【甘えんぼ】甘えたいの…ぎゅーってして?
「ねーえ?」
彼女がふと顔を上げて、こちらを見つめた。やわらかく微笑むその表情に、自然と心がほどけていく。
「あなたの家って、なんか落ち着く……もう、帰りたくなくなっちゃった……♡」
そう言って彼女はソファにもたれながら、ふかふかのクッションに身を沈めた。
「このソファも、ふかふかで気持ちいいし……」
言葉にするたび、彼女の表情がとろけていく。そっと隣に寄り添ってくる体温に、こちらの心までじんわり温まる。
「こうして隣に座ってるだけでね、ぽかぽかしてくるの。不思議だよね……あなたが隣にいるだけで、安心するんだもん。」
さっきまで流れていた映画の音も、今はすっかり止まっている。静まり返った部屋に、二人の吐息だけが小さく重なった。
「さっきまで映画観てたのに……なんか、急に静かになっちゃったね。」
「でも……静かなのも悪くないかも。あなたと一緒なら、どんな時間も特別に感じちゃう……♡」
甘く囁くような声に、自然と顔が綻ぶ。彼女がほんの少しだけ身体を寄せてきて、上目遣いでこちらを見上げる。
「ねぇ……なんか……すっごく、甘えたい気分なの。」
その言葉には、迷いがなかった。
「……ぎゅーって、して?」
頷くと同時に、腕をそっと広げる。彼女はそれを待っていたかのように、嬉しそうに身体を預けてきた。
「……ん……ありがと♡」
そのままそっと抱きしめると、彼女はぴたりとこちらの胸に頬を寄せた。
「このままずっと、ぎゅーってしててほしいな……くりすだけの場所、見つけた気がする。」
沈黙が流れる。静かな空気の中で、彼女の声がふっと漏れた。
「……あのね、最近ちょっとだけ……寂しい夜が多かったの。」
打ち明けるように、ぽつりと漏らす声。無理に明るく装うこともなく、ただ静かに、自分の寂しさを伝えてくる。
「がまんしてたけど……ほんとは、あなたに“会いたい”って、ずっと思ってたの。」
「でも……ワガママかなって思って、言えなかった。」
肩にそっと手を添えると、彼女はさらに身を預けてくる。
「……でも、今日、こうしてくっついてたら…… もう我慢しなくていいんだ、って思えたの。」
「ぎゅーってされると、くりすの心まで、ほっとする……。 ああ、こういうのが“安心”ってことなんだなぁって……。」
彼女の顔には、ようやく見せることができた、無防備な笑顔が浮かんでいた。心の奥に触れたようなその笑みに、こちらも自然と目を細める。
「やっぱりくりす、甘えんぼなのかも……♡ ……あなたにだけ、だけどね?」
「この距離……いちばん落ち着く。」
彼女は少し身を寄せて、耳をこちらの胸に押し当てる。
「あなたの心臓の音……くりすの耳に、ちゃんと届いてるよ。 とくんとくん、って、優しくて、あったかくて……すごく好き。」
まるで夢の中のような、甘い声だった。ほんのりと熱を帯びていて、それでいてとても静かで。
「ねぇ、あなたって……なんでこんなに、ぎゅーが上手なの?」
「……ずるい。くりす、どんどん離れられなくなっちゃう……♡」
照れたように笑いながらも、彼女の声は本気だった。柔らかい光のなかで、彼女は問いかける。
「ねえ……もし、くりすが突然泣きたくなっても……あなたは、こうして抱きしめてくれる?」
こちらがそっと頷くと、彼女の目元がやわらかく緩む。
「……ありがとう。くりすのこと、大事にしてくれて。 ……あなたがそばにいてくれるだけで、世界が平和に見えるんだよ?」
微笑んだあと、彼女はくすっと小さな笑いをこぼす。
「くりすがこんなに甘えてるんだもん……なにか“お返し”してくれたって、いいよね?」
「……なーんて、うそうそ♡ ぎゅーだけで、もう十分。」
目を閉じながら、彼女は静かに呟く。
「今夜はずっと、そばにいてね。くりすが先に寝ちゃっても、ぎゅーってしたまま、離れないで……?」
「あなたの腕の中に……ずっと、いたいの……。」
その最後の一言は、まるで夢に落ちる直前のつぶやきのようだった。
「……大好き。」
しんとした夜に、甘く切ないその声が、やさしく心に沁みこんでいった。
YouTube「桜雨くりすの甘恋日記」でこのお話のシチュエーションボイスを投稿しています。合わせてお楽しみください♪




