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【せつない】好きって…言えない

夜は深く、部屋の灯りは机の端に置いた小さなランプだけ。

窓の外では、風が木々を揺らし、かすかな葉音がさざ波のように繰り返していた。

 

ベッドの上に座り、両膝を抱えたまま、私はスマホをじっと見つめている。

連絡が来るわけでもないのに、画面が光らないか、何度も確かめてしまう。


「ねぇ……今、何してるの?忙しいのかな……それとも、もう眠ってる?」


呟いた声は、夜気に溶けて消える。

返事なんて返ってこないとわかっているのに、それでも口にせずにはいられなかった。


「……なんでだろう。時間なんて関係なくあなたのことが浮かんできちゃう。

朝も、昼も、夜も……いつも、心の中にいるのは、あなただけ。」


膝に顔を埋めると、胸の奥からため息がこぼれた。

時計の針が深夜を指しても、まぶたは重くならない。

代わりに、あなたの笑顔や声が、何度も脳裏に浮かんでは消えていく。


「ねぇ……くりす、こんなに誰かを好きになったの、初めてだよ。

友達の前では、何もなかった顔して笑ってるけど……

ほんとはね、あなたのことばっかり考えてるの。」


机の上に置いたマグカップからは、紅茶の香りがかすかに漂っていた。

でも、冷めきったその温度さえ、今はどうでもよくなっている。

心があなたでいっぱいになると、ほかのことなんて視界から消えてしまう。


「でも……この気持ちは、言えない。

もしも……もしも伝えちゃったら、今までの関係が壊れちゃうかもしれないから。

あなたが困った顔するの……想像しただけで、胸が痛くなる。」


その“困った顔”は、優しいあなただからこそ浮かぶ顔。

傷つけたくない。その思いが、言葉を喉の奥に押しとどめる。


「だから、こうしてこっそり……心の中で、あなたに話しかけるんだ。

聞こえないってわかってるのに……ね。」


スマホの画面を暗くしたまま、握る手に少しだけ力が入った。

まるで、その先にあなたの温もりがあるみたいに。


「今日も、あなたと少し話せただけで嬉しかった。たった数分でも、くりすの一日は輝くんだよ。

……あなたは、そんなこと、知らないよね?」


今日の会話を思い返す。

ほんの短い時間だったのに、心が軽くなって、空が少し明るく見えた。


「ほんとは……隣を歩きたい。目が合ったときに、名前を呼んでほしい。笑ったときに、くりすのことを一番に見てほしい。」


想像すると、胸が甘く締めつけられる。

でも、その甘さはすぐに、苦しさと不安に変わっていく。


「でも……それを望むのは、わがままなのかな。だって、あなたには……もしかしたら……大切な人がいるかもしれないから。」


「考えちゃうの……もし、あの子の隣にいるあなたを見たら……くりす、笑えるかな。

それとも……泣いちゃうのかな。」


胸の奥が、冷たい水に沈められたようにじわりと痛む。

想像だけで、こんなにも苦しくなるなんて。


「ねぇ……どうしたらいいの。好きなのに、好きって言えない。触れたいのに、触れられない。

この距離が、永遠に埋まらない気がして……苦しいよ。」


指先をぎゅっと握りしめ、目を閉じる。

でも、閉じたまぶたの裏にも、あなたの姿ははっきりと浮かぶ。


「でも……それでも、あなたの幸せは願いたい。たとえ、くりすの隣にいなくても。笑っててほしい……ずっと。」


その願いは、少しだけ自分を犠牲にする優しさのようで。

だけど、それが一番大切なことだと思うから、胸の奥で強く握りしめる。


「だから、今は……ただ、見てるだけでいい。触れられない場所から、そっと、あなたを想ってる。」


部屋の空気は、少しひんやりしていた。

膝に掛けたブランケットの端を握りしめる。


「……ねぇ、どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう」


静まり返った部屋に、自分の声だけが小さく響く。

その響きが、胸の奥にじんわりと返ってきて、余計に切なくなる。


「もしも、もう一度だけ、ちゃんと目が合ったら……くりす、勇気出すから」


きっとその“目が合う”瞬間は、今までの関係を変えてしまうほどの魔法になる。


「……だから、お願い。たった一秒でいいから、こっちを見て」


その一秒が欲しいだけなのに、なぜこんなにも遠いのだろう。

指先がブランケットをきゅっと掴む。


「そしたら……きっと、もう引き返せなくなっちゃうけど……それでもいい」


息を吸うたびにあなたの名前が心に満ちていく。


「ねぇ……もう、こんなに好きなのに、どうして言えないんだろう……」


窓の外では、夜風がやわらかくカーテンを揺らす。

その音が、私の心を少しだけ落ち着けてくれた。


「……でもね。いつか……もし奇跡が起きて、くりすの手をとってくれる日がきたら……そのときは、ちゃんと言うね。」


そっと胸に手を当てる。

その鼓動は、あなたのことを考えるたびに早くなる。


「大好き」


その言葉は、部屋の中だけに落ちて、静かに溶けていった。

YouTube「桜雨くりすの甘恋日記」でこのお話のシチュエーションボイスを投稿しています。合わせてお楽しみください♪

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