29.ファリボテの騎士
「セイ!セイ!セイ!セイ!」
こ、こいつ……。
「はい!はい!はい!はい~っ!」
「ふっ! はあっ!」
演技なのか素なのか、ふざけた掛け声で矢継ぎ早に鋭い攻撃を加えてくる騎士。
体つきはハッスルマッスルのおっちゃんとは比べるべくもないはずなのに、流石にそこは騎士副団長にまでなった男か。戦うために鍛えた騎士の斬撃は酷く重い。
更に連撃ともあっては、捌くのにも神経を使う。
「おお! 上手く捌くではないか。そらそらもっと行くぞ!」
調子にのって、更に連続で斬りかかって来る騎士。
息を付かせぬ攻撃を繰り出してくるが、しかしその分一撃一撃は甘いものとなる。
「なめ……るなっ!」
オレは甘い攻撃を大きく弾いて、胴目掛け力いっぱ木剣を振り抜いた。
「お、おおう!?」
いくらよりプレートアーマーと言えど、打撃による衝撃はいくらか通るようだ。
「な、なかなか鋭い剣だが、所詮ガキの力! この鎧には効かんぞぉ!」
「ちいっ」
それでもオレの剣は、騎士に大した影響を与えられていないようだ。
この方法では効果が薄いし、何より木剣が持ちそうにない。
それなら鎧の隙間を狙うべきか。
「し、シズクぅ。先生はまだかよ……」
「あの鎧反則だよ。木剣じゃダメージ通らないじゃん……」
「で、でもあの騎士の剣捌いてるし、まだまだ全然いけるって!」
オレと騎士の攻防を見ていた生徒達が、思い思いの事を口走る。
まだまだ全然いける、か……オレもそう思っていたけど……。
「……腕が、痺れてる。そう何度も捌けそうにないな」
「そんな!?」
だけどオレもそう余裕があるわけじゃない。
何度も重い斬撃を受けたせいで、腕がかなり痺れてきていた。
「だから……」
「むっ!?」
騎士の腕の振りに合わせるよう、オレは腋の隙間を狙って突きを喰らわせた。
「こ、小癪な! 効かんと言ってるだろう!」
しかし騎士は咄嗟に隙間の空いている脇を庇い、オレの剣は鎧に弾かれる。
それでもオレが攻撃を通すには、プレートアーマーの隙間を狙うしかなだろう。
「喰らえい! ファリボテ流、三聖火剣!」
「くそっ!」
いくら鎧のお陰で余裕があろうと、相手も黙って見ていてはくれない。
オレは騎士が繰り出してきた素早い三連突きをなんとか逸らす。
「捕まえたぞ小僧」
「くっ」
だけど最後の突きが上手く逸らせず、オレ達の剣は鍔迫り合いの形になった。
「ぐうう……」
騎士が剣身に力をかけているため、オレの腕が重さに悲鳴を上げ始める。
受け止めているオレの木剣が、次第に押され始めていた。
「……だあっ!」
オレは瞬間的に大きく力を込める事で、騎士の剣をギリギリ逸らす。
なんとか押し切られる前に、かろうじて今の剣を逸らすことには成功した。
だけど……今ので無理をし過ぎたようだ。
「うん?」
「はーっ、はーっ……」
反撃しようと構えたつもりのオレの腕は、だらんと垂れ下がったままだった。
「ははは、どうやらもう腕が上がらないようだな! ガキが大人に楯突くからこうなる!」
騎士はブルブルと震えるオレの両腕を見て、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
「ファリボテ流、火軌華枝剣! どらどらどら、どらんっ! てりぃや!」
「うっ! ぐっ……!」
これを好機と見た騎士が、次々と剣を繰り出してくる。
オレは無理やり腕を上げるも、力の抜けた剣では攻撃を防ぐことは出来なかった。
剣を体で受け止めたオレは、みるみる傷だらけになっていく。
「ふーっ……ふーっ……」
「はははっ! もう手も足も出ないようだなっ!」
騎士の言う通り、確か手は出ない……。
反撃が来ないことを確信した騎士が、警戒を解いてこっちに近づいてくる。
「さあ、今からじっくりと料理してやる!」
そう言い放ち、オレを甚振ろうとゆっくりと木剣を振りかぶる騎士。
遅い振りかぶりは明らかに余裕の表れだろうが、オレにしては好都合だ。
オレが狙っている個所を、わざわざさらけ出してくれてるんだから。
「喰らえいっ!」
「喰らうのはそっちだ!」
全身を覆うプレートアーマーにも、数少ない弱点とも言える隙間があいている。
オレはつま先で、その隙間である無防備な脇を思い切り蹴り付けた!
エウロペア流剣術は剣だけにとどまらず!
手が出ないなら、足を出すまでだ!
「うぎゃああああ!?」
反撃が来ないと思っていたところへの、不意の一撃はさぞかし効いただろう。
その痛みと驚きも相まって、騎士は後方に木剣を取り落とす。
お行儀のいい騎士様には、足での攻撃は想定外だったようだ。
いや、こいつは行儀なんてよくないな……。
「よし……いける」
僅かばかりだけど、ようやくオレの腕にも力が戻ってきた。
「うぐうぅぅぅ! け、剣を!」
「そんな暇は与えるかよ」
慌てて後ろを向いた騎士が地面へと手を伸ばすけど、待ってやる気はない。
鎧に守られていないその無防備な膝裏に、渾身の一撃を喰らわせてやる!
一度でも倒れれば、そこで勝負は終わるルールだったはず。
「これで終わりだ!」
「うわあああああっ!!」
オレは勝負を決めようと、騎士の膝裏狙いで剣を振るう。
だけどその時、斬りかかったオレの視界いっぱいに飛び込んで来たのは……。
「ぐうううっ、目が!?」
無数の、土だった。
「きっ、汚え! あの騎士、土を投げやがった!」
「め、目つぶしなんて卑怯だぞ!」
「それが騎士の戦い方かよ!」
級長を脅した時の、地面を抉った際に飛び散った土を投げつけられたんだ!
目が、目が痛みで開けられない!
「きひひひひ!」
錯乱したように奇妙な笑い声を出す騎士が、こちらに近づいてくるのがわかる。
「うるさぁい! 勝てば! よかろうなのだ!」
「うっ!?」
オレの肩が激痛に襲われる。
どうやら騎士の木剣が肩に振り下ろされたようだ。
かすかな視界の中では、騎士の動きは朧げにしか見えずに防御もままならない。
「この小僧が! 先に! 足を使って来たのだ!」
「くうっ……ぎっ……うぐっ……」
狂ったように何度も叩きつけられる木剣に、オレは亀のように丸まるしかない。
打ち付けられた箇所が酷く熱い。
「あれは別だろ! 卑怯な真似と一緒にするなよ!」
「ただの戦い方の違いじゃないか!」
「シズク避けろぉ!」
騎士が剣を振るう度にオレの体は傷つき、力がどんどんと抜けていく。
「ふぅ……っ! ふうぅぅぅ……っ!」
「ぐ、ぐうう……」
騎士の剣が止まった頃には、オレはもう満身創痍になっていた。
「ああっ! シズクが!」
「くそっ! これ以上、黙って見てられるか!」
「きひっ、喋る気力も無くなったようだな! 今止めを刺してやるぞ小僧!」
級友達がいきり立つ中、騎士はオレを地面に沈めようとゆっくりと歩いてくる。
「…………う」
しっかり立とうとしても、力が抜けてうまくいかない
錯乱気味だった騎士の一撃一撃は軽く、倒れる程の威力ではなかった。
だけど蓄積されたダメージが多すぎて、オレの膝がカクリと落ちかける。
「…………」
「無様に倒れ伏せぇぇぇい!」
これが大人の、騎士の剣の強さだというのか。
だけど……。
「……違う」
こうじゃない……オレが見てきた人達の剣は……。
「何が違うだ悪童め! ファリボテの正義の刃っ受けてみよっ!」
「……ラブ先生から教えられたのはもっと……」
どこまでも、心を映すような……真っすぐな剣筋で……。
「こう……」
「ぬあぁ!?」
力尽きかけた事で無駄な力の抜けたオレの剣は、澱みない軌跡を描く。
それは大技を放とうと剣を振り上げた騎士の肘に突き刺さる。
「……爺ちゃん先生は……こう……」
「うごっ!?」
苦悶の表情を浮かべる騎士が、痛みに身をよじる。
そして跳ね上がった兜の隙間へと、オレはかすめるように剣を滑らせた。
「お?おっおっおっ……お?」
オレの剣により脳を揺さぶらた騎士の体は、バランスが取れずによろめいて……
そして、力が抜けたように地面へと腰を落とした。




