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A MEMORY OF BLOOD   作者: T.N
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第七話 勇気

やっと、二人がうまく動いてきたかなー、と最近思います。

 しばらくすると、皆川が戻ってきた。


「あの、さっきはごめん」

「ん? ……ああ、べつに気にしてない」


 皆川はそういうと、アイスティーに口をつけた。よかった、怒ってはいないみたいだ。……でも、ストローを使わないあたり、少しは気にしてるんだろうなあ。


「じゃ、話を元に戻すけど……、君はどうしてあのときあそこに来たの? 」

「私は、とりあえず犯人は路地裏にいるだろうと思って、歩いていたんだ。そしたら、女の人の叫び声が聞こえて、その方向に行ってみたら、君がいたんだ」


 いや、その叫び声って僕の声だと思うんだけど。……、僕ってそんなに声高いかな?


「……そういう貴大こそ、なんであそこにいたんだ? それに、被害者の女性のそばで何をしていた? 」


 う、結構鋭い質問をしてくるな。本当のことを言うわけにもいかないので、僕はごまかすことにした。


「僕も、叫び声を聞いてあの場所に行ったんだ。行った時にはもう犯人はいなかった。とりあえず、女の人の脈をはかっていたら、皆川が来たんだよ」


 女の人の叫び声だと思われたことが、いいカモフラージュになった。……すごく不本意だけど。


「そうか。女の人は……、あの血の量だ。もうだめだっただろう」

「うん、脈もなかったよ。もうちょっと早く来れていればよかったんだけど……」

「自分を責めることはない。どちらにしても、あの出血では助からんよ」

「……会ったときから思ってたけど、皆川ってすごく冷静だよね。普通、女の子が死体なんか見たら、パニックになってるところなのにさ」

「それは……、なんというか、見慣れているというか……」


 見慣れている?


「なんでもない、忘れてくれ。それより、君こそえらく冷静じゃないか」


 ぐ、予期せぬ反撃だ……。やばい、何も思い浮かばない。


「げ、現代の高校生はゲームやら動画やらで見慣れているからね」


 じーっと、皆川がこちらを見つめてくる。やっぱり、無理があったか。


「そんなものなのか」

「そ、そんなものなんです」


 意外に素直に引き下がった。もうちょっと追求されると思ったんだけど。


「じゃあ、どうやって私をあのときあの体勢から吹き飛ばしたんだ? それに空中の私に掌底を当てた時のスピードは……」


 と思ったら、一番やばい質問が来た!


「ぼ、僕にもわからないんだ。火事場の馬鹿力ってやつじゃない? 」


 さすがに、このごまかし方はないだろ、自分。


「ふーん、そうか」


 が、皆川は気にした様子もなく、アイスティーを飲んだ。ホント、バカでよかった。それにしても、あの掌底が見えていたなんて、とんでもない動体視力だな。驚愕しつつも、僕もアイスティーを飲んだ。大分氷が溶けて、味が薄くなっていた。










 それから、僕たちはファミレスを出た。お金は、皆川が払うと言って聞かなかったが、こういうのは男の役目だからといって何とか納得してもらった。

 こうして、今僕たちは夜の住宅街を歩いている。僕が送っていくというと、もちろんのことながら皆川は遠慮したが、強引について行った。途中まではぶつぶつと文句を言っていた皆川も、しばらくするとあきらめたのか並んで歩いてくれた。


「皆川って、女の子にしては背が高いよね。いくつあるの? 」

「百六十五だ」

「二センチ負けてる……」

「ははは、大丈夫だ。男子はこれからが成長期だろう。まだまだ伸びるさ」


 そんなたわいのない会話をしていると、あっという間に伊野川の対岸同士をつなぐ橋まで来てしまった。


「ここまででいい」


 くるんと、前を歩いていた皆川が振り向いていった。


「えっ、でも……」

「事件は東側でしか起きてないから、危険もないだろう? それにいざというときには、私にはこれがある」


 これ見よがしに日本刀を掲げる。


「使わないでよ。今度はホントに捕まるから」

「うむ。努力しよう」


 短い沈黙の後、皆川が身をひるがえした。


「じゃあな」

「うん」


 去っていく皆川に、僕は手を振った。もうたぶん、会うこともないだろう。そう思いながら。






 皆川の姿が暗闇の中に消えるのを見て、僕も帰ろうと来た道を引き返そうとした。と、


「貴大ー!! 」


 皆川が走って引き返してきた。


「ど、どうかしたの? 」

「はあ、はあ。……た、貴大!! 」


 いきなりの大声に僕は思わずびくっとする。


「その、私は明日も犯人を捕まえに町に行くのだが……」


 明日も行くんかい。全く今日のことを懲りていないらしい。


「だから、その、君にも協力してほしい! 」


 叫んだあと、皆川はうつむいた。


「え? 」

「ほ、ほら、一人で探すよりも二人で探したほうが見つけられる確率は上がるだろう? だから、その……、」


 うつむいていた皆川が、上目づかいで僕を見る。


「だめか? 」


 その顔を見た瞬間、どくんっと心臓がはねた。なんて破壊力だ……。これは逆らえない……。


「う、うん。いいよ」

「ほんとか!! 」


 皆川が目を輝かせた。もし、僕が断ったとしても皆川は町に行くだろうし、僕ももちろん行くし、それに皆川が危険な目にあうとも限らないし……。いや、これは言い訳なんかじゃない。そう、断じて。


「それじゃ、今日のファミレスで待ち合わせでいいか? 」

「うん、それでいいよ。学校が終わったらすぐに行くよ」

「そうか、わかった。それじゃ!! 」


 皆川は暗闇の中に走って消えていった。元気だなあ。それにしても……、


「なんか、」


 デート、みたいだよな。


「って、違う違う! ただの手伝いだから! 」


 必死に否定するものの、心のそこでは明日を心待ちにしている僕がいるのであった。






「ふふふっ」


 自然と笑みがこぼれる。すごくうれしい。最初は断られるんじゃないかと不安だったが……、勇気を出してよかった。明日も貴大に会える。


「楽しみだ」


 私は足取り軽く家路に就くのだった。

皆川小鳥、乙女でございます。

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