表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

リセット3

 試験はほぼ満点。

最近始めた株はうなぎ上りに値上りでボロ儲け。

遊び程度に手を出す競馬では万馬券。

ボクは毎日、バイトもせずに遊んで暮らしている。

もちろん、「リセットボタン」のおかげだ。

ボクの日々はなかなかに快適だった。


「私、あなたに魅力を感じないの」

 大学も2年を迎えて随分とたった頃。

学食の薄い茶を飲みながら、サオリが唐突に言った。

「…え?」

 ボクはカレーを掬ったスプーンを口に運ぶ途中で止める。

サオリがそんなボクを、どこか冷めた瞳で見返した。

「私ね、これ以上あなたと付き合えない」

 寝耳に水、とはこの事だ。

昨日までは、…というより、つい今しがたまではボク達は上手くいっていたはずだ。

「…何だそれ、冗談か?」

 冗談としか思えないサオリの台詞に、ボクは笑ってサオリを見る。

サオリは、じっとボクを見つめると一つ溜息をついた。

「どうして冗談だなんて思うの?…冗談でこんな事言わないわよ」

「…じゃあ、どうして」

 やはり悪い冗談にしか聞こえない。

くどいようだが、ボク達は上手くやっていた。

ボクには時間も金もあったし、サオリに不自由をさせた覚えはない。

ボクがふるという選択肢はあっても、逆は有り得ない。

今のところ、ボクはサオリで満足しているし、このまま上手くやっていけると思っていたのに。

「言ったでしょ、魅力を感じないって」

 どこか疲れたような表情で、サオリが茶を飲む。

「だから、別れましょ」

 はいそうですか、とはいかなかった。

キツネにつままれたような気分だ。

「…なんで?ボクと一緒にいれば、遊んで暮らせるぞ?全て上手くいくんだぞ?」

 思わず本音で首を傾げる。

サオリは顔を顰めた。

「そういう所が嫌なのよ。どうしてそうやって全てが思い通りになると思うの?あなたはそうして、私までもがあなたの思い通りになると思ってる。どうしてそうなの?私はあなたの持ち物じゃないし、あなたの思い通りになんてならないのよ」

 言うだけ言って、背中を向ける。

遠ざかる背を見ながら、ボクは持っていたスプーンを口に運んだ。

当然、カレーは冷めている。

猛烈に、腹が立ってきた。

「…どうしてボクが、あいつにふられなきゃならないんだ」

 それはあってはならない事だ。

ボクが、女にふられる。

しかも「それ以外」の女。

容姿のことは目を瞑って、ボクが付き合ってやっていたと言うのに。

あいつにとって不都合なことも、ボクは「リセットボタン」で未然に防いできた。

感謝こそされても、こんな屈辱を受けるいわれはない。

これは何かの間違いだ。

しかし、どこで間違えた?

ボクの手は腹の中心、「リセットボタン」を探る。

別れるとすれば、それはサオリからではなくボクからでなくてはならない。

ボクは、「リセットボタン」を押した。

視界が暗転する。


「私、あなたに魅力を感じないの」

 大学も2年を迎えて随分とたった頃。

学食の薄い茶を飲みながら、サオリが唐突に言った。

「…え?」

 ボクはカレーを掬ったスプーンを口に運ぶ途中で止める。

サオリがそんなボクを、どこか冷めた瞳で見返した。

「私ね、これ以上あなたと付き合えない」

 ボクは、掬ったカレーを口へと放り込む。

味のしないカレーを食べながら、茶を片手にこちらを見ているサオリを見つめた。

…おかしい。

どうしてこうなるんだ?

ボクとサオリが付き合うのは2回目だ。

つまり、リセットしてもう一度出会った最初からやり直して、今に至る。

ボク達は上手くいっていた。

そう、昨日まで…いや、ついさっきまでは。

「ねえ、聞いてる?」

 カレーを咀嚼しながら考えているボクを、サオリが怪訝な顔で覗き込んだ。

ボクの眉間に皺が寄る。

ふつふつと怒りが込み上げてくる。

…どうしてだ?

また間違えたとでも言うんだろうか。

2度目は、1度目よりもサオリを大事にしてきたつもりだ。

サオリに不満はないはずだった。

それが、また唐突にこれだ。

どうしてボクが、こいつにふられなければならない?

「もうあなたとは付き合えないの。別れて欲し…」

 みなまで言わせなかった。

ボクの指はすでに「リセットボタン」を押している。

一瞬、サオリの疲れた表情が目に止まって、視界は暗転した。


「私、あなたに魅力を感じないの」

 大学も2年を迎えて随分とたった頃。

学食の薄い茶を飲みながら、サオリが唐突に言った。

ボクは、口に運んだカレーにぱくついた。

…サオリのこの言葉を聞くのは3度目だ。

ボクの眉間の皺はさらに深く寄せられる。

2度目のやり直しも、どこかで間違えてしまったらしかった。

苛つきのままに手で腹を探る。

臍の上に出っ張り。

指がひかかって、ふとそのまま手を止める。

…急に、馬鹿らしくなった。

サオリを見遣ると、いつか見たどこか疲れた表情でこちらを見ている。

ボクは、小さく鼻で笑った。

「リセットボタン」から手を離す。

「…ボクも君には愛想が尽きた。別れよう」

 言い切ると、一瞬サオリは傷ついたような顔をして、しかしすぐに頷いた。

「さよなら」と小さく呟いてボクに背を向ける。

ボクは、小さくなっていく背中を見送った。

…馬鹿らしい。

どうしてあの女の為に、こう何度もやり直さなければならないんだ。

別れの言葉はボクが言った。

これでいいじゃないか。

一つ鼻を鳴らして、ボクはカレーを平らげる。

すっかり冷めてしまっていた。





 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ