それにいい声をしている。まるで不殺の精神を持った、核エネルギーで動くロボットの操縦者みたいだ」

「勇者様、わけわからないが気に入ったぜ」

 盗賊ヤマトがパーティーに加わった。


 酒場の外に出ると、大道芸人として活躍していた女が近寄ってきた(以下略)――踊り子ヒトミが仲間に加わった気がする。

「気がする!?」

 気にするな、勇者。

 装備屋に入り、パンツを履き替えて3人は町の外に出て魔王がいると噂のあっちの方にあるような気がする城を目指す。

「世界観がどんどん適当になってきてる!」

 早くしないとアカリ姫もどうなってしまうかわかりませんよ。おや?

 茂みから野生のモンスターが飛び出してきた。

「新品パンツを履き替えた僕は強いぞ!」


 ぐちゃぐちゃのゴミが現れた!


「えっと……なんか初代ゲームボーイのバグ画面みたいなのが出てきたんだけど」

 ドラゴンをトカゲと言うような勇者様の前に出てくる魔物なんて表現するのも面倒なので全部あれです。

「ごめんなさい」

 ぐちゃぐちゃのゴミを何体も倒しながら魔王城へとたどり着く。

「嫌な瘴気が立ち込めているな」

「勇者様、これは温泉の源泉ですよ」

 踊り子ヒトミが無駄に腰をくねらせながら言う。

 彼女の口癖は「マハラジャー」だ。

「そんなこと1回も聞いたことがない!」

「盗賊ヤマトが温泉玉子を作ってきてくれましたよ、はい殻剥きました。こっちは塩です」

 踊り子ヒトミの至れり尽くせりな、献身的な行為により勇者マサヤはここまで労せずにやってこれた。

「このお城、魔王を倒して私たちの新居にしましょう」

 そんな野望を持ちつつ、勇者マサヤは魔王城のチャイムを鳴らした。

「ご注文のピザでーす」

「はーい。今門開けますね」

 ゴゴゴゴゴゴ


 魔王城に入った途端、そいつは現れた。

「私が魔王よ!」

 そう、みんなが待っていた、みんなのお姉さん、ビキニ姿のヒカリ魔王グサッ……。

「地の文が一撃で殺された!」

「これであなたたちは3人よ」

「地の文もパーティーメンバーだったのか……。くそ、やるな魔王!」

「みんなに言っておくことがある! 私はマサヤとアカリのお姉ちゃんよ!」

「世界ではなく世界観をぶっ壊した!」


「ピザまだー? チーズの匂いしないんだけど」

 奥から誘拐されたアカリ姫が拘束もされず、ワンピースタイプの水着を着て、我が物顔で魔王城を闊歩しながら現れた。

「あら、アカリ姫。お客さんよ」

「助けに来ました、アカリ姫!」

「お、お兄ちゃんじゃなくて、えっと冴えない人!」

「勇者様、ここは俺にお任せを! 俺の俊足であれば魔王の目を掻い潜って、アカリ姫のスカートを捲って見せます!」

「町一番の俊足で有名な盗賊ヤマト! しかし、あれは水着だ!」

 盗賊ヤマトが魔王ヒカリの脇を通り抜け、階段の上のアカリ姫に駆け寄り、踝まであるスカートに手を伸ばす。

「もらったぁぁぁぁぁぁ!」

「その声で喋るな」

 盗賊ヤマトは哀れにもアカリ姫により蹴り飛ばされて階段の下に転がり落ちてゲームオーバー。

「犯人は……ヤス」

 盗賊ヤマトはそう言い残して消えた。

「盗賊ヤマトー!」

「……まあ、踊り子として私が魔王を倒しますよ。食らいなさい、魔王! 防御力ダウンの踊り!」

「そうやって……いやらしい腰つきで私のマサヤを誘惑していたのね! 一緒に冒険をしているだけでも許せないのに!」

 魔王の理不尽な攻撃――踊り子ヒカリに痛恨の一撃。結構痛かった。

「勇者様、実は寝込みを襲わせていただきました」

「誤解を招くようなとんでもない嘘を言い残して消えないで!」

 勇者マサヤは仲間を失い、1人きりになってしまいましたが基本的に昔から1人なので、これぐらいではめげません。

「地の文が絵本みたいになってる!」

「しかし先ほどの女が言ったことは嘘ではないようね。マサヤが魔法使いではなく勇者だなんて!」

「そうなるの!?」

「無駄に長いのも飽きてきたので、さっさと決着をつけるわよ、マサヤ!」

「魔王と勇者は戦う運命さ!」

 勇者マサヤは剣を構え、じりじりとにじり寄る。

「だーかーらー、ピザは!」

 そんな時、魔王の背後から現れたアカリ姫が勇者マサヤが足をのせる絨毯を思いっきり引っ張って、勇者マサヤを転ばせた。

「ごふっ」

 後頭部を強打して意識を失ってしまう……。


 そして目が覚めた勇者マサヤは、一般的な家庭で魔王ヒカリと、アカリ姫と一緒に3人仲良く暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし

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