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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
27/33

27.突然の来訪者

「頼もう!!」


 オレ達が大剣組になって、数か月も経ったとある日のこと。


 いつものように登校し座学を受けていたオレの耳へ、野太い声が聞こえてくる。

今は授業中なはずなのに、なぜか正門の方が騒がしい。

見れば馬にまたがった騎士が、大きな声で叫んでいるようだ。


「もう一度勝負願いたいっ!」


 突然の来訪者に、周りの皆はざわざわと騒ぎ始める。

ポールなんかは騎士だ騎士だと、面白いモノを見つけたようにはしゃいでいる。

けどオレは楽観的になる事は出来ず、逆に何だか嫌な予感がしてたまらなかった。


「聞こえぬのか? ガイゼリック殿にお出で願いたい!」


 ガイゼリック……騎士が呼んでいるのは、爺ちゃん先生の名前だ。

級長がざわつく皆に注意する中、ラブ先生は外に出て騎士に応対している。


「とにかく迷惑になるのでぇ、中に入ってくださいぃ」


「おお、催促したみたいですまんな!」


「……いいえぇ」


 先の戦争で戦功著しく、勲章も授与された爺ちゃん先生。

その高名なガイゼリック爺ちゃん先生と手合わせたい。

そういった腕に覚えのある人達が偶に訪れるのは、ラブ先生から聞いた事がある。

しかしそれはあくまで、プライベートな場所である自宅にだ。

授業中の学校へ直接訪れるのは、いくらラブ先生でも想定外だろう。


「だからな、さっきから言っているだろう! この私が! 春先にめでたくニルンベルン辺境第三騎士団内で副団長に昇級した私が!」


 練武場に案内された騎士だが、結局さっきと変わらず中でもわめき散らしいる。

質実剛健で知られるこの国の騎士にも、こういう迷惑なやつはいるんだな。

でも副団長って言ってるし、恰好もやけに豪奢なプレートアーマーだ。

ガチガチに固めている事もあって、見掛けだけなら強そうにも見えなくない。


「ラブ先生大丈夫かな」


「押すなよ!」


「潰れるぅ」


 ラブ先生を心配して、練武場の大扉へ何人もの生徒が張り付いている。

わずかに開いた隙間から、こっそりと中の様子を覗くためだ。

大剣組も小剣組も関係なく、かなりの人数が押し掛けているようだ。

年代物である古い大扉は、今にも壊れそうなぐらいぎしぎしと音を立てていた。


「一体どうなるんだ……シズクの予想は?」


「全く分からん」


 もちろん、その大勢の中にはオレも入っている。


「周りの皆は、あの龍付き銀剣勲章のガイゼリック殿に、挑んだこと自体名誉なことだ……などと言うが! 負けて当然と思われている事に、私は我慢がならん!」


 相対しているのは、微妙に困り顔をしているラブ先生一人しかいない。

なのに騎士はまるで大勢に聞かせるように、大げさな身振りと声で説明を始めた。


「これでは栄えあるファリボテ家の嫡男であるこの私ドゥオーケが、弱い騎士という印象を持たれたままになってしまうのだ!」


「でも実際負けてるじゃん……」


 扉の隙間を拡げてぼそりとツッコミを入れたのは、理屈屋のモーバインだ。


「何か!?」


 耳ざとい騎士がその言葉にキレ気味に反応する。


「ひえっ! な、何でもありません……」


 モーバインの理屈的発言も、どうやら大人の騎士相手ではキレも鈍るらしい。

飛びはねるように扉から離れると、肩を縮こまらせてスゴスゴと引き下がった。


「「「うわあああああっ!?」」」


 そして生徒達だけでもギリギリだったのに、モーバインによって瞬間的に大きな力がかかった扉は、加重に耐え切れずに大きな音を立てて内側に倒れてしまう。

練武場へ雪崩込むオレ達に、ラブ先生はおデコを押さえながら深い溜息をついた。


「……ふぅ、また挑まれるその向上心は素晴らしい物かと思いますがぁ。勝負を受けるのはあの一度だけと、お爺ちゃんが言っていたはずですよぉ?」


「一度だけとはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 再戦には言及してない、そうこのドゥオーケは解釈した!」


「えぇ……」


 なんて自分だけに都合のいい解釈なんだ。

ラブ先生がもう片方の手でも額を押さえ始めたぞ。


「しかし騎士様もその時は了承していたはずですぅ。それにお爺ちゃんは他校に指導を請われて、週末までエウロペアにはいませんのでぇ」


「何だと! 居ないのでは話にならんではないか! どうするのだ!」


「どうもしませぇん。このままお引き取り願いますぅ」


 なだめるように理由を口に出すラブ先生だけど、騎士は初めから譲る気が無いみたいで……ますますその声は大きなものになっていった。


「何を言っている、ダメだ! ここまで来て勝負が出来なかったなど……それでは私はただの笑いものではないか!」


「ですから勝負はあの一度きりだとぉ」


「勝負ができない限り、私はテコでもここを動かんぞ!」


 まるで駄々をこねる子供だ。

いや、オレ達も子供だけど、あそこまで酷くは無いぞ。

騎士は動かない意思表示か、模擬戦場にドッカリと腰を落とした。


「ですからぁ……」


「くどい!」


「…………」


 何を言っても無駄だと思ったのか、ついにラブ先生が無言になる。

オレたち生徒は壁際に固まって、ラブ先生を心配そうに見守るしかできなかった。


「なんなら勝負をするのは、孫娘の貴女でもかまわんのだぞ?」


「……はぁ……それならわたしがぁ、相手をさせていただきますぅ……」


「そうか!」


 根負けしたようにガックリとうなだれるラブ先生。

騎士は喜びを抑えきれないのか、それとは対称に満面の笑顔を浮かべていた。


「あたしは子供だけど、少なくともあの騎士よりは大人だと思うわ」


 いつの間にかオレの隣に来ていたニノが、口を尖らせてそんな事をつぶやく。

まったくだ。


「一度でも倒れればそこで勝負は終わり。そのルールでよろしいでしょうかぁ」


「勝負が出来るのなら何でもいいですぞ!」


 喜びのあまり、騎士の口調もどことなく丁寧な物となっている。

ラブ先生が提案したルールにも、考える間も無く即答した。


「準備がありますのでぇ、少々お時間いただきますぅ……」


「わかった! 手早く願いますぞ!」


「善処しますぅ……」


 しっかりとプレートアーマーを着こんでいる騎士とは違って、かわいいワンピース姿のラブ先生はまったくの普段着だ。


「オレ達に剣を教える時の、いつもの軽鎧に着替えるんだろうな」


「勝負って流石に木剣ででしょ? 向こうはなんでガチガチに鎧着てるの」


「腰に剣も履いてるし、まさか真剣で勝負するつもりだったとか……?」


「それってただの殺し合いじゃん。いくらなんでもそれは無いでしょ」


 ラブ先生はオレ達へ楽な姿勢で待つように指示すると、重たそうな足取りで練武場から出ていった。たとえ騎士が何を喋っても岩のように動かないよう、そう言い加えて。

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