16.戦いの後
目を覚ますと、目の前にあったのはどアップになったミリカの顔だった。
「かあちゃ~! にいちゃがおきた~!」
ミリカの大きな声を聞いた母ちゃんと父ちゃんが、バタバタとあわてた様子で駆けよって来る。
「シズク! 大丈夫かい?」
「起きなくていいぞ、体が痛むだろう?」
「体が……痛む?」
心配そうに声をかけてくる父ちゃんと母ちゃん。
ふたりにかけられた言葉の意味を考えて、オレは自分の状態をようやく自覚する。
「つっ……」
腹の痛みだ。
途端にズキズキと、腹のあたりから鈍い痛みが襲ってくる。
気を抜くと吐いてしまいそうだ。痛みに耐えるためシーツを握りしめる。
……シーツ? もしかして、ここは医務室でオレはベッドの上なのか?
オレはどうしてここにいるんだっけ……。
「シズクが目を覚ましたって本当っ!?」
「お嬢様、そんなに走っては傷に響きますよ」
「それよりシズクよ! 立ったまま気絶したって聞いた時は驚いたわよ!」
医務室に飛び込んで来たニノが、入って早々にまくし立てる。
その後ろから歩いてきたコリエルさんは、ニノを強引に椅子へすわらせた後、オレの方へ眼を向けた。そしてオレが目を覚ましているのを見ると、ぺこりと頭を下げた。
「ニノちゃいたそ~」
「大丈夫かいニノちゃん?」
「お嬢様の手当はもう済んでいますので」
手当がすんだらしいニノは、それでもあちこちボロボロだ。
「こんなのつば付けとけば治るわよ」
「付けたのは薬でございますけどね」
どうやらオレはねーちゃんの技を受けたあの後、立ったまま気絶したらしい。
全身に感じるダルさの中、ズキズキと痛む腹をなでさする。
「ああ……負けたのか」
痛みで自分が何をされて、どうして気を失ってしまったか思い出した。
発頚、って言ってたっけ。ねーちゃんの圧倒的なまでの威力を持ったあの技。
「ハハ、あれは……腹が無くなるかと思ったなあ」
「シズク……」
明るく振舞おうとしたけど、上手く笑いを作れ無い。
「……ちくしょう」
目の奥がじわり熱くなって、オレの頬を涙が次々と流れてく。
元々ねーちゃんみたいな強い大人相手に、本気で勝てるとは思ってなかった。
訓練の成果が出せれば、それでいいと。
けど……。
「くやしいなあ」
「に、にいちゃがないちゃったら、ミリカまでかなしくなるよぉ……」
ミリカが目に涙をためて、今にも泣き出しそうなほどに顔をゆがめてる。
お前まで泣かなくていいんだぞ、そう言いかけた時……。
「うわ~~ん! うわ~~~~~ん!」
それまで静かだったニノが、大粒の涙を流しながら声を上げた。
「う……ぐす……え~~~~~ん!」
その声を聞いたミリカが、ついにこらえきれずに泣き出す。
「うっ……うっ……」
「うわ~~ん! うわ~~~~~ん!」
「え~~ん! え~~~~~ん!」
三人の子供の泣く声が医務室に響く。
「あらあら、三人して……」
「このまま泣かせてあげましょう。その方がきっと……」
「だな。悔し涙は流した数だけ子供を成長させてくれるもんだ」
泣ているミリカを連れて、父ちゃんたちは医務室からそっと出ていった。
オレはまだくやしさで涙が収まりそうに無くて、嗚咽の出るままに任せていた。
「おヤ、このエイファ相手に堂々と最後まで立っていた立派な戦士が、なに泣いてるネ」
だけどその嗚咽を止めさせたのは、オレを負かした異国の戦士であるエイファ本人だった。




