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A MEMORY OF BLOOD   作者: T.N
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第十二話 恐怖

予告通り無双します。

 かわしきれなかった鉄パイプが、私の右足に当たった。なんとか直撃だけはさけたものの、鈍い痛みとともに、足の力が抜けた。私はそのまま地面に膝から崩れ落ちた。だが、それでも両手のアイスは絶対に放さなかった。放したくなかった。


「おかしな野郎だ。そんなにそれが大事なのかあ? 」


 リーダー格と思われる男が、鉄パイプをいじりながら笑った。スキンヘッドの、あきらかに悪人のような顔をした大柄な男だった。身長は、百八十センチ程あるだろうか。こいつの顔には見覚えがあった。たしか、何回か私を襲ってきたやつだ。ほかの奴らにもちらほらと見たような顔がある。どいつも嫌な笑みを浮かべている。吐き気がする!

私は、立ち上がろうと、右足に力を込めようとするが、しびれていて全く感覚がない。


「なるほど、弱くなったってのは本当だったみてえだな」

「なんだと!? 」


 私は、男を睨みつけた。が、臆することなく、男は言い続ける。


「なんでも、ただのひょろいガキに負けちまったそうじゃねえか。天下の女番長様がよお」

「私をその名で呼ぶな!! 」


 私は叫んだ。だが、すごんでみたところで、今の私は無力だった。


「へへ、地面に這いつくばって、いいざまじゃねえか」


 男の言葉を、私は聞いていなかった。私は、無意識に貴大のほうを見ていた。貴大は、ベンチのところでこちらを見ていた。信じられないというような、驚いた顔をしている。その顔を見て、私は思わず笑いそうになってしまった。こんな状態で笑いそうになるなんて、私はどうかしているな。


「ま、いいや。じゃあな女番長様。これで死ななかったら、俺の女にしてやるぜ」

「私が……」


 意識せずに、私は自然に口を動かしていた。


「ああ? 」

「私が負けを認めたのは、」


 私は、遠くにいる貴大にもう一度、一瞬だけ目を向けた。貴大はこちらへ走ってこようとしているが、ゆうに百メートル以上はあるこの距離では間に合わないだろう。私は覚悟を決めて男を睨みつけた。


「……貴大だけだ。死んでも、貴様のような男の女にはなるものか」


 私は、男をしっかりと見据えて、笑って言ってやった。大丈夫だ、貴大。私は、死んでも君以外の女にはならない!


「へへっ、そうか。じゃ、」


 にたりと男が笑った。


「そのタカヒロってガキも、後で一緒に地獄へ送ってやるぜ! 」


 鉄パイプが振りあげられた。その瞬間、私の頭の中を、自分の生きてきた人生がフラッシュバックのように駆け巡った。なるほど、これが走馬灯というやつか。ふふっ、我ながら不幸な人生だったな。友達はおらず、親にも死なれて、しまいには人に騙される、か。いつか、幸せになれると信じて、一人でもがんばって生きてきたのに、結局これか。だが……。

 最後に、貴大の笑顔が浮かんだ。彼は私にあの笑顔をくれた。それを考えれば私の人生は、


「……悪くはなかったかな」


私は、誰にも聞こえないくらい小さくつぶやいた。そして、そのまま鉄パイプが振り下ろさ――――。










 れなかった。男の腕を、見覚えのある手がつかんでいた。


「あん? 」


 男が振り向こうとした。が、それより早く、男の後頭部を手がつかんでいた。


「あんたが先に地獄に行きなよ」


 その声とともに、男の後頭部が、コンクリートの地面にすさまじい勢いでたたきつけられた。ごがんとすさまじい音が周囲に響く。男は、地面に横たわったままピクリとも動かなくなった。そして、その男が倒れている先に、


貴大がいた。


「大丈夫? 皆川」


 貴大は、倒れている男をするりとよけて、私のそばまで来た。そして、私の鉄パイプで殴られた足をそっと持ち上げて見た。なんで貴大がいるんだ? ほんの数秒前まであんなに遠くにいたのに。私は、思考が混乱して言葉が出なかった。貴大が私を診ている間、私と同様に誰一人として動けないでいた。もちろん、周囲で見ていた人もだ。いきなり現れた少年が、自分よりも一回りも二回りも大きな男を、一撃で倒して見せたのだ。その反応は、当り前だった。


「うん、痣にはなってるけど……、大丈夫そうだね」


 貴大は私の足を地面にそっと下ろした。


「お、おい、てめえ! 」


 男たちのうちの一人が我に返ったように叫んだ。


「ん、なに? 」


 貴大は、聞いたこともないような冷たい声で言った。その瞬間、貴大と戦ったときと同じようなピリピリとした感覚が私を襲った。だが、前ほど強いものではない。体も自由に動く。


「なにって聞いてるんだけど? 」


 貴大が言うが、男たちは震えるばかりで答えることができない。


「う、うわあああっ!! 」


 男たちの中で鉄パイプを持った一人が、恐怖に駆られたように貴大に襲いかかった。渾身の力で、鉄パイプを振り下ろす。が、その鉄パイプを、貴大は右手で軽く受け止めてみせた。さらに、貴大の流れるような右足の前蹴りが男の顎をとらえた。男の体がぐらりと揺れた。そのまま貴大は、ついでとばかりに横蹴りを男の腹に喰らわせた。男が地面を激しく転がっていき、先ほどの男と同じように動かなくなった。


「っ! この! 」


 鉄パイプを持った最後の男が鉄パイプを振り上げるが、振り下ろされるよりも前に、貴大は右手に残された鉄パイプで男の胴を凪いでいた。ボキッという、先ほど私が殴られた時よりもさらに嫌な音が響いた。おそらく、肋骨が折れた音に違いない。男が、脇腹を押えて地面をのたうちまわる。からんと、男の持っていた鉄パイプがコンクリートをはねた。男は、そのまま痛みで失神した。


「まだ、やる? 」


 貴大が残った二人に言った。この二人はどうやら新入りであるようで、ほかの三人に比べて若い。二人とも完全に戦意を失っているようで、ガタガタと震えるだけだった。

 そのまま、しばらく沈黙が続いた。永遠に続くようにも思われた。


「そう。じゃあ、この人たちどかしてよ。通行人の邪魔だからさ」


 沈黙を破って貴大がそういうと、二人の男は急いで仲間の元へと走り寄った。早くここから離れたい一心であるらしい。二人は、あたふたと倒れた三人を担ぎあげていた。


「あ、そうだ。ねえ、三人にも起きたら言っといてほしいんだけど」


 去り際に、とどめとばかりにニッコリと笑って、貴大が言い放った。


「今度皆川に手を出したら、殺すから」


 それを聞いた二人は振り返ることなく、一目散に逃げて行った。

ま、貴大にとっては雑魚ですね。

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