【わがまま】「今日はくりすの日♡」甘えて、すねて、全部受け止めてね
玄関を開けた瞬間、彼女がまっすぐに見上げてきた。
ふわっとした笑顔に混じる、ほんの少しの不満。
「ねぇ、今日はくりすのために何してくれるの?」
声は甘く、とろけるようだったけれど、その裏にある「もっと構って」のサインはすぐに伝わってきた。
近づくと、彼女は膨らんだ頬をこちらに向けて、すこしだけ拗ねた表情を見せた。
「ずーっと一緒にいたかったのに、あなた、用事で遅くなったんだもん……。もうちょっと、ぎゅってしてくれてもいいんじゃない?」
彼女の瞳には、ほんの少しの寂しさがにじんでいた。
そっと腕を伸ばし、彼女を抱き寄せると、柔らかく身体を預けてきた。
「くりす、寂しかったんだから。連絡もあんまり来なかったし……既読だけとか、ずるいよぉ」
彼女の言葉に、心の奥が少しだけ痛んだ。
たったひと言、「好きだよ」と返してあげれば、それだけで安心できる子だとわかっているのに。
「ちゃんと、好きだよって、言ってくれなきゃダメ。好きじゃなくなったのかもって、ちょっとだけ思っちゃった……。
……うそ。ほんとは信じてたけどね。」
彼女は照れ隠しのように小さく笑って、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「ねぇ、今日はくりすの言うこと、なんでも聞いて?わがままな彼女でごめんね。でも今日は、くりすの日ってことで決定〜〜っ♪」
まるで子どものようにはしゃぐその声に、つい笑みがこぼれた。
「アイス食べたいな。コンビニまで一緒にお散歩したい。あとね、お風呂上がりはドライヤーしてほしい。ちゃんと髪、優しく乾かして。手抜きは許しませんっ」
ふざけて「はいはい」と言いかけた瞬間、彼女がキッと見上げる。
「『はいはい』って言わないの!真剣にお願いしてるのっ!」
思わず「わかった」と笑いながらうなずくと、彼女の頬がほんのり赤くなった。
「くりすさ、こうやってわがまま言えるの、あなただけなんだよ。他の人には絶対こんなこと言わないもん」
そう言って、彼女はぽつりと続けた。
「なんかね、安心しちゃうの。あなたなら、全部受け止めてくれるって、思っちゃうの」
その言葉の奥に、彼女の不安と甘えが、少しだけ混じっていた。
「……でもね。わがままって、ちょっとだけ怖いの。『うざいな』って思われたらどうしようとか、『めんどくさい彼女だな』って思われてたら、って……」
見上げてくる目が、すこしだけ震えていた。
「でもさ、くりすの全部、受け止めてくれるって言ったよね?それ、信じていいんだよね?……ううん、信じてるよ。ちゃんと。でも……たまに、言葉で聞きたくなるの」
そう言って、彼女はいたずらっぽく、けれどどこか恥ずかしそうに笑った。
「『そんなわがままも可愛いよ』って、言ってくれたら……くりす、めちゃ機嫌良くなると思う♡」
その言葉を口にすると、彼女はこっちの反応をじっと見つめた。
「……えへへ、今の顔、ちょっと照れてるでしょ?ふふっ♪」
彼女の笑顔が、ほんの少しだけ涙ぐんでいるようにも見えた。
安心と甘えが混ざった、あたたかい顔。
「よかった……でも、そうやって甘やかしてくれるの、ほんとにずるい。好きになっちゃうでしょ、もっと。
……あ、もともと大好きなんだった♡」
いたずらっぽく笑った彼女が、手をそっと繋いできた。
「わがまま言っても、甘えても、泣いても、すねても……それでも『かわいいよ』って言ってくれる、あなたが一番、だいすき」
優しい声が、まるで子守唄のように胸に染みていく。
「ずっと一緒にいてね。くりすの全部を、これからもよろしくね……?」
彼女はふっと、少し照れくさそうに息を吐いた。
そして、真剣な眼差しでこちらを見上げる。
「ねぇ……くりすね、ほんとは強がりなんだよ。『大丈夫』って言っちゃうし、ひとりでも平気なふりするし……。
でも、あなたの前だとダメみたい。ちょっと連絡遅れるだけで寂しくなっちゃうし、会えないと不安になるし……。」
小さな声で、でもまっすぐに。
「ねぇ、これって……重い?めんどくさい?」
否定すると、彼女の表情が一気に緩んだ。
ほんの少し涙を浮かべながら、嬉しそうに笑う。
「……よかった。くりすね、そんなあなたが大好きなの。
全部わかってくれて、全部受け止めてくれて……『大丈夫だよ』って笑ってくれるから。
だから、くりすは今日も幸せだよ」
彼女の小さな囁きが胸の奥に残り、夜はやさしく、ふたりを包んでいた。
YouTube「桜雨くりすの甘恋日記」でこのお話のシチュエーションボイスを投稿しています。合わせてお楽しみください♪




