ハンバーグぅーーーー
俺のところへ力強い足取りで向かってくる令和ギャル、甘野美結。
ザッ。
っと地面を踏みしめ、俺と対面する美結ちゃん。イライラ度がMAXなのか、表情がとてもいかつく、目元ぱっちりメイクの睨みはすごく怖い! 身長150センチと小柄なのに強キャラオーラが半端ない。Hunter◯Hunterならビス◯ット=クルーガークラス。今からムキムキに変身するの?
美結ちゃんが両手を腰に当て、つつましい胸を張った。
「ほんとッ、意味分かんないッ」
「えっ??」
「えっ?? じゃないでしょッ!!」
「す、すいません!! そ、その、ハンバーグって分かんないですよねっ!」
「はあっ!? ハンバーグは分かるし!! すっごく美味しいし!! バカにしてんの!?」
「えぇっ〜!?」
俺も意味が分からない!!
「叫ぶのが意味分かんないって言ってんの!! キモぼっち!!」
いやいやそう言ったつもりだけど!? 察してくれよ! 怒るの理不尽!! あとキモぼっちとか言うな!!
「説明してッ!」
美結ちゃんと目と目が合った瞬間、全てを理解した。納得いくハンバーグ説明ができなければ、ゲームオーバーだと。なんだよハンバーグ説明って。ギャグです、って言いたいが美結ちゃんは絶対納得しない。何でこういうときにマッチングゥから連絡がないんだよ!!
「何にも言わないわけッ?」
美結ちゃんが棘のある声音で腕組みをしながら睨んでくる。俺はテンパりながらも必死に考える。
ハンバーグ………、ハンバーグ! 何か言えること! 何か………、あっ!
「お、お弁当!」
つい口から出た一言に、美結ちゃんが怪訝そうに小首をかしげる。
「お弁当が、なにッ?」
「あっ、いや、その!?」
俺はどもりながらも続けた。
「お、俺が持ってきたお弁当、今日ハンバーグなんだよ!」
美結ちゃんのこめかみがぴくっと動いた。や、やばいやばい! 他に何か言わないと!?
「お、俺のお母さんさ、ハ、ハンバーグが得意料理で! きょ、今日の朝ご飯でも置いてあって、う、美味かったんだよ!」
「…………」
「そ、その! 俺のお父さんもハンバーグが好きで! か、母さんとデートのときはご飯屋さんでハンバーグばっか選んで怒られたこともあってさ!」
「………」
「お、俺の母さん! ハンバーグに恨みを持ってたくらいで!!」
「………、っ」
美結ちゃんの小さな口から声が漏れた。お、怒られる!? な、なんとか挽回しないと!?
「で、でもハンバーグ食べてる父さんってすっごく幸せそうでさ! 俺の母さんが手作りしてあげよっかなって思ったくらいで! それでハンバーグ作り上手くなって、今じゃ一番の得意料理! ハンバーグも許してあげてるって。 ほんとハンバーグが理不尽で可哀想だよな、あははははっ………!」
しーん………………。
一気に話続けた。もう、頭の中は空っぽ。春風が木の葉を揺らす穏やかな音だけがあたりに響いていた。
「………………」
美結ちゃんは真顔のまま、俺を見つめていた。今何を思っているのか、俺には分からない。
「………、ふっ」
小さな口から、柔らかな声音が聞こえた。
ふっ? そして、
「ふふっ、あははははっ!」
美結ちゃんが、笑った。可笑しく目元を緩めていた。俺はただ呆気にとられ、その愛らしい表情を見つめていた。
美結ちゃんが、目元を指で少し拭う仕草をして、
「ほんと、意味分かんない」
その言葉に棘はなかった。楽しそうに弾んでいる声。
俺は可愛い雰囲気にドキドキしながらも、口を開く。
「そ、そうかな」
「うん。ハンバーグでそんな家族の話聞いたことないもん。それでなに? お母さんと超仲良いじゃん、お父さんとのデート話を知ってるとかウケる」
美結ちゃんはまた楽しげに笑う。素直そうな笑みに、悪い気はしなかった。俺は苦笑しながら、
「今日の朝に聞かされてさ、俺も反応に困った」
「なにそれ、あははっ! 朝から恋バナ聞かされてんの?」
「まあ、そうなる………、あはは、だから朝飯食うのに集中してーーーー」
ぐぐーーーー。
やべ! 今俺のお腹が鳴っ、
ぐぐーーーー。
「つっ!?」
美結ちゃんが慌ててお腹を抱えた。今度は、どうやらお互いに。美結ちゃんが、また頬を赤らめ目線を外した。や、やばっ!? また俺怒られる!!
俺は咄嗟に、
「わ、悪い! 俺お腹空いてたから!!」
「えっ!?」
美結ちゃんが驚きながらこっちを見つめる。チャンスだと思った、一気に謝り続ける。
「そ、そのハンバーグの話してたら、もうが、我慢できなくて。お、お腹の音鳴った。ご、ごめん」
美結ちゃんが、気まづそうに言う。
「べ、別に良いよ、お昼まだなんだし」
私も、空いてるし。
と、小さく誰に言うでもなく呟いた。
………、そういや、購買で買うものないって、言ってたな。
俺はスマホをポケットにしまい、木の下に置きっぱなしの弁当を取った。
「あ、あのさ」
「な、なに?」
「良かったら、ハンバーグ食べるか?」
「えっ??」
美結ちゃんの瞳が丸く見開く。俺は、頬を掻きながら、
「ま、まだ手をつけてないから、さ。よ、良かったらだけど」
俺はお弁当を開ける。
白ごはんと、おかずは小ぶりのハンバーグ3個に、卵焼き、ミニトマト、あと、ほうれん草の胡麻和えかな、どれも見栄えよく、美味しそう、特にハンバーグ。
「わあっ!! 超美味しそう!! あっ、で、でも、い、良いの??」
「お、おう」
俺は迷いが出ないうちに、お箸(もちろん未使用!)を渡す。
美結ちゃんの細い指が、お箸を持つ。
「あ、ありがとう」
そう言って、美結ちゃんはハンバーグをお箸で挟んだ。そのまま、上目遣いで、伺うように俺を見つめる。じょ、女子力高すぎる、可愛すぎて直視できん!
俺はゆっくり大きく頷くだけで精一杯だった。でも、美結ちゃんには伝わったらしい、嬉しそうに微笑んだ。か、可愛すぎるから控えて!
小ぶりのハンバーグが、小さな口に入った、その瞬間、
「んんんんんんーー!! 超美味しい!!」
美結ちゃんは、とても幸せそうで。見てるこっちまで、同じ気持ちになる。
美結ちゃんはふた口で食べ終え、
「ほんと美味しすぎ! お店出せるレベルじゃない??」
「そ、そうか」
良い過ぎな気もするが、ま、ありがたく受け止めておこう。
「ほんとお母さんの得意料理なんだねっ、ふふっ」
美結ちゃんは楽しげに言いながら、ハンバーグを見つめる。俺は、気持ちを汲む。
「も、もう一個、良いぞ」
「えっ! あっ、で、でも」
ためらう美結ちゃんに、俺は自分のぽっちゃり体型を指さした。
「お、俺、ダイエットしなきゃだし」
そう聞いて、美結ちゃんは、興味深げに俺を見つめた。そして、
「ぷふっ!! あははっ!! まじウケる!! あっ、ごめん! えっと、その、ふふふっ」
悪気はないんだ、特に問題なし。むしろ、狙い通りになって良かった。
俺は目で、ハンバーグを薦める。美結ちゃんは、嬉しそうにもう一個、お箸で掴んだ。そして、今度は一口。
「んんんんん!! おーいしっ♡」
出ました、今日一番の良い笑顔。女子って、怖くない、のかも知れない。今このとき限定だけど。
美結ちゃんは、ハンバーグを飲み込むと、
「ごちそうさま。すんごく美味しかった」
「そ、そっか。そりゃ良かった」
お箸を返してもらい、お互い、そのまま目を合わせたままだった。美結ちゃんはとても自然に微笑んでいて。俺はドキドキがずっと止まらない。
「ねぇ」
美結ちゃんはニッと笑いながら、
「名前、なんて言うの??」
「えっ? な、名前?」
「そう、ぼっちの」
ぼ、ぼっちって言うなっての。お、俺の名前は………、
「あ、青木、春助」
甘野美結ちゃんが嬉しそう目を細めた。
「そっか。ありがと、うーん、しゅんくんでっ」
「えっ!? しゅ、しゅんくん?」
「そっ。あっ、私のことは、みゆちゃんで良いから」
そう言って、
「お返しはちゃんとするからねっ。しゅんくんはお昼休み、だいだいここにいる感じ?」
「えっ!? あ、ああ、だいだいは」
「ふふっ、そっか。じゃあ、またねっ」
甘野美結ちゃんは小さく手を振り、背を向け、小走りでかけていく。
俺は、その華奢な後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
ブブブブブッ。
ポケットのスマホが震えた。
そっと取り出し画面を見つめると、
『お相手を更新しました!』
名前=甘野美結
性別=女性
年齢=17歳
身分=高校生。令和ギャル。
身長=150センチ
体型=スリム
好きなもの=グルメ、ハンバーグ
ははっ、ハンバーグ追加、お後がよろしいようで?
ググーーーーーー。
俺のお腹がまた大きく鳴いたのだった。




