31.降って湧いた休日
「あ~暇だな……」
オレが休みを言い渡されてから数日。
まだ体はちょっと痛むけど、動くのには何の支障も無い。
それなのに母ちゃんからは日課の素振りも禁止され、日々暇を持て余している。
「二週間かあ……長過ぎなんだよな」
まだ一週間以上も休みが残っているのに、やることが本当に何もない。
せいぜい妹がせがんで来た時に、ままごとに付き合ってやるくらいだ。
なのでオレは今日もゴロゴロと、居間の絨毯の上でひとり寝転がっていた。
「シズク。そんな所じゃなくて、ベッドに横になってなさい」
母ちゃんはオレが怪我した事を、大げさに捉え過ぎなんだよな。
傷は見た目だけでもう痛みは殆ど無いんだから、大丈夫だと言ってるのにな。
「ん?」
「あ、お帰り父ちゃん」
しぶしぶ部屋に戻ろうとしていると、丁度父ちゃんが狩りから帰って来た。
「なんだ、またゴロゴロしてたのか」
父ちゃんは寝転がっているオレを見て、呆れたように言った。
「そりゃするよ。暇で暇で、他にやる事も無いし」
「部屋で大人しく寝てればいいのに、この子ったら」
部屋に戻っても、ゴロゴロする事には変わりないんだよな。
元気になっているに、何もせずに一日中ベッドに横になるなんて耐えられない。
「いやあ、無理だろう。傷も大分治ったようだし、体力があり余ってるんだろ?」
「むっちゃ余りまくってる」
流石は父ちゃんだ。
狩人にとって傷は珍しくも無いからか、オレの怪我の状態を正確に把握してる。
「そうだなあ……今度、伯爵のゴーバーグさんと会う約束をしてたんだが、シズクも一緒に来るか?」
「ニノの父ちゃんと? どこで?」
もしかしてニノのとこの屋敷かな?
それはそれで面白そうだけど、今は体を動かしたい気分なんだよなあ。
「屋敷で軽く飲む予定だったけど、その様子だと不満のようだな」
「体が動かせるところがいい!」
「じゃあ予定を変更して、カルセオラの森にするか」
カルセオラの森! あそこって、前に祭壇を見つけた場所だ。
そう言えばあの時以来行ってなかったし、思い出したらもの凄く気になってきた。
「行く行く! 連れてってよ父ちゃん」
「なんだ急に生き生きと。現金なヤツめ」
「はぁ……」
オレ達のやり取りを見ていた母ちゃんが、仕方ないとばかりにため息をつく。
「行くなとは言わないけど、また怪我をして帰ってくるのだけはやめてね」
「オッケー母ちゃん!」
父ちゃんが伯爵家に、予定変更の手紙を送ってから数日後。
変更を快くOKしてもらったオレ達は、皆でカルセオラの森に集合していた。
「ゴーバーグさん、お付きの人達は?」
「友人と会うのに、無粋な真似は出来ませんからな」
今は景観のいい場所に向かって歩いている途中だ。
父ちゃんと連れ立って歩くニノの父ちゃんは、ニノだけ連れてやってきたようだ。
「いやあ、照れますな!」
なるほど。使用人を一人も連れて来ていない理由はそれか。
友人として会いに来てくれたニノの父ちゃんの心遣いに、父ちゃんは頭を掻いた。
「シズク!元気そうね!」
「おう! でも、ニノも来るとは思ってなかったぞ」
森奥は危険な生物も出るだろうし、祭壇に行く途中に戦闘があるかもしれない。
久しぶりに素振りをしたい! そう言って武器である木剣を用意して来た。
けれどひとりだけで祭壇を見に行くのは、やっぱりニノに悪いかな……。
なんて考えていたけど、ニノもなぜかカルセオラの森に付いて来ている。
聞けばオレと同じく、あの日から学校を休んでいるらしい。
「ニノも学校休んじゃって良かったのか?」
「シズクが居ないんだもの、行っても意味ないでしょ」
「いや、でしょって……お前が良いならいいけどさあ」
ニノは療養のため、という名目で学校を休んだみたいだ。
でもなんだかんだでラブ先生はオレ達の先生だし、嘘だってバレてるんだろうな。
そして今日この森でオレと会うと聞いて、ニノも一緒に付いてきたらしい。
「ははは。シズク君、ウチの娘はワシに似て頑固なんだ。諦めなさい」
「シズクも一応完治ではないし、お嬢ちゃんがいるからってはしゃぎ過ぎるなよ」
「「わかってる!」」
しかもこいつはしっかりと木剣を用意して、明らかに祭壇に行く気満々だった。
本当は真剣を持ち出したかったけど、適当な理由が見つからなかったとか。
まあ、オレと一緒に素振りをすると言う理由で、木剣は持って来れたみたいだけど……真剣はなあ。
「いやはや、お互い子供には苦労しますなギルファーさん」
「いや、まったくですなゴーバーグさん」
「「はははははは!」」
それにしても……まだ酒も入っていないのに、父ちゃん達は上機嫌だなあ。




