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A MEMORY OF BLOOD   作者: T.N
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第六話 慈愛

みなさん、もうお分かりかと思いますが、貴大はシスコンです。

「それじゃ、皆川さん、でいいかな? 」


 名前のほうは極力考えないようにしながら言った。が、それでも唇の端が勝手に持ち上がってしまう。


「ニヤニヤするな! まあいい、それは置いておくとして……、君はその制服を見るに東南台高校だろう? 学年は? 」

「一年だけど」

「私も一年だ。なら、べつにさん付けする必要もないだろう。普通に呼び捨てにしてくれ」


 僕は、その言葉に少しだけ困惑した。……実は僕、今までこの十五年の人生で女の子を呼び捨てにしていた記憶があまりない。恥ずかしいことに。なので、これにはかなりの抵抗を感じたが、断る理由も特にはないので従うことにした。というか、この人同学年なんだ。なんとなく年上かと思っていた。


「えっと、じゃあ……皆川」


うわっ、なんだかすごく恥ずかしい。


「うん貴大、なんだ? 」

「えっと、君はどこの高校に通ってるの? 」


 この問いかけに皆川はきょとんとした。


「私は伊野川いのがわ女子高校出身だ。……なんだ、かなり有名な高校だから制服で気づいているものだとおもったのだが……」

「僕、今年ここに引っ越してきたばかりなんだ。だから、この土地のこととかあまり知らないんだけど……。そっか、伊野川女子か」


 僕は、前に見たこの周辺の地図を思い出していた。






 まず、僕の住む祢鵡市ねむしはかなり小さい市なのだが、中央には不釣り合いな大きな川が流れている。これを伊野川と言い、北から南へただでさえ小さい祢鵡市をさらに小さく左右に分けている。また、その左側は西祢鵡市、右側は東祢鵡市と呼ばれているらしい。

 僕が通う東南台高校は東祢鵡市の一番右下の隅のほうにある。東祢鵡市には、北東、つまりは東南台の上のほうに駅があり、周りにはビルやら店やらが数多くある。今僕たちがいるのもそこになる。で、西の川沿いのほうは、住宅街になっている。僕の家はそこの南寄りにある。

 西祢鵡市は、左側が山に覆われており、川沿いが高級住宅街になっている。このため、東の人々はあまり西側には行かない。僕も一度行ってみたが、なんか負けた気分になった。そして、伊野川女子高校は北の川沿いに位置している。伊野川女子は、名門の私立高校として知られており、学費もすごく高いらしい。が、その分施設は充実しており、敷地内にボーリング場などもあるらしい。テーマパークか! 、と初めて知った時にはツッコんでしまった。

 以上が祢鵡市の大体の構造だ。





「伊野川女子の制服って、見たことがなかったからわからなかったよ」

「無理もないな。伊野川女子の生徒が東側に来ることはまずないからな」


 高校の中に全部そろってるから、わざわざこっちに来る必要はないんだな。……ん? まて。


「じゃ、皆川はどうしてこっちに来てたのさ? 」

「そんなの、決まっているだろう! 」


 さも当然のような顔で皆川は言った。


「犯人を捕まえるためだ! 」


 殺すの間違いじゃないのかとツッコみそうになったが、なんとかこらえた。それよりも、なぜ犯人を捕まえることにそんなに執着しているのだろうか。もしかして、被害者の中に知り合いでもいたのだろうか。


「なんで犯人を捕まえようと思ったの? 」


 なんか、聞くのも悪いと思ったが、意を決して聞いてみた。


「それはな……、犯人が悪い奴だからだ! 」


 しばらく沈黙が続いた。


「…………で? 」

「それだけだが」

「えーーーーーーーっ!! 」


 僕は思わず叫んでいた。犯人が悪い奴だからって……、子供か!


「ほかに何かないの!? 例えば、知り合いが殺されたとか! 」

「いや、知り合いで殺された人はいないぞ。知り合いはみんな西側にいて、いつも町には来ないからな。被害にあうこともない」


 たしかに、そりゃそうだ。でも、それなら……、えーーーーーっ。


「困っている人がいると、どうしても助けたくなってしまうんだ」


 はははっと、皆川は苦笑した。……すごいな。世の中にはこういう人もいるのか。


「それで、日本刀持って町を歩いていた、と。それ、いつも持ってるわけじゃないよね?」


 僕は、皆川の左側にたてかけられている日本刀を指さして言った。今は鞘にしまわれ、その上からきれいに布が巻きつけられ、上のほうをひもでくくられている。


「当り前だ、どんな人だ私は。それでは私のほうが危ない人ではないか」

「いきなり切りかかってくる人も危ない人だけどね……」


 あ、つい声が出てしまった。


「……すまん」

「あ、いやあの状況なら勘違いしても仕方がないって」


 はあっとため息をついて、皆川はアイスティーに挿してあるストローに口をつけた。そのかわいらしい様子が、美咲のそれと重なる。思わず頬がゆるんでいた。


「……なんだ、私がストローで飲むのがそんなにおかしいか? 」

「い、いや。そんなことは……」

「ふん、もういい」


 皆川はそういうと、席から立って奥のトイレに姿を消した。怒らせちゃったかな。顔に出ないように気をつけないと。


「でも……」


 自分の分のアイスティーに口をつけながら僕はつぶやいていた。


「やっぱり似てるんだよね。美咲に」






「ふう……」


 私は、トイレの鏡の前で息をついた。運よくほかに使っている人はいなかった。ほかの人にこんな顔を見られるわけにはいかなかった。もちろん、貴大にも。貴大にも気付かれずに来れたらしい。鏡に映る自分の顔を見つめる。……まだ少し顔が赤い。

 私は、さっきの私を見つめていた貴大の顔を思い出す。ときおり私を見つめるときに、貴大はすごく優しい目をする。自分の愛する人をみるような慈愛に満ちた目だ。と同時に、その奥のほうに悲しみも見え隠れし、とてもさびしそうでもあり……。


「ああっ! 」


 パンッと私は自分の頬をたたいた。じんじんと痛みが残る。

 ……あんな目をされたら私は、


「守ってあげたく、なってしまうじゃないか……」


 誰もいないトイレに、私のつぶやきは消えていった。

フラグきたーー!!

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