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A MEMORY OF BLOOD   作者: T.N
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第十三話 怪我

最近忙しくて書けませんでした、すいません!!

お詫びと言っては何ですが、今回は長めに書きました。

 二人が逃げ去るのを見送ってから、僕は皆川のほうに向きなおった。


「貴大、その、あり――――」

「どうしてっ!! 」


 僕は、思わず大きな声で叫んでしまっていた。僕の声に、皆川がすくんだ。


「どうして何もしなかったの!? 君、僕が助けに入らなかったら、死んでたかもしれないんだよ!? 」

「そ、その……、アイス――――」

「そんなの、また買えばいいだろ!! 」


 皆川は悪くない。悪いのは手を出してきた奴らだ。そう分かっているのに、僕は自分を抑えることができなかった。自分がすぐに助けに行かなかったから、皆川に怪我をさせてしまった。その自分への怒りを、皆川にぶつけてしまっていた。


「…………」


 皆川は、僕の言葉にうつむいた。その時になってようやく、自分が言いすぎていたと思った。


 気まずい沈黙がながれる。僕は、言いすぎたことを謝ろうと口を開きかけた。だが、それより先に皆川が口を開いていた。


「貴大に、心配をかけたことは謝る」


 やっと聞き取ることのできる、小さな声だった。


「でも私は、貴大と二人でアイスを食べたかった。貴大に買ってあげて、喜んでほしかった……」


 皆川は僕を見上げた。その目は少しだけ潤んでいた。皆川は、最初から僕に買ってくれるつもりでいたようだ。


「お金も、もうこの分しか残ってなくて……、だから……」


 皆川は、僕から目をそらした。


「これぐらいでしか、私は貴大を喜ばせられないから……」


 その言葉を聞いて、僕は思わず皆川をそっと抱きしめていた。


「た、貴大? 」

「……ごめん、言いすぎた」


 自然と言葉が口から出ていた。


「皆川は悪くないのに僕、皆川に八つ当たりしてた。皆川が怪我したのは、僕のせいなのに」

「それは、ちがうぞ」


 皆川が僕の背中にそっと腕をまわしてきた。


「貴大は、精一杯私を助けてくれた。これだけの怪我ですんだのも、貴大のおかげだ」


 そう言って、皆川は体を僕から離すと、


「ありがとう! 」


 にっこりと笑った。その屈託のない満面の笑顔に、僕は無意識に顔が赤くなるのを感じた。なんだか皆川に、僕は赤くされてばかりだなあ、と思った。……よし。


「あ、あとさ、僕は皆川といるだけですごく楽しいよ」


 お返しに、僕もちょっとかっこいいことを言ってやろう、と思った。


「へ? 」


 皆川が思わず変な声を上げる。僕の言葉に、相当意表を突かれたらしい。


「だからさ、変に気を使わなくてもいいよ」


 ここで、とどめの一言。


「僕は、皆川の笑顔だけで十分だから」


 決まった!! 僕は、心の中でガッツポーズをした。皆川は僕の言葉を聞いたとたんに、これまでにないほどに顔を赤らめた。


「う、あうあう」


 今までにない皆川の反応に、僕は思わず笑ってしまった。これで、今までの分は返したぜ。


 と、いきなり周りから拍手喝采が巻き起こった。そういえば、ここは大衆の面前だった! 今までの自分たちの会話を思い出して、僕と皆川は一緒に顔を真っ赤にした。拍手は一向にやむ気配がない。


「と、とりあえずここから離れよう! 立てる!? 」


 思わず声が上ずってしまう。


「も、もちろんだ! 」


 僕たちは、ベンチのところに転がっていた皆川の日本刀を回収して、その場から逃げだした。僕は、きっとこれも明日にはみんなに知れ渡るんだろうなあ、と半分あきらめ半分に思った。










「ここまで来れば大丈夫だよね……」

「た、たぶんな……」


 僕たちは、しばらく走ってからベンチに腰かけていた。まだ、どちらも息が荒い。僕は、深呼吸して息を整えた。横の皆川も、同じようにしていた。


「走ったらのど渇いたね……。早くアイス食べよう」

「うん、そうだな。どっちがいい? 」


 皆川がアイスを差し出してくる。アイスは先のほうが少し溶けていたが、それでもほとんど気にならない程度だった。右手にはチョコ、左手にはバニラが握られていた。


「じゃあ、バニラで」


 そう言って手を伸ばすと、一瞬だけ皆川が嫌そうな顔をした。その後、すぐに普通の顔に戻る。だが、僕はこれを見逃さなかった。


「うーん、やっぱチョコかな」


 逆のほうに手を伸ばすと、さっきとは打って変わって嬉しそうな顔が一瞬覗いた。


「バニラかな、チョコかな」


 手を変えるたびに面白いように皆川の表情がコロコロと変わった。僕は、それが楽しくてしばらく遊んでいたが、


「うあああああ! もうさっさと決めろ! 」


 ついに怒られてしまった。


「ごめんごめん。……皆川ってさ、バニラ好きなの? 」


 すでにわかっていることなのだが、僕は意地悪で聞いてしまった。


「い、いいや。そんなことはないぞ。うん」


 僕の問いかけに、皆川はあらか様に動揺した。


「そう。じゃ、バニラに――――」

「私のだー!」


 皆川は叫んでから、はっとしたような顔をして真っ赤になってうつむいた。


「くっくくくっ!」


 必死に手で口を抑えたが隙間から笑いが漏れてしまった。ホントに、子供っぽいなあ。


「わ、笑うな! いいだろう、別に! 」

「ご、ごめんよ。じゃ、チョコもらうね」


 僕がチョコをとると、皆川は嬉しいんだか恥ずかしいんだかわからない顔をしていた。そんな皆川をしり目に、僕はアイスに口をつけた。


「ん、おいしいよ」


 こういうとき、気のきいたことが言えないのがつらい。もっとなにか感想はないのか。


「そうか、よかった」


 皆川はなんとか立ち直ったようで、満足そうにうなずいてからバニラのアイスをおいしそうに食べ始めた。のどが渇いていたこともあって、僕たちは一心不乱に食べた。





 半分ほど食べたところで、隣から視線を感じた。そっと横を見ると、皆川が僕のアイスをじっと見つめていた。


「どうかしたの? 」

「あ、あーと、そのー、えーと……」


 僕が聞くと、皆川はなぜか恥ずかしそうにもじもじとした。ひとしきりそうしていたが、意を決したように僕に向きなおった。


「その、なんだ、交換しないか」

「え、でもさっきバニラのほうが――――」

「いいから! するぞ!! 」


 皆川は、強引に僕の手の中からアイスを奪って取り換えた。そして、先ほどまで僕が食べていたアイスに口をつけた。そして、なぜかゆっくりと、味わうように食べ始めた。なんなんだ、いったい? 僕はわけがわからなかったが、とりあえず渡されたアイスを食べようとして……固まった。

 こ、これってもしかして間接――――。思考がそこに行きついた瞬間、ぞくぞくぞくとなにかが背中を駆け上っていった。それに続いて、走っていたときと同じくらいに体がかあっと火照った。


「貴大、食べないのか? 」


 いつのまにか、皆川がこっちをじっと見つめていた。そ、そんな心配そうな、切なそうな目をしないでください。


「い、いただくよ……」


僕は、バニラに口をつけた。僕の食べる様子を、皆川は嬉しいような、恥ずかしいような顔で見ていた。バニラは、甘かった。





「食べたね」

「うん、食べたな」


 二人とも、なんとか食べきった。こんなにドキドキしながらアイスを食べたことが、今だかつてあっただろうか。いや、ない。おそらくこの味は、一生僕の舌に刻まれ続けることだろう。


「さ、さて、見回り始めよっか!? 」

「う、うむ。そうしよう! 」


 二人とも奇妙なテンションで立ち上がった時だった。皆川が一瞬つらそうに顔をしかめた。僕は、それを見逃さなかった。


「ちょっと足見せて」

「えっ、ちょっ、貴大!? 」


 皆川は抵抗したがむりやりベンチに座らせて足を見た。足は痣の部分がポッコリとこぶのように腫れ上がっていた。よくもまあ、こんな足で走れたものである。


「……なんで黙ってたの? 」


 ちょっと怖い顔で言ってみる。


「ご、ごめんなさい」


 さっきのことがあるからか、皆川は素直に謝ってきた。僕は、はあっとため息をついた。皆川の足を気にせずに、走ってしまった僕も悪い。そう思ったからだった。


「これじゃあ、まともに歩けないでしょ。見回りを中止して、僕の家で治療しよう」


 さらっと僕は言っていた。


「すまん。って、貴大の!? 」

「いや、だって一番近いし」

「そ、そうだな。近いしな……」


 皆川は、何かうつむいてブツブツとつぶやいている。僕はわけがわからなかったが、とりあえず皆川に肩をかして支えながら、歩調をあわせて歩きだした。


 十歩程歩いたところで、自分の言ったことの重大さに気がついた。これって……。

 家に女を連れ込むみたいじゃないかぁ!!!

 ど、どどどどうしよう……。そう思ったところで、後のまつりだった。

貴大君、皆川さんをお持ち帰りでーす。

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