25.ルナグリズリー
「がはっ!?」
オレの体中に激痛が走る。
さっき吸った空気が、全て吐き出される程の衝撃だ。
重力に従って、そのままべしゃりと地面に落ちる。
「一体何が、ゲホッ、起こったんだ?」
「グルアアアアアア!」
「ちいっ! 狩人が近接で戦う相手じゃないぞ!」
声を頼りに父ちゃんを探し当てると、巨大な灰色のクマの剛腕を躱している所だった。父ちゃんの1.5倍はありそうな巨大なクマの胸のあたりには、大きな白い三日月模様が見える。もしかして、あれがルナグリズリーなのか?
「ゴアアアアアアアアアッ!!」
「くっ……!」
大声で吠えたクマの口から、父ちゃんに向けて衝撃波が放たれる。
ギリギリで避ける父ちゃん。衝撃波は直線上の草花を飛び散らせ、木をえぐった。
オレの倒れている方向よりも、随分と離れた場所に衝撃波はぶつかっている。
「もしかして父ちゃん、オレのせいで戦いづらいのか?」
父ちゃんをよく見ると、衝撃波を放とうとするルナグリズリーの向きを、オレのいない方向へと誘導しているのが分かる。衝撃の範囲が狭いから何とかなってるけど、本来なら複数人の戦士で戦う相手。このままでは早晩衝撃波に捉まるだろう。
ここで倒れているオレは、完全に足手まといだった。
「んぎぎぎぎ……っ!」
とにかくこのままではいけないと、痛む体を押して立ち上がる。
何か軽いと思ったら、背負っていたリュックが無いせいだった。
後ろを見れば、ボロボロになったオレのリュックがそこにあった。
衝撃波をまともに受けたのか、肩ひもの部分はちぎれてしまっている。
あたりには零れ落ちた月の鉱石が、バラバラと地面に散らばっていた。
「父ちゃん! オレは大丈夫!」
「シズク! そのまま隠れてろよ!」
立ち上がったオレは、大き目の木の後ろへと身を隠す。
途中、鉱石と同じく地面に転がっていた大振りのナイフも回収してある。
そして衝撃波が当たらないように、木を登って高所に避難した。
「グオッ? ギャゴオオ!?」
「凄い、父ちゃんの動きが全然違う」
息をひそめて木の上から覗いた父ちゃんとルナグリズリーの戦い。
その趨勢はさっきとは違って、父ちゃん優位で傾いていた。匂い袋を鼻先にぶつけたかと思えば、滅茶苦茶に振り下ろされる凶悪な爪をかいくぐって、かなりの距離を取る事に成功していた。
「ギャガアッ!」
そして狩人の、父ちゃんのいつもの狩りのスタイルである弓だ。
放たれたその鋭い矢は、小さな的であるルナグリズリーの片目を的確に射抜いた。
「ゴアッ! ゴアアア!」
片目を失ったルナグリズリーが、矢が飛んできた方向へ怒りの衝撃波を放つ。
しかしそこには既に父ちゃんはいない。自分の居場所を悟られないように、次の場所へ移動していたからだ。
「グルルルル? グギギャャア!」
手ごたえの無さにおかしく思ったのか、父ちゃんを探しに近づくルナグリズリー。そのルナグリズリーの脚に、トラバサミが牙をむく。父ちゃんが移動の際に設置した罠だ。そして間髪入れず矢を斉射、ルナグリズリーの躰はどんどん傷ついてゆく。
「グル、ウウウゥ……」
「随分タフな個体だな。だが……」
ここからじゃ聞こえないけど、父ちゃんは何かをつぶやいた後、腰のポーチから何かを取り出して矢にい装着した。かろうじて生きているルナグリズリーに、それで止めを刺すつもりだろう。
「ギャオオオッ!」
「あっ!?」
けれど矢を放つ前に、突然父ちゃんの横の茂みが揺れた。
そして今まさに狙いを定めてる父ちゃんへ、小さな灰色の塊がぶつかっていった。
「くうっ!こいつは……子持ちの個体だったか!」
「ガウッ、ガウッ!」
ぶつかったその正体は、まだ小さなルナグリズリーの子供だ。
小さいと言ってもそこは元が大きな生き物だ。オレと同程度の大きさはある。
おそらくは、今戦っているあのルナグリズリーの仔だろう。
父ちゃんは咄嗟に弓矢を投げ出して、仔熊の体当たりを受け止めていた。
「だがこの程度の大きさなら!」
「ギャウンッ!?」
腰から引き抜いた大振りのナイフで、父ちゃんは仔熊の首筋を掻き切る。
「ガ……ガア……」
「グルゥ!?」
一撃では仕留めきれなかったようだけど、仔熊にはもう戦い力を残っていない。
親のルナグリズリーは、それを目の当たりにして声を上げる。
親らしく、仔を心配する戸惑いの声だろう。
「くそっ! こいつ……」
父ちゃんの焦りの入った声に何事かと見てみると、立てなくなった仔熊が父ちゃんの上にのしかかるように倒れ込んでいた。
「グ、グルウ……ウウ」
弱弱しい声で親に助けを求める仔熊。
しかし何を思ったのか、手負いの親ルナグリズリーは。
「ゴアアアアアアッ!!」
自分を助けようと、果敢に出て来たその仔熊をも巻き込んで、父ちゃん諸共衝撃波で吹き飛ばした。




