22.トマスさんからの手紙
「父ちゃん。父ちゃん宛てに手紙が来てるよ」
いつものように天の軍にかこつけて、ニノと訓練してきたその帰りの事。
家に玄関のドアに、父ちゃん宛の手紙が挟んであった。
「トマスさんからか」
手紙の差出人は、鍛冶屋のトマスさんみたいだ。
父ちゃんが矢じりを依頼することはあるけど、いったい何の用だろう。
「あら珍しいわね。なんて?」
「なんでも月の鉱石が不足しているらしい。その採掘の依頼だな」
「なんで鉱石を掘ってくる依頼? 父ちゃんは狩人でしょ?」
鉱夫でもない父ちゃんに鉱石を掘ってこいだなんて、トマスさん手紙を出す相手を間違えたのかな。トマスさんはそろそろ息子に仕事を継がせたいとか言ってたし、ちょっと歳で判断力が落ちてるのかもしれない。
「うーん、そうだな。シズクも知っておいた方がいいかもしれないな」
オレの分のミルクをテーブルに用意すると、父ちゃんは深々と椅子に座る。
あ、父ちゃんのこの座り方……これ、絶対話が長くなるやつだ。
母ちゃんもそれが分かったのか、晩ごはんの仕込みに台所へ避難してしまった。
「魔獣であるルナスグリズリーは、咆哮で衝撃波を放つのは知ってるな?」
「うん」
吠え声と同時に三日月型の衝撃波を出す、って父ちゃんが前に話してたやつだ。それがどうしたんだろ?
「実はアレ、ヤツの体内で作られる鉱石があって初めて出せるんだ」
「なら、ルナスグリズリーのお腹からその石を?」
なるほど、ルナスグリズリーを狩るのなら、確かに狩人の父ちゃんが適役だ。
トマスさんが父ちゃんを頼って依頼してきたのもわかる。
歳で判断力が落ちてるとか考えちゃってホントごめん。
「いや、ルナスグリズリーの体内鉱石は大抵小さいし、狩ってもあんまり意味がない。まあ、他の素材はいい値で売れるんだが」
「え、そうなんだ。じゃあどうするの? 沢山狩るとか?」
「ははは。いくら父ちゃんでもヤツを何匹も相手にしては、命がいくつあても足りないぞ。一匹でも傭兵や騎士ですら、複数人で相手するんだからな」
熟練の狩人である父ちゃんでもそうなのか。
単に衝撃波を出す熊だと思ってたのに、ルナスグリズリーって強いんだな。
実物は見たことない想像もつかないけど、今のオレじゃ全くかなわなさそうだ。
「ルナスグリズリーは体内の鉱石が大きくなりすぎると、定期的にそれを吐き出すんだ。それを狙う」
「うわ……なんか汚いね」
「汚……うん、まあそういうもんなんだ。問題は鉱石を運ぶ人員を雇うかどうかだ。量は無いから一人でいいんだが、トマスさんの方からは出せないみたいでな」
荷運び役……。量は無いって言ってるし、もしかしたらオレでも出来るのかな?
「はいはい、飲み物だけじゃ口寂しいでしょ」
「お、いいな蛮族イチゴか。シズクも好きに食べろよ」
母ちゃんが食べ物を用意してくれたようだけど、オレはそれどころじゃない。
父ちゃんが言ってた荷運び役をどうするのかが、気になってしょうがない。
でも父ちゃんがモリモリと食べ始めたせいで、結局話は途中で終わってしまった。
晩ごはんも風呂もとっくに終わって、オレ達子供は寝る時間になる。
眠たそうに目をこしこししてる妹のパジャマのボタンをとめて、着替えは完了だ。
寝る準備が出来たミリカとふたり、子供部屋のベッドに横になった。
「にいちゃおやすみ~」
「うん、おやすみミリカ」
おやすみのあいさつも終わったばかりだというのに、ミリカを見ればもうスヤスヤと寝息を立て始めていた。
「荷運び人か……」
オレは真っ暗な天井を見つめながら、さっきの父ちゃんの話のことを考える。
「ん? まだ起きてたのかシズク」
しばらくそうしていたら、オレたちの様子を見に来たのか、明かりを持った父ちゃんが部屋に入って来た。ランプの光に照らされた父ちゃんの顔は軽くホラーだったけど、オレはさっきまで考えていた事を思い切って聞いてみる。
「父ちゃん。荷運び役ってオレにも出来ないかな」
「どうしてまだ起きていると思ったら、そんなことを考えてたのか」
父ちゃんは少し考えこんだ後にため息をついた。
やっぱり子供のオレじゃダメなのかな……そう思っていたオレの頭に、ポンと父ちゃんのゴツゴツして大きくて手がのせられる。
「仕方のない息子だ。父ちゃんの言う事は、絶対に守ると約束できるか」
「っ! できる!」
「あっ、しーっ! しーだぞシズク。ミリカが起きちまう」
しまった、嬉しさのあまりつい大声が出てしまった。
オレは両手で口を塞ぎながら、音を立てないようにコクコクとうなづいく。
父ちゃんがあわててミリカの方を見たけど、わが家の小さな天使は相変わらず夢の中だった。
「あなた、本当に大丈夫なの?」
「俺の長年の経験を信じろ。シズクを危険な目に合わせはしないさ」
「父ちゃん早く早くー!」
次の日の早朝。
本来なら今は素振りを始める時間だけど、今日は別だ。
大き目のリュックを背負って準備も整っているオレは、向こうで母ちゃんと話している父ちゃんを急かす。楽しみすぎてあんまり眠れなかったけど、元気はあり余ってるぐらいだ。
「シズク! 約束!」
「父ちゃんの言うことは絶対に守る!」
「よし! 一の山へ、月の鉱石を掘りに出発だ!」




