表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
28/33

28.暴言

 しーんと静まり返った練武場には、そわそわしている騎士とオレ達生徒だけ。

ラブ先生がいなくなると、騎士は立ち上がって武器倉庫の木剣を物色し始める。


「ふむ、私の愛剣とは比べ物にならんが……」


 そりゃ訓練用の木の剣だし、真剣とは比べ物にならないのは当たり前だ。

真剣を使わないだけマシだけど、許可も無しに勝手に一本持っていくなよ。

騎士は木剣片手にぶつくさ言いながら、また模擬戦場の地面に座り直した。


「しかし人を待たせて茶の一杯も出さんとは……礼儀がなっとらん!」


「礼儀がなってないのはどっちだよ……」


「ファリボテ家のドゥオーケね、覚えたわ。あとでお父様に言って抗議……廃嫡……ブツブツ……」


 あれからそう時間も経ってないのに、騎士はもう待つのに飽きたらしい。

こっちを見ながら文句を言い始めるが、皆はラブ先生の言いつけ通り動かない。

隣でニノが何か怖い事をつぶやき始めたけど、まあ動いてないからセーフだろう。


「大体ガイゼリック殿もガイゼリック殿だ! 勲章持ちだからとあぐらをかいて、何が指導を請われてだ! この私、ファリボテ家のドゥオーケをないがしろにするとは! これだから老人はダメなのだ!」


 自分が何を言っても、オレ達が言い返さないのが分かったらしい。

止める相手がいない騎士は、どんどんエスカレートしていく。


「それに孫娘もだ! 小便臭い小娘に、私の相手が務まるとでは思っているのかね! フォルエー家だか何だか知らないが、一代貴族のくせに孫も祖父も驕りが過ぎる!」


 騎士は矢継ぎ早に好き勝手に暴言を吐き始めた。

そして今度は雷に打たれたように大げさに身を振わせ……。


「そうだ! 前の勝負の結果も、きっとまぐれだったに違いない!」


 またとんでもない事を口にした。


「勝手なこと言いやがって……」


 本人がいない事をいいことに、爺ちゃん先生とラブ先生をこき下ろす騎士。

勝負事をまぐれと言い張る、戦士の風上にも置けない口を塞げないのが歯がゆい。

自分の大好きな人達が悪し様に言われるのを、黙って見ている事しかできない。

ただ待つだけの事が、とても長く感じられた。


「シズク、その手……」


 気付けばニノが、心配そうにオレの方を見ている。

どうやらオレは騎士の数々の暴言に、相当頭に来ていたらしい。

いつの間にかオレの両手は勝手に握りこぶしを作り、血も滲んでしまっていた。


「あたしも気持ちはおなじよ。でも、ラヴィニカ先生が来るまで耐えなきゃダメ」


「ニノ……」


「悔しいけど、騎士相手に敵うはずないもの……あたし達はまだ子供なんだから」


 唇を噛んで耐えるニノの目には、悔しさのあまり涙が浮かんでいた。

そうだ。いくら大きくなって来たと言っても、オレ達はまだ子供だ。


「なかなか来んなあ……もしかして準備とは、勝負から逃げる準備の事だったかのかもしれんな!」


 本気の大人にはどうしたって敵わないだろう、ましてや騎士なら言わずもがな。


「う~む、所詮祖父の威光にあやかるだけの小娘か。このドゥオーケに恐れおののいて、今頃は逃げた先で膝を抱えて震え上がっとるのだろう!」


 ……だけど。


「お前らもあんな臆病者に教わっては口先ばかりしか上達せんぞ? なんなら私が教えてやろうか? なんてな! わっはっは!」


「ごめんニノ」


 オレが次にとる行動を予測したニノが、阻止しようとその腕を伸ばしてくる。

だけどオレはそれを振り切って木剣を掴み取ると、模擬戦場へ足を踏み入れた。



「うるせえええええええ!!」



「騎士なら、戦いに身を置く者であるなら、剣で語れよ! いない相手を口汚くののしるだけなら、それはもう騎士なんかじゃねえ!」


 オレは騎士に向かって木剣を突きつけ、溜め込んでいた心の内を吐き出す。


「騎士じゃない……だと?」


 オレの言葉を聞いた騎士は、俯きながらブルブルと震えている。


「このファリボテ家のドゥオーケが騎士じゃないだとおおおおお! 私は歴史あるファリボテ家の嫡男なんだあ! 決して弱い男なんかじゃない! 私を馬鹿にするな! 私は負け犬なんかじゃないぃぃぃぃ!」


 そしてトラウマを刺激されてしまったのか、目を剥き口角から泡を飛ばしながら大声で叫び始めた。


「小僧ぉ!! このドゥオーケは騎士! 副団長で強い男なんだ! さっきの言葉を訂正しろおぉぉぉぉぉぉ!」


「……なら、ラブ先生と爺ちゃん先生の悪口も訂正しろよ」


「うるさい! うるさい! うるさい! うるさぁい!! もう一度しか言わんぞ! さっきの! 言葉を! 訂正しろぉ!」


 さっきまでは自分が他人をこき下ろしていたくせに……。

どこまでも自分本位な騎士の言葉に、オレは訂正する気なんて毛頭無かった。

こんなやつ相手に、一歩も引きたくはない。


「…………」


 オレが沈黙を貫いたために、練武場は水を打ったように静まりかえる。

騎士とオレとの間に緊張が走り、空気が張り詰めたものに変わった。


「へ、へへ……」


 だけど、そんな空気の中。

突然ポールが立ち上がり、オレと騎士の間に割って入って来た。

ちょっと腰が引けているけど、その目は何かを決意した男の目だ。


「ぽ、ポール何やってるの!?」


「オジさんさあ。騎士ってことは、槍が一番の得意武器なんでしょ?」


「…………」


 級長は戸惑いの声を上げるが、ポールはそのまま騎士に向かい話しかけ始めた。


「おれもさ、一番得意なのは槍なんだ」


「……む……」


 ポールが槍が得意なのは初耳だったな。

でも同じ武器を得意とする者同士、その興味を引くことで騎士を落ち着けさせようとしているのか。


「……確かにファリボテ流にも槍術はある」


 何か心に触れるものがあったのか、ポールの言葉に騎士が食いつく。


「……どんな鍛錬をやっているのだ?」


「朝の教室でダチと、次入ってくる女子は誰かを当てるのをやってるよ。当たったら、()()()()() ってさ」


「!?」


 しかしポールの口から出て来た言葉は、ちょっとアレな駄洒落だった。


「へへ、面白かった? ならそんな顔してないで、もっとホラ笑って笑っ……」


ガギンッ


「……て?」


「ポールッ!!」


 確かにポールの冗談は、こんな時に言うものではなかったけど……。

この騎士……ためらいもなく、ポールの頭目掛けて木剣を振り下ろしやがった!

オレが剣を盾にして防がなかったら今頃……。


「「「うわああああー!」」」


事の次第を固唾を飲んで見守っていた皆が、容赦ない騎士の行為に堰を切ったように叫び始める。


「え……シズク?」


「く……!」


 重いっ!

これが大人の、戦いに身を置く騎士の力なのか……!?

いつもの立ち合いで、ラブ先生が手加減してくれてたのがよくわかる。

ふざけたやつだと思っていたけど、副団長に成り上がったのも実力かもしれない。


「ひ、ひいぃぃ!?」


 自分がいきなり斬り付けられた事を、ポールようやく把握したらしい。

オレが騎士の木剣を受け止めているのを見て、ガクガクとその身を震わせている。


「誰かポールを……早くっ!」


 この重さ……予想はしてたけど、力比べは分が悪いか!

オレは木剣を斜めにし、力の方向を逸らす事で騎士の剣を捌く。


「ポール! 今は洒落にならないって!」


「時と場合を考えなよバカ!」


 オレの叫びを聞いたヤイアンとネオスが、他の級友達と数人がかりでポールを模擬戦場から避難させた。


「ちょ、ちょっと! いくら騎士でも、いえ騎士だからこそ礼節を……」


 青ざめた顔をした級長が、持ち前の正義感を振り絞って抗議の言葉をあげる。


ドゴン!


 しかし騎士は、黙れとばかりに木剣を地面に叩きつけた。


「何か言ったかな?」


「あ、あぁ……」


 荒事を生業としているだけあってか、騎士の圧力は相当な物だったようだ。

たまらず級長は立ち竦み、何も言うことが出来なくなってしまう。

叩きつけられた木剣によって、模擬戦場の土の地面も無残に抉れてしまっている。


「あたしっ、ラヴィニカ先生呼んでくる!」


 ただならない一連の流れを見て、ニノが矢のように練武場から飛び出していく。

おそらくラブ先生はまだ着替えの最中だろうから、更衣室へ向かったのだろう。


「ふ~……少しばかり頭に血が上ってしまったが、ようやく話の分かる者が来るようだ」


 ラブ先生を呼びに行ったと分かって、騎士は少しばかり溜飲が下がったようだ。

内心は分からないが、表面上は落ち着きを取り戻したように見える。


()()()()()()()()()()()()


 だけど余計な一言に、オレの方が落ち着いていられそうもない。

こいつはどこまでラブ先生を貶めれば気が済むんだ。


「ラブ先生は臆病者なんかじゃない」


「まだ言うか小僧が……」


「何度でも言うさ」


 騎士は眉を顰めてオレを鋭く睨んでくる。

何をしてきたって、オレは言い続けるのを止めない。絶対に!


「よし! ならばこのドゥオーケが、反抗的な小僧にファリボテ流騎士剣術を一手指南してやるか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ