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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
3/33

3.剣士学校

 この町の自慢は剣士学校があることだ。

エウロペアはあんまり大きくない町なのに、ずっと前から剣をあつかうための学校が、町の中央にデーンとたっている。


 先生はお爺ちゃんと、その孫娘のふたり。


 爺ちゃん先生は、お爺ちゃんだけどめちゃくちゃ強い。

だけど大人に近い大剣組のほうを見ることが多いから、オレたち小剣組の先生は孫のラヴィニカ先生だ。

なんだか言いにくいので、生徒はみんなラブ先生って呼んでる。


 明るい茶色の髪をポニーテールにして、いつもぽやっとしたラブ先生。

年齢も大人と言うにはまだ若すぎるせいか、いつも誰かに親しげに話しかけら……もといからかわれてる。


「ポール君やめなさいぃ!」


 と言うか今もその真っ最中だった。

いたずら好きのポールが、ラブ先生から奪った手紙を持って教室中を逃げまわっている。


「へっへっへ……やっぱりだ!」


「どうだったポール」


 もったいぶった感じで、ためを作るポール。

ポールを含め三馬鹿と称されるヤイアンとネオスが、真剣な顔でポールにたずねる。


「ラブ先生がまたフラれたぞー!」


「「「やったー!」」」


 ポールがラブ先生の手紙の返答を読み上げると、男子たちみんながうれしそうな顔に変わる。

そして握りこぶしを掲げ、おのおのガッツポーズやスタンディングオベーションをとり始めた。


あー、ラブ先生またフラれたのか……。


「コラー! ラブ先生に手紙をかえしなさーい!」


「出たな級長! このマジメっ子が」


 ヘタレだけど正義感だけはスゴい級長のパメリアが、仁王立ちで立ちはだかる。

しかしポールはひるむ所か級長をなめまわすように見ると、その手をワキワキしはじめた。


「近づいたらおまえのお下げ髪をじっくりとなでてやる……。このイケメンのポール様がな」


「いやっ、キモい!」


「き、キモ……」


うわっヒデえ。

確かにキモかったけど、ポールのやつめっちゃ落ちこんでるじゃん、確かにキモかったけど。


「ニノちゃん助けてぇ!」


「ハイハイ、あんたもいっつも懲りないわねえ……」


「げっ、ニノ!」


 おぞましさのあまり助けを求める級長の声に、ニノがまたかと言いたげな呆れ顔をしてポールの前に立つ。ちょっと体が弱いせいで、せきをしがちなニノだけど、小剣組ではオレに次いで2番目に強い。

ちなみに3番目はポールだ。いつもニノに負けて悔しがってる。


「ラヴィニカ先生が好きなのはわかるけど、男なら祝福してあげなさいよ。まだ一度も恋人出来たことないけど」


「う”っ!」


「だってラブ先生がもし結婚したら、この学校からいなくなっちゃうじゃん。まだ一度も恋人出来たことないけど」


「う”う”っ!」


 やめたげてよぉ!

ラブ先生が苦しげに胸を押さえてるぞ。


「だいたい高望み過ぎるのよね先生は。またラブレターに、お爺ちゃんより強くなってわたしを守って♡とかって書いたんでしょうね」


「ラブ先生の爺ちゃんって、王様から龍付き銀剣勲章をもらったあのガイゼリック爺ちゃん先生だろ?」


「「「無理だよなー、だから安心してからかえるんだけど」」」


 ちなみにラブ先生の爺ちゃんでもあるあの先生は、オレの間近な目標だ。

すごい勲章を国から貰ったことがある爺ちゃん先生は、何て言うか、よく分からないけどすげー強い。

ともかくラブ先生の無茶な希望に、小剣組みんなの声が一致したのだった。


「う、うるさぁ~い! とっとと授業を始めますよぉ!」


 みんなのあまりにもな言葉の嵐に、ついに爆発したラブ先生。

いや、悪気はないんですよ、ホント。


「先生!今日の授業はなんですか」


「模擬戦ですぅ! いつもからかう皆を懲らしめてやりますからぁ~!」


「はいはい先生は落ち着いて深呼吸してくださいね」


 みんなでぞろぞろと体を動かすために練武場へ移動する中、憤るラブ先生をなだめるためニノが背中をさする。練武場を見れば大剣組が使った直後らしく、いつもはキレイに均されている土の地面には、たくさんのくつ跡がのこっていた。ならすの忘れた地面をみんなでキレイにして、模擬戦の準備は完了だ。


「まずはあたしとシズクでいいかしら?」


「ああ、いいぞ」


 ラブ先生はさすがに落ち着いたのか、オレとニノが模擬戦を始める事に文句はないようだった。

okのつもりなのか、ウインクをしつつ胸の前で手でハートマークを作っている。

そんなだからからかわれるんだよなあ……。


「ちょーと待ったあーっ!」


 ニノの立つ模擬戦用のスペースにオレも行こうとしたのだけど、しかしそこに待ったがかけられた。

ポールだ。なぜか大げさにポーズを付けたポールが、ゆっくりと模擬戦場に歩いてくる。


「ポール?」


「へへ、いつもニノには邪魔されてる恨みがあるからな……ここでその借りを返してやる!」


 言うが速いかポールはいつの間に持っていたのか、練習用の木剣をニノにむかって振り下ろす。


「おれの剣を喰らえっ! このドグサレがぁー!」


「誰がドグサレよ。女の子に使う言葉じゃないでしょ」


 だけどニノは半身に立ってポールの剣を軽くかわすと、地面に当たったポール

の木剣に向かって、絶妙なタイミングで自身の木剣を鋭く振り抜いた。


「あひぃ! じ、じぃんとするぅぅぅ!」


 ポールが情けない声を上げて木剣を取り落とす。

思い切り剣を振り下ろして伸びきった状態の腕では、ニノの剣の衝撃に耐えられなかったらしい。


「まあ元々地面に当たった剣の衝撃もあるところに、さらに追い打ちされたらなあ……」


「ぬわ─────っ!」


 痺れる腕を押さえたポールが、よくわからない奇声をあげながらゴロゴロと地面を勢いよく転がる。


「はあ……終わりでいいかしら?」


「ぐえっ!?」


 転がるポールの止めるためか、木剣を地面に突き立てるニノ。

ポールは勝手にゴロゴロと木剣に向かって転がっていったあげく、勢いよく股間をぶつけて潰れたカエルのような声をあげて止まった。


「うわあ……」


 オレの口から思わずポールへの同情の声がもれ出る。

エグい。

男のオレは分かる、あれは痛いよなあ……。


 みんなを見ると男子は一様に股間を押さえていて、女子は汚い物を見るような目でビクンビクンとけいれんするポールへ視線を送っていた。


「えぇ……そんなぁ……ひゃあぁ……」


 そんな中、ラブ先生だけは顔を赤くして、指のすき間からチラチラと覗いていた。


 ヒキガエルのようにみっともなく潰れたポールは、すぐさま男子たちによって隅っこに引きずられていく。そしてみんなは余興は終わったと言うように、それぞれの模擬戦相手を選んで剣を振るうのだった。

……哀れポール……。

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