奪衣婆みたいなお婆さんが饅頭を見せてきた話
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たまに、見えることがある。
幽霊は見えない…と自分では思っているのだが、
「いや、見えてますよ」と、言われることがあるので、もしかしたら見えているのかもしれない。
でもまあ、私のこれは、たぶん幽霊を見ているわけではないのだろうというのが私の考えだ。
どちらかと言うと、何らかの意思を見ているような感じがする。
見えるときはまちまちで、自分でコントロールすることは、今のところあんまりできてない。
だから、気付くも気付かないもその時気分なのだが、その時は、
「なんか、変な歩き方してません?」
それが、なんだか目にかかった。
彼女にしては、珍しい歩き方だ。
頭を少し前に出し、足を引きずるようにしている。
「怪我でもしたんですか?」
何か無理をさせては大変と思い尋ねたが、むしろ、
「えっ?」と、怪訝そうな顔をする。
「特に思いあたりませんが…何か変ですか?」
「なんだか歩きにくそうに歩いているみたいだったので…」
言うと、しばし首を傾げ、
「そういえば、今朝、電車に乗り遅れそうになって走ろうとしたんですけど、走れなかったんです。歩いてる人の方が早かったくらいで…。そんなこと初めてだったので、なんでかなぁと思ってはいたんですけど」と、言う。
「…――もしかして、憑いてますか?」
おもむろにそう尋ねられたが、あいにくと、私にはわからないことだ。
その時は、「どうなんでしょうね?なんにせよ、不思議ですね」と当たり障りなく応えた。
そのまましばらく、請求書を作成したりなどの他愛ないやり取りを続けていたのだが、さて、ちょっと事務作業は一段落したし、お互いに技術の練習でもしようかという段になって、どうも、見える。
老婆だ。
白い着物は着崩れており、合わせの隙間から細く垂れた乳房が見える。
手足は骨ばって、色は白い。
ザンバラ頭と相まって、奪衣婆のような印象だが、怖くはない。
(あー…勘違いかな?)
疲れているのかもしれないと最初は流そうとしたが、どうも消えない。
消えないどころか、だんだんとドアップになってくる。
仕方がないので、技術練習のフィードバックをしながら、老婆とも接触を試みるということになった。
何か言って欲しいことでもあるのかと尋ねると、しきりと何か丸いものを見せてくる。
よく見ると、どうも楕円形のようだ。
卵だろうか?でも、卵をどうしたいんだ?食べたいのか?
思っていると、今度はそれを割って見せてきた。
中が黒い。
それで、(ああ、饅頭か)と合点がいった。
饅頭なのはわかったが、さて、こんなことを言ってもいいのだろうか?
そう思ったが、言わずにおこうかなと思うと、迫ってくる。
「あの…変なこと言ってもいいですか?」
恐る恐る尋ねると、
「言ってください!なんでも大丈夫です」と、あっけらかんと言う。
それで、
「奪衣婆に似たおばあさんが、饅頭を食べて欲しいと言っています」と、お言葉に甘えて、思い切って、一息に言った。
こんな平凡な人間がそんなことを言ってさぞかし変だと思われたことだろうとドキッとしたが、意に反して、「あー…」と思い当たるような声を上げる。
「白餡が良いそうです」
その「あー」に後押しされて、図々しく付け足した。
「実は、私、先日の出張でお土産を買ったんですよ。持ってこようと思って、目についた和菓子屋さんに入ったんです」
「ありがとうございます」
「あ、いえ。買ったんですけど、家に帰ったら猛烈に食べたくなってしまって、12個入りだったのに、一箱、空にしちゃって」「持って来れなかったから、買ったこと話さなかったんですけど…」
「そのお饅頭、茶色い皮で、白餡でした?」
「茶色い皮で白餡でした。私、普段、お饅頭食べないんです。食べても半分くらいなのに、一気にそんなに食べたから、糖分過多になってぶっ倒れてソファで寝てました」
「…すごいですね」
思わず言って、「何か思い当たります?」尋ねると、また「あー…」と唸る。
「出張のとき、友人に会ったんです。飲みに誘われて、連れて行かれたのが心霊スポットでした。…連れてきちゃいましたかね」
「私には幽霊は見えませんが、思い当たるのなら、そうかもしれませんね」
同僚が「でも」と首を傾げる。
「饅頭食べたんですけど、私、どうしたらいいんですかね…?離れてほしいです」
「…それが、どうも、桜餅が良かったそうで…それから、タレ団子と、緑茶をいっしょに食べて欲しいそうです」
「買えますか?」白餡の桜餅…?
「あー…売ってるみたいですね。今、イベントで」
その後、無事に軽くなったそうだ。
「走れるようになりました」と、報告をくれた。




