21.危険な代物
ディアスとの模擬戦が終わっても、オレはまだ練武場に残っていた。
何故かというと、先の模擬戦があんなんだったからな。
消化不良の解消ついでに、訓練する事にしたと言う訳だ。
「ふっ……! ふっ……!」
なのでオレはイメージで作り上げた強敵相手に、一人黙々と剣を振るっている。
今はラブ先生とエイファねーちゃんを混ぜた感じでイメージを作っていた。
ニノみたく型をなぞる訓練方法は、あんまり得意じゃないんだよな。
「ふうっ……!」
ちなみにふたりを混ぜたイメージは、とんでもない美少女になっている。
「シズクも結構、筋力が付いてきたわね」
「おうっ、毎日頑張ってるからな! 筋力も結構……筋力?」
筋力と聞いて、イメージにハッスルマッスルのおっさんが混じってしまった。
うっ……とんでもないモンスターが出来てしまったぞ。
恐ろしい強敵のイメージをかき消すため、訓練は終了しよう、うん。
「あら、唐突に終わったわね」
「はは……オレには手に負えなくて」
「ふーん……?」
ニノが不思議そうに首をかしげる。まあ……察してくれ。
イメージによる訓練は、オレが思っていたよりも長い時間やっていたらしい。
気が付けば、オレは全身汗みずくだった。
「ご苦労様シズク」
オレの様子を見て気を利かせてくれたのか、ニノはオレの鞄からタオルを出して持って来てくれる。
「さんきゅニノ」
汗を拭き始めると、途端にタオルは水分を吸って重さを増した。
ふぅ……結構いい訓練になったな。
「ニノ、鞄に仕舞っておいてくれるか?」
オレは拭き終わって汗を吸ったタオルを、ニノに向かって放り投げる。
「わ、結構汗かいてるじゃない」
「そりゃ訓練したばっかりだしな」
ニノはタオルを上手にキャッチすると、またオレの鞄を開けてタオルを仕舞う……と思ったけど、何故かそんな様子もない。
「すーはぁー……すーはぁー……。このタオル、汗のにおいがするわ」
「いや、嗅ぐなし」
見れば顔を近づけて匂いを嗅いでいるニノ。
「まったくレディにそんなものを。すーはぁー……すーはぁー……」
いやぁ、レディはそんな事をしないと思うぞ。
180度真逆の行為だ。
「嗅ぎ過ぎですお嬢様」
「すーはぁー…………はっ!?」
帰りが遅いニノを迎えに来たんだろう。
コリエルさんが、練武場の小窓から顔を覗かせている。
「こ、これは危険な代物だわ」
「はい、危険でございますねお嬢様が。見事な危険人物です」
人のタオルを危険物扱いするニノへ、着いて早々にツッコミを入れるコリエルさん。いい加減鞄に仕舞ってくれないかなあ……。
「……シズク、このタオルあたしが洗ってあげるわね」
また何か言いだしたぞこいつ。
「え? いや家で母ちゃんに洗っ」
「いいの! 持って帰るの!」
「お、おう……」
普通に家で洗おうと思ったのに、持ち帰りを強弁するニノ。
大丈夫かな……色んな意味で……。
「申し訳ございませんシズクさん、ちゃんと返しますので」
「早く帰るわよコリエル! 鮮度が大事なんだから!」
「本当に申し訳ありません」
ニノはまるで、ヒノタイの寿司職人みたいな事を言いながら、足早に帰っていった。オレに向かってペコペコと、もげそうなくらいに頭を下げるコリエルさん。
……結局コリエルさんの言ったとおり、タオルはちゃんと帰ってきた。
一か月後だったけど。




