26.白い矢
「ぐはあっ!」
「父ちゃん!」
衝撃波で吹き飛ばされた父ちゃんは、仔熊と共に数メートルは転がっていた。
「ハァッ、ハァッ……」
父ちゃんは胸を強打したようで、手で押さえてながら荒い呼吸をついている。
仔熊はどうやら今の衝撃で、事切れてしまっているようだ。
「グオオオオ!」
しかし仔熊などどうでもいいのか、ルナグリズリーは父ちゃん目掛け真っすぐに向かってくる。マズい! 動きの鈍った父ちゃんを仕留める気だ。
「間に合ってくれよ!」
オレは父ちゃんを助けるため、木から木へと飛び移っていく。
ルナグリズリーがオレに気付けば、あの剛腕の一撃で仕留められて終わりだろう。
だからヤツが気付きにくい頭上、木の上を急いで移動する事にした。
言いつけを破る事になるけど、父ちゃんの命が危ない今はそんな事どうでもいい!
「グルォオオオッ!」
「ぐっ……ハァハァ。逃げろシズク!」
身動きが取れないまま、ルナグリズリーに応戦する父ちゃん。
だけど大振りのナイフでは、あいつの攻撃を捌くにも限界があって……
強靭な爪を受け止め続けたナイフは、鈍い音を立てて根元から折れてしまった。
「ガアアアアアッ!」
ルナグリズリーが武器を失っって丸腰となった父ちゃんへと猛然と襲い掛かる。
「ナイフが使えなくなったくらいで……諦めるかよ!」
柄だけのナイフを投げ捨てた父ちゃんが、腰のポーチからありったけの煙玉を取り出した。父ちゃんの頭部を丸かじりにしようと、大口を開けるルナグリズリー。
「そんなに喰いたきゃ、喰らわせてやる!」
父ちゃんはルナグリズリーの大きく開いたその口に、火をつけた煙玉を腕ごと突っ込んだ!
「グオッ、グホッ!?」
「ぐううううう!」
口の中で発生する大量の煙に苦しむルナグリズリー。
ヤツは呼吸を欲して煙玉を吐き出そうとするけど、父ちゃんは腕をさらに突っ込んでそれを許さなかった。しかし突っ込んだ腕に牙が刺さっているのか、苦悶の声を上げる父ちゃん。
「間に……合った!」
そしてオレは目標の木へと飛び移り、ようやく父ちゃん達の頭上に辿り着いた。
父ちゃんから貸してもらった大振りのナイフを、手にしっかりと握り込む。
一度目をつむって覚悟を決めると、遥か下方のルナグリズリーに向かって…………高い木の上から一気に飛び降りた。
「うおおおお!」
落下する勢いが物凄く速い!
体に感じる重力の怖さも相まって、オレは自分を奮い立たせるために大声で叫ぶ!
下ではルナグリズリーが、ようやく父ちゃんの腕から解放されたようだ。
ヤツは口の中の煙玉を吐き出すと、新鮮な空気を求め頭を上にあげた。
「グルッ!?」
当然、叫び声もあったしオレに気付くだろう。
だが、もう遅い。
「くらええええええっ!」
オレの体重に高所からの落下速度も加わった大振りのナイフが、ルナグリズリーの鼻面へと根元まで突き刺さる!
「ギャゴアアアアアアッ!!」
「ぐっ! がっ!」
激痛で錯乱して、微弱な衝撃波をまき散らすルナグリズリー。
オレは落下の衝撃に地面をのたうち回る。
「シズクっ!」
「父ちゃ……今……!」
オレの言いたい事を察して、父ちゃんはルナグリズリーの後方へと走っていく。
吹き飛ばされた弓矢を回収した父ちゃんは、血だらけの腕で矢をつがえる。
ヤツへと狙い定めるその矢の先端には、ギラリと光る白い矢じりが見て取れた。
あれがさっき矢に装着したいた「何か」の正体か。
「これで……とどめだっ!!」
父ちゃんが放つ白い矢は、ルナグリズリーの弱り切った衝撃波をも切り裂いて、寸分違わずその口の中に付き立った!
「ウゴッ!」
ルナグリズリーは短く悲鳴を上げると、その頭部を爆散させた。
「す、凄い威力だ……」
「いや、流石にここまでの威力は無い。おそらく体内の鉱石と反応したんだ」
父ちゃんが使ったのは、どうやら月の鉱石で作った特性の矢じりらしい。
どおりで月の鉱石と同じ白い色だったわけだ。
「しかし……見事にふたりともボロッボロだな」
「オレより父ちゃんの腕の方が酷いよ。大丈夫なのそれ」
「これぐらいなら処置すれば、下山するまでは持つだろう」
父ちゃんはリュックから軟膏と包帯を取り出し、慣れた手つきで処置し始める。
オレはその間に、あちこち破れた自分のリュックの補修に取り掛かった。
ボロボロの箇所をちくちくと、糸と針で何とか繋いでいく。
「これ直すのルナグリズリー相手にするぐらい大変なんだけど」
「ははははは!」
その後山の生物を躱しに躱しまくったオレ達は、無事に下山することができた。
けれど、帰って来たオレと父ちゃんのボロボロの姿を見て、怒りの声で説教してくる母ちゃんは、ルナグリズリーより強敵だった。




