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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
30/33

30.傷だらけの決着

「す、ストンて」


「や……やった、シズクが騎士を倒した!」


「か、勝った! シズクさんが勝ったあ!」


 窮地からの逆転勝利に、勝負の場へ乗り込みかけてた生徒達が俄かに沸きだす。


「き、きききききき! 貴っ様ぁ~~~~っ!!!」


 自分の状況を理解したのか、座り込んだ騎士の顔がみるみる赤くなる。


「次は……つぎは……つ…ぎ……………………」


 オレは決着がついた事に気付いていなかった。

朦朧とした意識のまま、騎士に対して攻撃を続ようと必死に体を動かす。

だけどボロボロになったオレの体は、とっくに限界を超えていて……。

弱り切った体では木剣も握る事もままならず、倒れるようにひざから崩れ落ちる。


「よ、よくも騎士に、副団長である私に恥をおぉぉ!ゆゆゆ、ゆるっ許さんん!」


「キャアアアア!」


「し、真剣だあっ!? 真剣を抜いたぞっ!」


 未だ霞んだままのオレの視界の端には、怒りのあまり真剣を抜く騎士の姿。

ギラリと光る剣身がその姿を現し、皆の悲鳴が練武場に響き渡った。

オレは立ち上がろうと体に力を込めるも、反応してくれたのは指先だけだった。


「死にくされこのクソガキャァァァァァァァッ!!!」


 剣を支えにふら付く足でこちらに近づいた騎士は、狂相のまま剣を振り下ろす。


「……う……あ……」


 精も根も尽き果てたオレに頭をかち割ろうと、眼前に迫る騎士の凶刃。

だけどもう……体が………………。



「そこまでですぅ」



「……へっ!?」


 地面に倒れ伏し、今にも気を失ってしまいそうなオレ。

そのオレの目の前で、ラブ先生が流れるように騎士から真剣をすくい取った。

ラブ先生が手にしているのは、いつも使っている訓練用の木剣だった。


「やり過ぎですよ、真剣まで持ち出してぇ。あなたが倒れた事で、勝負は着いていたはずですよぉ。仮にも騎士の副団長なら、潔く負けを認めてはどうですかぁ?」


「なっ……なあっ!?」


 前に一度、爺ちゃん先生と高名らしい剣士の立ち合いを見たことがある。

爺ちゃんはゆっくりな動きだったけど、次の瞬間には相手の剣が巻き取られてた。


 今の動きはそれと同じだ。


「シズク君、最後の動きはよかったですよぉ。しなやかに揺れる柳のような……」


「ラブ、先生……オレ……」


 トン


「だけど今は眠りなさいぃ」





 あたし、ニノ・イレンディスは、シズクの元に今すぐにでも駆け出したかった。

だけどこの足は疲労で前に進まず、もどかしくもふたりの様子を見守るしかない。

視線の先ではラヴィニカ先生が、シズクの首後ろへ軽く手刀を当てるのが見えた。

何かを言いかけていたシズクは、眠るように気を失ったようだ。


「ニノさん」


「はぁ、はぁ……こほこほ……はい」


 相当に無理をして走ったから、まだ息が整わない。

こんな時だからこそ思う、弱い自分の体が恨めしいと。

咳も出てきていて苦しい……けど、それがなんだ。

シズクを抱えた先生の話を聞くために、あたしは汗に塗れた顔を上げた。


「シズク君を頼みましたよぉ」


「はい!!」


 ラヴィニカ先生から、傷だらけになったシズクを受け取る。

力の抜けたシズク体はとても重かったけど、本当に間に合ってよかった。

少しだけいつもより大人びて見えるその顔に、あたしの涙が落ちては流れていく。


「シズク……こんなに傷つくまで頑張ったんだね。男の子だ」


 向こうではラヴィニカ先生が、木剣を片手に騎士へと向き直る所だった。

先程までの姿はなりを潜めて、顔を青ざめさせている騎士。


「さて……私とお爺ちゃんを悪し様に言っていたようですがぁ……」


「あ、う……」


 騎士は武器を奪われ、ラヴィニカ先生との格の違いに気付いたのだろう。

暴言を吐いた後ろめたさもあってか、脂汗を流し言葉を詰まらせている。


「騎士と言えども人間ですぅ。つい口を滑らせてしまう事もあるでしょう」


 そう騎士に語り掛ける先生の表情は、いつもあたし達に見せるぽやぽや顔だ。


「そ、そう! そうなんだ! 副団長である私ともあろう者が、つい気が立ってしまってついな!」


 騎士はその表情を見て、先生が怒ってはいないと安心したようだ。

先程とは打って変わって、勢いよく弁明を始めた。


「だけどぉ」


「え……だ、だけど……?」


 ゆっくりと騎士に向かって歩を進めていくラヴィニカ先生。

その表情が鬼のように変わって……。


「私の可愛い生徒を嬲り者にしたのは、到底赦せる事ではありません……ここから生きて帰れると思わないでくださいね」


「ひっ……ひいぃぃぃ!?」





 目が覚めた時には全てが終わってた。


 オレの頭を抱えて座っているニノが、薄く目を開けたこちらに気付く。

そして軽くぺしっとオレの頬を叩くと、ぎゅっと強く抱きしめて来た。

痛いと何度言っても、ニノは離してくれなかった。


 キツく結ばれたニノの腕の隙間から、あたりを見回す。

あの騎士はどこかへ行ったのか、どこにも見あたらなかった。


 抉れていた練武場は、何もなかったようにキレイに均されていた。

こちらを見るラブ先生はいつものように、ぽやっとした笑顔を顔を浮かべている。

そしていつもとは違って、行儀よく正座したままの生徒達。

なぜかほのかに尿臭を漂わせる彼らに、何があったのか聞いてみる。

でも皆は一様にぶんぶんと首を振るだけで、何も教えてはくれなかった。


「シズク君は二週間のお休みですぅ。もうあんな無茶はいけませんよぉ?」


 こんな傷すぐに治るよ、そう言いかけて思いとどまる。

にこにことしたラブ先生に妙な迫力を感じ、言い返す事が出来なかったのだ。

こうしてオレの二週間の休みが決まったのだった。

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