第五話 名前
ここでようやく、本文内で主人公のフルネームが書けました。
とはいっても、あらすじのところに書いてあるのでみんな知っていると思いますが……。
「すまなかったっ……!!」
女の子が僕の前で深々と頭を下げた。
今僕たちは、近くのファミレスにいる。殺人現場から離れた後、そのまま立ち去ろうとしたのだが、女の子に引っ張り込まれてしまったのだ。そして今、謝罪攻めにあっている。今のでもう何回目の謝罪になるのだろうか。周囲からの視線が痛い……。なんか、僕のほうが悪者のように思えてきてしまう。
「いや、もうホントにいいから。ね? 顔あげてよ」
僕が言うと渋々ながら顔をあげてくれた。まだ謝り足りないのだろうか。
「この償いは必ずさせてもらう」
「いや……、別にいいんだけど」
「よくない! 私は、もう少しで無実の罪で、君を殺してしまうところだったのだ!! 」
あー、あんまりそういうことを大声で言わないでください。周りの視線が痛いので。
「でも、結果的には生きているんだから結果オーライ。いいんじゃない? 」
「し、しかし……」
「ほ、ほらそんなことよりも何か注文しようよ。えっと……、あっすいませーん」
このままでいくとずっと謝り続けると思った僕は、なんとか話題をそらそうと近くのウェイトレスさんを呼んだ。
「ご注文は何になさいますか? 」
「僕は、アイスティーで。君は何にする? 」
「私も同じので」
一度注文を復唱してから、ウェイトレスさんは姿を消した。
「僕、コーヒー飲めないんだよね。苦いし。苦いのがおいしいってみんなは言うけど僕はとてもそうは思えないよ。君は飲めるの? 」
適当に話題を振ってみる。
「私もだめだな……。みんなからよく顔に似合わず子供っぽいと言われるよ」
女の子が苦笑しながら答えた。なんとか謝罪地獄からは抜け出したようだ。
心の中でほっと息をつきながら、僕は、改めて女の子の顔を見た。最初会ったときは、美咲に似ていると思ったが、改めてみると違いも目立つ。美咲はかわいらしい顔つきをしていたが、この子は大人びた顔つきをしている。それに美咲は栗色の髪だったが、この子は透き通るような黒色だ。さらに、ピンッとのびた背筋や立ち振る舞いからは威厳が漂い、姉御のような雰囲気を醸し出している。女の子にはさぞかしモテるだろう。
「……なんだ、私の顔に何か付いているか? 」
女の子がいぶかしげに尋ねてきた。知らぬ間に凝視してしまっていたらしい。
「いや、別に……。そ、そういえばまだ自己紹介してなかったよね? 」
「そういえばそうだったな。謝罪のことばかりで忘れていた。……ん? 」
ま、まずい! このままだと、また謝罪地獄が!!
「そうだ! しゃ――――」
「僕の名前は木戸貴大っていいます! 君の名前はなんですか! 」
僕は必死に大きな声でまくしたてた。
「あ、ああ。私の名前は……。な、……まえは……」
あ、あれ? なんで歯切れが悪くなるんだろう?
「い、言いたくないなら別に……」
「そ、そういうわけではないのだが……」
女の子はそう言うと、なぜかこちらを見つめてきた。いや、僕が何かしましたか?
「……聞いても、笑うなよ? 」
僕はうなずいた。なぜ、名前を言うだけでここまで恥じらう必要があるのだろう? そんなに面白い名前なのだろうか。
とりあえず、僕はきつく口を結んだ。さらに、不自然に感じられないようにそっと右手を口にあてた。僕は、結構こういうことに対して我慢強いほうであると自負している。さらに、この守りの二段構え。さあ、来い! この堅固な守りを崩せるものなら崩してみろ!!
「皆川小鳥だ」
「ぷぅっ! 」
速攻で崩された!
「こ、この! 笑うなと言った!! 」
「……っ! ……っ!! 」
僕は思わず机に突っ伏した。小鳥って…! 外見と全く合わない。腹筋がものすごく痛い。死にそう!
「……そんなに笑うな。私も気にしてるんだ……」
「う、うん。ごめん」
なんとか笑いをこらえて僕は顔をあげた。
「でも、僕はかわいらしくて似合ってると思うけどな」
「な、ななななななな!? 」
皆川さんの顔が見る見るうちに赤くなった。
「そ、そそそそうか。あ、ありがと」
赤い顔のまま皆川さんはうつむいた。なんとかフォローはできたかな。それにしても……、小鳥って。
「ぷぅっ! 」
「あ! また笑ったな!! 」
ウェイトレスがアイスティーを持ってくるまで、このやりとりは続いた。
小鳥ってかわいらしいですね。……ぷぅっ!
……よく考えたらまだ自己紹介しかしてない!?