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あめつちのシズク  作者: 相田リキ
少年期
17/33

17.涙の後に

「この人って……エイファ選手?」

 

 突然のエイファねーちゃんの登場に驚いて、オレだけじゃなくニノも涙が止まっていた。


「……ねーちゃん」


「ほラ、涙を拭くヨ。エイファに奥の手まで切らせたんだから、胸を張ル!」


 医務室に入って来たねーちゃんは、そのままベッドまで歩いて来ると、オレの涙そっとぬぐってくれた。そして続けざまにオレのほっぺたをペチと軽く叩く。


「元気でたカ?」


「……うん!」


「それでこそ男の子だヨ」


 さっきの真面目な顔とは打って変わって、にっこりと笑うねーちゃん。

でもそのねーちゃんをよく見ると、片腕が包帯で吊り下げられてた。

どうしたんだろ、あんなに硬く出来る技を持ってるのに……。


「この腕、気になるカ?」


「あ……うん。どうしたのかなって」


 オレの視線に気づいたのか、ねーちゃんは手をヒラヒラさせる。


「いやア、この国にもとんでもない達人がいるもんだネ。エイファの発頚でもフラつくだけだったし、硬気功で防御してもこのザマだヨ」


 あれを受けてフラつく程度で、あの硬さもものともしなかっただって?

そんなとんでもない事を出来そうな出場者に、一人だけ心当たりがあった。

ニノも思い当たったらしく、あー……と小さな声を上げていた。


「もしかして……」


「ダイ……ハッスルマッスル選手?」


「そウ、そのふざけた名前の筋肉男ヨ」


 やっぱりそうだった。


「決勝で当たったけど、あんなの反則だヨ。全部筋肉でしてやられたネ」


 そうかあ……筋肉でかあ……。

ムッキムキだもんなあ……。


「優勝したら、肉体をこれでもかと言うほどアピールして去っていったヨ。ちなみに傭兵剣士なんて、一撃であばらと剣を折られて場外まで吹き飛ばされてタ」


「マジかよ……あのグランツって剣士もなかなか強かったのに、とんでもないなおっちゃん」


「……頭が痛くなってきたわ」


 ねーちゃんの話を聞いて、なぜかニノは頭痛が始まったらしい。

うんうんと、頭を抱えてしきりにうなっている。


「それデ」


 まだ続きがあるのか……。


「試合の後……エイファに、マッスルになる素質があル……って言ってたヨ」


「ぶははは! 素質が認められてよかったじゃん」


 まあ言い方はアレだけど、たぶんおっちゃんなりの褒め言葉なんだと思う。

見た目がマッスルのねーちゃんなんてイヤだし、そう思いたい。


「小さな戦士の少年にも筋肉に光るものがあル、って言ってたけどネ」


「えぇ……」


 筋肉に光るものってなんだ……。

喜んでいいのか悲しんでいいのかわかんねえ。


「あのね、言おうか言わないか迷ったんだけど」


「ん?なんだニノ。そんなもったいぶって」


「あれ……いえ、あの方実は()()()()()()()()なのよね……」


 ニノは深いため息をつきながら、明後日の方を向いてボソリとつぶやいた。


「大丈夫なノこの国……」


 オレもねーちゃんと同じ感想だった。

この国ニルンベルンはもうダメかもしれない。


「あいたたた……っ」


「シズク!?」


 ねーちゃんの発頚にやられた腹の痛みが、またぶり返してきた。

長い時間しゃっべていたからな……しかし、さすがは奥の手の威力だ。

これは治るまで結構時間がかかりそうかもしれない。


「痛むノ?」


「少し……」


 本当は少しじゃない。

けど、オレを認めてくれたねーちゃんに、ちょっとだけ見栄を張ってしまった。


「見栄っぱりネ」


 ねーちゃんはそう言うと、オレを片手で抱きしめてくる。

そしてゆっくりと、優しく背中をさすってくれた。


「んなっ!?」


 ニノがオレたちのその様子を見て、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。

ねーちゃんはそれを気にした様子も無く、しばらくたってからオレを解放する。


「あれ……痛みが」


 オレがさっきまで感じてた鈍い痛みは、いつの間にか軽いものとなっていた。


「気を巡らせたからネ」


 ねーちゃんはそう言って、パチリとオレに向かってウインクする。


「フーッ!」


 そして猫のように毛を逆立てたニノに向かってペロと舌を出すと、後ろに宙返りしてオレから離れた。スタスタと足早に医務室を出ていくねーちゃんは、途中で足を止めるとオレの方を振り返る。


「シズク、その名前覚えておくネ。ヒノタイの国に来た時は、エイファが案内するヨ」


 そう言って今度こそ医務室を出ていった。

ねーちゃんが出ていたドアに向かって、べぇーっと舌を出していたニノがクルリとこちらに向きなおる。


「色々あったけど……シズク、お疲れ様!」


「……おう!」


 戦績は振るわなかったけど、その内容は決して悪くなかったオレの天降ろしの儀は、こうして幕を閉じたのだった。

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