20.VSディアス
今日の授業も全て終って、問題の放課後になった。
オレとディアスは、練武場までの廊下を互いに並んで歩いている。
後ろには大剣組の皆が、オレ達の勝負を見るためぞろぞろと付いて来ていた。
「そういえばディアスとは、まだやり合ったことはなかったな」
「フン……様を付けろ庶民が。そんなのテメーが逃げていただけだろう?」
喧嘩腰のディアスと話しながら、練武場に足を踏み入れる。
勝負をするからには、まずは木剣が無いと話にならない。
オレは武器倉庫に向かい、握りがしっくり来る木剣を手に取った。
うん、これでいいか。
「まあいい、特別に僕の本来のスタイルで相手してやるぜ」
既に模擬戦場に立つディアスを見れば、どうしてか木剣を二本持っていた。
授業ではいつも一本だけだったけど、これが本来のこいつのスタイルなのか。
「二刀流になった僕の強さを見て、ちびるんじゃねーぞ?」
「そっちこそ、オレが勝ったらポール達に謝れよ」
「テメーは勝てねーよ。テメーには何をしてもらうか……まあ後のお楽しみだな」
ディアスは自分の勝利を確信してるのか、ニヤニヤとした笑いを崩さない。
二刀流になった自身の強さに、それほどまで自信を持っていんだろうか。
こうも自信たっぷりに言われると、逆にワクワクしてくるな。
ならばその強さ、どれ程なのか見せてもらう!
「用意はいいわね? それでは……始め!」
皆が見守る中、ニノの合図が練武場に響き……。
オレとディアスによる、模擬戦という名の私闘じみた戦いが始まった。
「オラァ!」
立ち上がりは、オレの腹を狙ったディアスからの横薙ぎだった。
オレも攻め気は強いけど、ディアスはオレの更に上を行く超が付く程の攻撃型だ。
授業の模擬戦でもそうだったし、二刀流に変わってもそこは同じみたいだ。
「はあっ!」
「へっ、も一発だあ!」
打ち込まれた木剣を弾くと、すぐにもう片方の木剣がオレの首筋を狙ってくる。この速度なら対処できない程じゃない、オレは焦らずにもう一度その剣を弾いた。
「なかなかやるじゃねーか」
「そらどー、もっ!」
オレはお返しとばかりに、ディアスの胸部中央を狙って突きを放つ。
けれどオレの突きはディアスに届く前に、交差した木剣の真ん中で止められた。
「器用だなお前」
続けざまに、今度は上段から袈裟懸けに振り下ろす。
「うおっと!」
しかしそれもまた、交差した木剣の真ん中で止められた。
「まあ中々の剣筋だが、僕の二本の二刀流には通用しねーよ」
小手調べ程度の剣では流石に通らないか。
それにしても、何で一々剣を交差させて受け止めるんだろ。
「今度はこっちの番だぜぇ!」
「来い!」
「喰らえやぁ! ダブル・ソード!」
ディアスを両手の剣を上に構え、オレの両肩目掛け振り下ろしてきた。
オレは一瞬迷いが生じたせいで、弾く剣先がブレてしまった。
「ほう……やるじゃねーか。流石は大剣組トップと言うだけはあるな」
「お前こそ。今のは迷ったぞ」
両手の剣を上にあげたディアスの構え。あれは罠、誘いだ。
あのいかにも見え見えに、隙をさらけ出したあいつの胴体。
オレがそこを攻撃していれば、逆に何かしら手痛い反撃を受けていたに違いない。あれはディアスが前の学校で習っていた、イグラント流剣術の型のひとつだろう。
「だがテメーの底は見切ったぜ!」
ディアスは攻撃型と見せかけて、実はカウンター型なのかもしれない。
授業での模擬戦を見ている限りは、ポールが怯む程に超の付く攻撃型だった。
けれど二本の剣で本気を出した今、その攻撃スタイルまで変しているのだろう。
だからオレはディアスが見え見えの隙を見せても、剣を弾くだけに留める。
カウンターを警戒して、もう少し様子を見ることにした。
「オラオラ!降参するなら今の内だぜ!」
見え見えの隙を無視して、剣を弾く。
カウンターを警戒してもう少し様子を……。
「貴族であるディアス様に逆らってごめんなさいって土下座するんだなぁ!」
見え見えの隙を無視して、剣を弾く。
カウンターを警戒して……。
「どしたどしたぁ! 弾いてるだけじゃ勝てねえぞ!」
見え見えの隙を無視して、剣を弾く。
カウンター……
「あれ……?」
「どうした降参か? だがダメだ。テメーの血を見るまで僕の気は収まらねー!」
「いや……」
ディアスはわざと隙を見せて、オレの攻撃を誘ってるのかと思った。
けど、これってわざとじゃなくて、普通にただの隙なのではないだろうか。
「お前って授業での模擬戦の時は、確かにポールより強かったと思ったんだけど」
「分かってるじゃねえか! だがちょっと違うな。僕はテメーよりも強え!」
オレの言葉を聞いて、得意げな顔を見せるディアス。
オレの言いたい事はそうじゃなくて……。
「でも……二本の今、なんだか一本の時より弱くなってないか?」
「なんだとこの庶民が!」
いや、ホントに。
だってこいつ、わざわざ二本の剣で交差して攻撃を受けたり、構えにこだわって攻撃の前が隙だらけなんだもん。
「だってさあ……」
「うるせー! 剣より口が上手いのはニノと一緒のようだな!」
聞いてくれ、頼むから。
「前校の全庶民が恐れた、僕のフェイバリットアタックをお見舞いしてやる!」
フェイバリットアタック……俗に言う必殺技的なやつだろうか。
自信たっぷりに言い放ったディアスが、両手の剣を交差して上に構える。
さっきのダブル・ソードとやらに似た、特異な構えだ。
ここからどんな剣を繰り出してくるのか。
「数々の戦士を屠ったこの技を出す以上、テメーが勝てる確率は……ゼロだ!」
いや、そもそもこれって……。
さっきの隙だらけの攻撃を、もっと隙だらけにしただけなんじゃないだろうか。
どうかオレの勘違いであって欲しい。
「ダブルソード・マキシマム!」
高らかに技名を叫びながら、ディアスが繰り出したオレへの攻撃。
それは案の定、さっきと変わらない両肩への振り下ろしだった。
これは酷い。ダブル・ソードとやらよりも、輪をかけて酷い。
剣を交差した分が意味ないどころか、更に振り下ろしの邪魔になっている。
「あのさあ……」
オレは今度こそ、その特大の隙をさらす胴体に普通に突きを入れた。
「ぐわあああ───っ!?」
ディアスはオレの突きをまともに受けて、ものの見事に転倒した。
「本当に授業の時より弱くなってるわね。今なら多分ポールでも勝てるわよ」
「おれを引き合いに出すなあ!」
二刀流はいいんだけどさ、構えにこだわるなよ。
どうして本来のスタイルとやらで本気を出してるのに、逆に弱くなるんだ……。
もう勝負はついたと思うけど、ディアスは立ち上がろうと躍起になっている。
「い、今のは振り上げが足りなかっただけだ! 次は本気の本気で……」
ディアスは本気でそう思っているらしく、まだ模擬戦を続けようとしていた。
もう、終わってもいいかな……いいよね。
「その二刀流、やめたほうがいいと思うぞ」
「ぐううう、負け惜しみ言いやがって!」
いや、負けてるのお前じゃん……。
なんて面倒くさいやつなんだ……。
「イグラントにいた時もこうだったのかな」
「前の学校の人達は、忖度して負けてくれてたのかも」
「こいつ貴族貴族主張が激しいしな。ありそうだ」
呆れたニノがもっともらしい事を言う。
貴族だ庶民だと、身分でマウントを取りたがるこいつの事だ。
確かにそういう事があったかもしれないな。
「なにい? 僕は男爵の息子だと、庶民達相手に正しく挨拶してやっただけだ!」
「いやいやいや、がっつり忖度される下地作ってじゃん……」
切れたら何するか分からないやつだからなぁ。
イグラント校の人達も、ディアスに花を持たせてやったんだろうな。
それに気付かずにどんどん増長して、あの変な癖が付いたのかもしれない。
普通に剣一本なら結構やれるのに、勿体ないやつだ。
「くっ、黙っていれば好き勝手人を侮辱しやがって!」
「「「黙ってない黙ってない」」」
ツッコミどころ満載なディアスを見て、黙っていられなかったのだろう。
試合を見ていた周りの皆からも、とうとう合いの手が入りはじめる。
「男爵である親父に言いつけてやる!」
「その場合、流石にあたしもお父様に詳細を説明する事になるんだけど……」
そういやニノの父ちゃんは、伯爵でここら一帯の領主だったな……。
オレにとってはただの気のいいおじさんだし、あんまり気にした事無いけど。
ニノの話だと領地軍も持ってるっていうし、かなりの権力があるんだろうなあ。
「汚えぞ! 権力を傘に着やがって!」
「えぇ……」
ディアスが悔しげに吐いた言葉。
その言葉によってこの時、大剣組の皆の心はひとつとなった
「「「おまゆう」」」
そしてディアスと言えば、この日から貴族だとか庶民だとか二度と口にしなくなったのだった。




