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A MEMORY OF BLOOD   作者: T.N
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第四話 源泉

今回は、途中で女の子視点に変わります。

 そうこうしているうちに、刃がすぐ目の前まで迫っていた。

 ……、こうなったら実力行使しかない。本当はやりたくないけど、四の五の言っていられる状況ではない。やらなければ、こっちが殺されるのだ。


「ふぅぅ……」


 僕は、息を吐きながら、目を閉じた。自分の腕と足に意識を集中させる。そして、いつもは栓をして閉じてある自分の力の源泉、その栓を細心の注意を払いながら、ほんの少しだけ開く。流れだした力の源を、腕と足に集中させる。とたんに、腕と足が暖かさに包まれる。それを確認した後、僕は目を開いた。










 私は勝利を確信していた。相手はすでに防戦一方で、逃げることすらできない。さっきまで何かわけのわからないことを叫んでいたが、ついにそれもあきらめたらしい。少年がゆっくりと目を閉じる。


った……! 」


 おもわずつぶやいた。が、その時少年が、カッと目を開いた。

 目があった瞬間、まるで電気がはしったような感覚が体を襲った。なんだこ――――。

 気が付いた時には、私は吹き飛ばされていた。思考が途中で途切れる。ついで、腹部へおもわず目をつぶってしまうほどのすさまじい衝撃。一瞬、意識が飛びそうになったが、かろうじてこらえる。そのまま、背中から硬い壁のようなものにぶつかる。


「かはっ」


 激しく背中を打ち付けたため、思わず息がもれる。混乱する思考をなんとか整理しながら、私は目を開けた。その目と鼻の先に刃が突きつけられていた。右手に刀がない。あの衝撃で、手を離してしまったらしい。視線を上げると、先ほどの少年が私を見下ろしていた。

 目をあわせると、再び先ほどの不思議なピリピリとした感覚が体を包んだ。そのせいなのかはわからないが、体が全く動かせない。それこそ、指さえも。だが、私の頭は視覚の情報などから、今自らに起こったことを冷静に解析していた。

 彼は信じられないことに、あの白刃取りの体勢から私を腕力だけで吹き飛ばしたのだ。さらに、吹き飛ばされている最中の私の腹部に掌底を喰らわせ、私が離した刀を空中でつかみ、曲がり角の壁にぶつかった私に突きつけたのだ。

どれも、人間技とは思えないものだった。


「く……そ……」


 悔しさから、おもわずつぶやいてしまった。自分に対して腹が立っていた。

 吹き飛ばされたことはいいとしても、あの空中での掌底は普段の私であれば、かろうじて受け止めることのできた攻撃だった。それができなかったのは私が慢心していたから。どんな状況においても手を抜いてはいけない。そう教えられたはずなのに、あの状況で私は勝ちを確信したあまり、注意を怠ってしまったのだ。

 完全に私の負けだった。


「私の負けだ……。好きにしろ……」


 シュンと、私の鼻先から刃が離れた。

 私は、思わず目をギュッと閉じた。今から私は殺されるのだ。そう思った瞬間、自分への怒りが嘘のようにひいていき、代わりに恐怖が襲ってきた。体がガタガタと震え始める。止めようとするが、止められない。目から涙がこぼれる。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない! こんな人生で、死に――――。

 ザクッ!

 私を刀が無情に貫いた。




 …………、おかしい。いつまでたっても痛みが来ない。あれか、痛みも限度を超えると痛くなくなるっていう……。いや、それにしても……。私は恐る恐る目を開けてみた。

 刀は、私の左前のほうに地面に垂直に突き立っていた。あの音は、刀が地面に突き立った音だったのだ。

 そして、少年は私に背を向けて、ケータイをかけていた。


「あ、警察ですか? えっと、実は道端で血を流して倒れている人がいまして。……、ええ。場所は……」


 私はポカンとその様子を見つめていた。

 連絡が終わったようで、少年はケータイをズボンにしまってからこちらを向いた。目を合わせても先ほどの感覚は襲ってこない。


「すぐに警察が来るってさ。それまでにはやくここを離れたほうがいいよ」


 少年は、何事もなかったかのように私に話しかけてきた。


「……、殺さ、ないのか? 」


私が言うと、少年は疲れたようにため息をついた。


「あのさ、さっきから言ってるけど、僕犯人じゃないから。だから君をどうしようとか、そういう気は全くないから」


 私は、自分が大変な勘違いをおかしていたことに今更ながらに気がついた。

 

 パトカーの音が聞こえてくるまで、私は立つこともせず、少年を見つめていた。

主人公無双です。まだまだ彼は本気を出していません。

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