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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
26/33

26.白い矢

「ぐはあっ!」


「父ちゃん!」


 衝撃波で吹き飛ばされた父ちゃんは、仔熊と共に数メートルは転がっていた。


「ハァッ、ハァッ……」


 父ちゃんは胸を強打したようで、手で押さえてながら荒い呼吸をついている。

仔熊はどうやら今の衝撃で、事切れてしまっているようだ。


「グオオオオ!」


 しかし仔熊などどうでもいいのか、ルナグリズリーは父ちゃん目掛け真っすぐに向かってくる。マズい! 動きの鈍った父ちゃんを仕留める気だ。


「間に合ってくれよ!」


 オレは父ちゃんを助けるため、木から木へと飛び移っていく。

ルナグリズリーがオレに気付けば、あの剛腕の一撃で仕留められて終わりだろう。

だからヤツが気付きにくい頭上、木の上を急いで移動する事にした。

言いつけを破る事になるけど、父ちゃんの命が危ない今はそんな事どうでもいい!


「グルォオオオッ!」


「ぐっ……ハァハァ。逃げろシズク!」


 身動きが取れないまま、ルナグリズリーに応戦する父ちゃん。

だけど大振りのナイフでは、あいつの攻撃を捌くにも限界があって……

強靭な爪を受け止め続けたナイフは、鈍い音を立てて根元から折れてしまった。


「ガアアアアアッ!」


 ルナグリズリーが武器を失っって丸腰となった父ちゃんへと猛然と襲い掛かる。


「ナイフが使えなくなったくらいで……諦めるかよ!」


 柄だけのナイフを投げ捨てた父ちゃんが、腰のポーチからありったけの煙玉を取り出した。父ちゃんの頭部を丸かじりにしようと、大口を開けるルナグリズリー。


「そんなに喰いたきゃ、喰らわせてやる!」


 父ちゃんはルナグリズリーの大きく開いたその口に、火をつけた煙玉を腕ごと突っ込んだ!


「グオッ、グホッ!?」


「ぐううううう!」


 口の中で発生する大量の煙に苦しむルナグリズリー。

ヤツは呼吸を欲して煙玉を吐き出そうとするけど、父ちゃんは腕をさらに突っ込んでそれを許さなかった。しかし突っ込んだ腕に牙が刺さっているのか、苦悶の声を上げる父ちゃん。


「間に……合った!」


 そしてオレは目標の木へと飛び移り、ようやく父ちゃん達の頭上に辿り着いた。

父ちゃんから貸してもらった大振りのナイフを、手にしっかりと握り込む。

一度目をつむって覚悟を決めると、遥か下方のルナグリズリーに向かって…………高い木の上から一気に飛び降りた。


「うおおおお!」


 落下する勢いが物凄く速い!

体に感じる重力の怖さも相まって、オレは自分を奮い立たせるために大声で叫ぶ!

下ではルナグリズリーが、ようやく父ちゃんの腕から解放されたようだ。

ヤツは口の中の煙玉を吐き出すと、新鮮な空気を求め頭を上にあげた。


「グルッ!?」


 当然、叫び声もあったしオレに気付くだろう。

だが、もう遅い。


「くらええええええっ!」


オレの体重に高所からの落下速度も加わった大振りのナイフが、ルナグリズリーの鼻面へと根元まで突き刺さる!


「ギャゴアアアアアアッ!!」


「ぐっ! がっ!」


 激痛で錯乱して、微弱な衝撃波をまき散らすルナグリズリー。

オレは落下の衝撃に地面をのたうち回る。


「シズクっ!」


「父ちゃ……今……!」


 オレの言いたい事を察して、父ちゃんはルナグリズリーの後方へと走っていく。

吹き飛ばされた弓矢を回収した父ちゃんは、血だらけの腕で矢をつがえる。

ヤツへと狙い定めるその矢の先端には、ギラリと光る白い矢じりが見て取れた。

あれがさっき矢に装着したいた「何か」の正体か。


「これで……とどめだっ!!」


 父ちゃんが放つ白い矢は、ルナグリズリーの弱り切った衝撃波をも切り裂いて、寸分違わずその口の中に付き立った!


「ウゴッ!」


 ルナグリズリーは短く悲鳴を上げると、その頭部を爆散させた。


「す、凄い威力だ……」


「いや、流石にここまでの威力は無い。おそらく体内の鉱石と反応したんだ」


 父ちゃんが使ったのは、どうやら月の鉱石で作った特性の矢じりらしい。

どおりで月の鉱石と同じ白い色だったわけだ。


「しかし……見事にふたりともボロッボロだな」


「オレより父ちゃんの腕の方が酷いよ。大丈夫なのそれ」


「これぐらいなら処置すれば、下山するまでは持つだろう」


 父ちゃんはリュックから軟膏と包帯を取り出し、慣れた手つきで処置し始める。

オレはその間に、あちこち破れた自分のリュックの補修に取り掛かった。

ボロボロの箇所をちくちくと、糸と針で何とか繋いでいく。


「これ直すのルナグリズリー相手にするぐらい大変なんだけど」


「ははははは!」





 その後山の生物を躱しに躱しまくったオレ達は、無事に下山することができた。

けれど、帰って来たオレと父ちゃんのボロボロの姿を見て、怒りの声で説教してくる母ちゃんは、ルナグリズリーより強敵だった。

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