叫べ! あの師匠のごとく!
学校の昼休み。
人目を避けるにはもってこいの中庭の隅で。
俺はただ静かに、穏やかに昼飯を食いたかっただけなんだ。そばにある大きな木に背をゆったり預けながらさ。
だが今の俺はですよ、
初対面である令和ギャルこと、甘野美結と顔を見合わせている。
遠目から見たら、とてもアオハルな展開がきたいされるシーンだ。でも、まったくそうじゃないっ!!
ギロリ。
あわわわわっ!?
心臓がバクバクする(怖くて)。口の中が乾く(怖くて)。
ブブブブブ!
スマホがまた震える。マッチングゥ! からのメッセージだろう、一回見たから別にいい。ふざけたメッセージだったから無視だ。今は目の前の美結ちゃんだろ!
俺は、美結ちゃんの顔を恐々と見る。
小顔で整った目鼻立ちに、ぱっちりとした目元の愛らしいメイク。つり目で顔を赤くして怒ってなけりゃすごく可愛いと思う。今は怖さと威圧感しかない。例えるなら、蛇に睨まれた蛙。やっぱ俺最終的に食われんの?
前かがみにお腹付近を両手で抱え込んでいた美結ちゃんが、両手はそのままに背筋を伸ばした。
俺はただ見続けることしができない。
美結ちゃんは赤ら顔で、俺をにらみ続ける。瞳が潤んでいた、そのことにドキッとした。俺の罪悪感が増し増しだ。
美結ちゃんの小さな口元が少し開いた。何か言われると思ったが、小さく息を吸い込むだけだった。そのまま小さなため息をつくと、俺から視線を外す。
え? あっ………!?
天野美結は、体をひるがえした。ここから、立ち去ろうとしていた。
やばいやばいやばい!!
まだ何も解決していない。このままじゃ美結ちゃんが友達(リア充)に俺の罪を言いふらすだろう。
告白を盗み見したこと(濡れ衣だろ!?)。
お腹空いた音聞かれたこと(たまたまだろ!?)。
このままじゃ、俺の学校でのカーストがより底辺になる! キモさのレベルが格段に上がる! レベルアップして弱くなるとかゲームならクソゲー中のクソゲーだぞ!! って、そんなこと考えている場合じゃない!!
美結ちゃんが俺に背を向け一歩を踏み出す。引き止めないといけない! でもどうやって!? 何を言えばいい!?
ブブブブブ!
ハッとする。片手に持ったスマホが震えた。慌てて顔の前に持ってくる。
マッチングゥ! からのメッセージだった。ふざけたメッセージが3通。でも、目に焼き付ける。
【ハンバーグ!!】
【ハンバーグ!!】
叫べ! 【ハンバーグ!!】
ふ、ふっざけんなよっ!! マッチングゥ!!
なんだよ! ハンバーグって!? ここにきてハンバーグ師匠っ!? ぐぐぐぐぐっ!! ほんと美結ちゃんもマッチングゥも、俺を、振り回しやがってっ!!
俺はもうやけになってしまった。
勢いよく立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。
やってやろうじゃねえかあああ!!
「ハ! ハンバーーーーーーーグ!!」
ビクビクッ!!
美結ちゃんの華奢な両肩が大きく跳ねた。慌てた様子で、美結ちゃんが振り返る。目は見開き、まん丸い愛らしい瞳が俺を何事かと見つめる。俺だって知りたいよ、でも今はこれしか言えないんだよ!!
「ハ、ハンバーグッ!」
美結ちゃんの表情が引きつる。めっちゃドン引きされていた。今度は俺の頬が熱い。
美結ちゃんが、小さな口を大きく開いた。
「キモい!! なんなの!? 意味わかんないんだけどッ!!」
美結ちゃんがまたつり目に戻り、俺に歩み寄ってきた。とりあえず引き止めた! でも次ど、どうしよう!?
震えないスマホに助けを求めるかの如く、強くにぎりしめながら、歩み寄る美結ちゃんを見つめていた。




