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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
32/33

32.黒い光

「お腹いっぱい」


「オレも」


 オレは食べやすいようにカットされた、仔牛の香草焼きを飲み物で流し込む。

隣の二ノも猪肉のワイン煮を食べ終わって、ナプキンで口を拭っている。

料理は両家から持ち込んだだけあって、ボリュームも凄かった。

母ちゃんが張り切って色々作ったのもあるけど、それだけじゃない。

今日はニノの父ちゃんがいるお陰で、昼はかなり豪華な食事だった。


「いやゴーバーグさん、あのワギューの肉はなかなかでしたな」


「いやいやギルファーさんの、旨味の詰まったレイジーボアには敵いませんぞ」


「いやいやいや……」


 男同士、話も弾んでいる父ちゃん達は、今も酔わない程度に酒を楽しんている。

なんだろう……ふたりの会話を聞いていると、微妙にイラっとするなこれ。

いや、でも話に夢中なようだしありがたいっちゃありがたいか。

……よし。


「ちょっと歩いてくるー」


「あたしもー」


 満腹になった腹をさすりながら、オレはニノと敷物から立ち上がる。

不自然さを感じさせないように、焦らずにゆっくりと靴を履く。

がつがつと貪り喰っていたのもあって、食後の腹ごなしに行く事は自然なはずだ。


「いやー、いい昼下がりだなー」


「散歩でもしたくなっちゃうわねー」


 もちろん散歩と言いつつも、このまま森の奥の祭壇に向かうつもりだ。

正直に言えば父ちゃん達に絶対止められるだろうし、普通に散歩のていを装う。

ニノもそうだけど、オレの演技もなかなかに上手いものだと思う。

もしかしたらオレ達には、その手の才能があるのかもしれない。


「おお、散歩かニノ。シズク君とゆっくり楽しんできなさい」


「おっと、前みたいに奥へは行くなよ? そろそろ奥の方では、モンスターが活発に動き始めてるだろうからな。絶対行くなよ!」


 完璧な偽装だったのに狩人の勘が働いたのか、父ちゃんがオレ達に念を押す。


「一の山の時に、それは十分思い知ったよ父ちゃん」


 だけどその危険な奥でも、モンスターも魔獣も出ない場所があるから大丈夫!

……などとは言えず、オレは父ちゃんに無難に返答した。


「あら、その話初めて聞いたわ」


「山の話は歩きながらな」


 一の山での出来事を話題にしながら、ふたりでゆっくり目に浅い所を周る。

そしてじわじわと距離を拡げて、ようやく父ちゃん達は見えなくなった。


「…………」


「…………」


 オレはニノと頷き合うと、早速森の奥へ向かって小走りで駆けるのだった。

また帰りが遅くなると、父ちゃん達が疑いだすからな!





「あっさり来れたわね」


 今の奥はモンスター達が活発、そう父ちゃんは言っていたけど……。

オレ達は別段モンスターにも魔獣にも会うことなく、例の祭壇の前に立っていた。

たまたま運が良かったんだろうけど、嬉しい誤算だ。


「ビー玉の目印がひとつで無くなってて、ここまで来るのに時間はかかっけどな」


「危険生物に会わなかったし、あっさりでしょ。……まあ、時間はかかったけど」


 ニノ、それはあっさりって言わないと思うんだ。

一応今回は目印として木に矢印を刻んだから、もう目印が無くなるって事はない。

代わりに矢印を辿られて、ここが見つかる可能性があるけどその時はその時だ。


「相変わらず生き物がいない場所よね」


「この区画の外は、普通に居るっぽいけどな」


 生き物の一切いないこの空間は、木が一本も生えていない。

だけどここから一歩出れば、もうそこは森の奥に相応しく木々が生い茂っている。

生き物も普通にうろつき回ってるのが見えるし、蜘蛛なんかも巣を張っていた。


「見ろよニノ。あれ、ヴォーパリオスだ」


「ひっ!」


 正面の木の間に、巨大な鎌でコボルトを捕食しているヴォーパリオスが見える。

その無機質な複眼をこっちを向けていた時は、さすがにオレも焦りに焦った。


「あたし達の事が……見えてない?」


「みたいだな。心臓が止まるかと思った」


 けどやつの目にはオレ達は見えてないようで、襲い掛かって来る事は無かった。

やがてヴォーパリオスは回れ右すると、のしのしと森の暗がりに消えていった。


「ここって外側からはどう見えてるのかしら?」


「普通に辺りと同じ森じゃないか? ここに入る時はいつもそうだし」


 目印の所から直進してるだけで、それが無かったらここに来れる気がしない。

とにかく生き物はこの空間に気付かないようだし、入っても来れないみたいだ。

未だにオレ達がどうしてここに入れるのかも、そう言えば何も分かって無い。

う~ん……改めてホント変な所なんだなあ。


「ま、いいか。時間もあんまりないし、色々調べようぜ」


「色々と言っても、調べる物は祭壇の扉と石碑しか無いけどね」


 その祭壇の扉とを前にして、オレ達は腰が抜けるほど驚いていた。

石碑は相変わらずで、彫られた名前に変化は全く無かったんだ。

けど……祭壇の扉から、微かに()()()が漏れていた。


「黒い光……こんなの見たこと無いぞ」


「この前来た時には無かったわよね」


 ニノの言う通り、確かにこんなものは見覚えが無い。

そもそも黒い光……暗いのに光っているってなんなんだ?


「中に何か入るようなスペースなんて無いのになあ」


この謎の扉って、横から見ても枠の部分の厚みしか無い。

なのにその中から光が漏れてるって、一体どういう事なんだろうか。


「……やっぱり裏はただの板みたいになってる」


 オレだけじゃなくて、ニノも扉に対して同じ疑問を持ったんだろう。

扉の後ろに回って、しきりに何もない事を確かめている。


「父ちゃんに聞いたら何か分かるかな?」


「多分、あたしのお父様でも知らないと思う」


 貴族で広い知識を持っているはずの、ニノの父ちゃんでも知らないのか……。

そうだよな、こんな不思議な扉、どこに行ったってあるわけない。

この扉だけじゃなく、石碑や空間も含め改めて思う。

オレ達は、とんでもない物を見つけてしまったんだと。


「凄いな……凄い。けど、太陽が随分傾いてる。もう戻らないと」


「もうちょっと、もうちょっとだけ調べさせて!」


 気付けば急いで父ちゃん達の所へ戻らないといけない時間だった。

ニノはまだ扉を調べたいようだったけど、残念ながらそんな時間はもう無い。


「ダメだ。また森の奥に行ったのが父ちゃん達にバレたら、今度こそ本当にこの場所に来ることが出来なくなるぞ」


 オレの父ちゃんはこういう約束事に厳しい。

以前は一度目だったからゲンコツだけで済んだけど、二度目は許さないだろう。

ニノの父ちゃんにも知られたら……そう考えると尚更早く戻らないと。

ニノは大事な一人娘だし、二度と屋敷から出してもらえなくなるかもしれない。


「ああ……世紀の大発見かもしれないのにぃ」


「くっそー、来る時に目印が無くなってたのが痛いな。あれが無かったらもっと時間があったのに……」


 お互いに悔しさを滲ませながら、後ろ髪惹かれる思いで祭壇を後にする。


「今度はこんな心配しなくても良いように来たいもんだ」


「ええ、またここにふたりで来ましょう」


 そうオレ達は約束して、父ちゃん達のところへ戻るのだった。

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