13.ニノの戦い
「くっそ~……あれはなかったなあ」
試合が終わって、オレは控えの席に戻っている。
特にケガも無く、無事に勝ち進んだことはいい事だろう。
でもその内容には納得できなくて、オレは悔やみの言葉をはき出していた。
「本当よ! あんな、き、キキキキ……」
「そっちは割とどうでもいいんだけどさ」
「んなっ!?」
ニノの勘違いはともかく、残心が出来てなかったのは戦う者としては致命的だ。
「勝ったと思って、すっかり気を抜いてたからなあ」
「……コホン。詰めが甘かったわね! あんなミス、ラヴィニカ先生が見てたら注意されてたところよ」
オレもそう思っていたから、くやしいけどニノには何も言えない。
相手が転倒したことで、油断して目を離してしまったのは痛い。
あれが実戦だったら、確実にうしろから斬られて死んでたな。
「あたしもシズクと同じようなミスには気をつけなきゃね」
「お、もう勝ったつもりか? それが油断してるって事だぞ」
「むむ、言ってくれるわね。でも確かに、試合の前からこんな気構えじゃダメね」
第八試合も終わり次は一回戦の最後、ニノの出番である第九試合だ。
ニノの選んだ武器はオレと同じく小剣にしたようだ。
……まあこれしか子供があつかえる物が無いからなんだけど。
今は学校で習った剣の型をなぞって、その具合を確かめていた。
「次の戦士、武舞台へ!」
ニノは何度か深呼吸をして自分を落ち着かせると、気分を戦う時のものに切りかえたようだ。学校での模擬戦の時みたく、その目つきは真剣なものになっていた。
「行ってくる!」
「おう、がんばれ!」
元気よく武舞台へ駆けあがるニノ。
気合はじゅうぶんみたいだけど、あんなに走って大丈夫かな?
試合途中でせきが出なければいいんだけど。
「お、またちっこいのが出て来たぞ!」
「今回の天降ろしの儀は面白いな」!
祭りだけあってここの観客は、楽しければ何でもいいといい人が多いらしい。
オレの時と同じように、子供のニノが出場者でも歓迎してくれているようだ。
むしろ大人ばかりの例年よりも楽しんでて、いつもり騒がしいかもしれない。
「それでは一回戦第九試合始めっ!」
そしてニノの試合である、一回戦最後の第九試合が始まった。
「よろしくお願いしますわ、オジさま」
「やれやれ、第七試合に続いて儂の試合までこんな小さなお嬢さんとは……」
ニノの相手はおじさんというよりは、ちょっとだけ年がいっている狩人だった。
見るからにオレの相手より実力はありそうだ。
「……だから、悪いが油断はせんぞい」
狩人のおじさんはそう言って、ニノから距離を取りはじめる。
そしてニノの出方をうかがいつつ、両腰に着いた大き目のポーチに手をつっこんだ。音もなく抜かれたその両の手に、それぞれナイフが握られている。
「なるほど、二刀のナイフ使いなのね。手数は多そうだけど……」
「そう、このナイフを使う」
「それならリーチはこっちが勝ってるわ」
ニノはそのエモノであるナイフを見て、自分の持つ小剣のほうが有利と見たらしい。狩人のおじさんに追いすがろうとしていたニノが足を止める。
その場で狩人のおじさんを待ち構えるつもりのようだ。
「いいのかね? 足を止めても」
足を止めたニノは中腰となり、迎え撃つため正面に小剣を構える。
それを見た狩人のおじさんは、それで良いとばかりに口の端が上げた。
「バカッ、ニノ横に飛べ!」
「えっ?」
ドッ
「かはっ……!?」
直後、木のナイフが突き刺さるような勢いで、ニノの柔らかい腹部を強打した。
痛む腹をかばうように片手で押さえながらも、あわてて狩人のおじさんに向かって駆けるニノ。だけどそこは長年の狩猟スタイルによるものなのか、狩人のおじさんは一定の距離を保ちつつ、次々とナイフを投げつける。
「ふぬっ! ぬぬぬぬ……ち、近づけない~」
動きながだとら剣でねらいが付けにくいのか、ニノは数本だけナイフをはじく事に成功していたけど、それだけだ。はじきそこねたナイフによって、みるみるダメージを重ねていくニノ。それはまるで狩猟のようで、ニノは狩人のおじさんのエモノだった。そういえば父ちゃんも言ってたっけ。腕のいい狩人は、エモノを弱らせるまでは決して近づかないって。
「うぐ……こほっこほっ……はぁ……はぁ」
「だ、大丈夫か頑張れー!」
はじき損ねたナイフをまた何度か体で受けて、ニノがついにぐらついた。
息も切れて来たのか、せきも出始めてるし本当につらそうだ。
賑やかだった観客席からも心配の声が飛ぶ。
「頃合いじゃな」
ニノというエモノが弱ったのを確信して、狩人のおじさんは一気に間合いを詰める。ニノは体から力が抜けてしまったのか、肩で息をしながら小剣を持つ腕をだらりと下げていた。
「すぅー……はぁー……すぅー……」
……いや、これは……。
「小さい体でよくぞこれだけ持ったが、これで狩りは終了じゃ!」
ニノににくはくした狩人のおじさんは、両手のナイフをニノの肩口めがけて振り下ろす。
「はああっ!!」
その瞬間、ニノの両の目がカッと開き、その小さな体からは考えられないほどの速さで小剣を振り上げた。
「ぬ、ぐ……っ!?」
まるでためこんだ力を爆発させたような、するどい斬撃。それは反撃する力はもうないとふんだ狩人のおじさんに、深く突き刺さる。ふところまで潜りこんだ事で、逆にさけられない攻撃をみぞおちに喰らう事になった狩人のおじさん。やった!あれは名前は覚えてないけど、脱力と力を爆発させる学校で習った型だ!
ニノのヤツ、これを狙ってたのか……ん?
「危ない危ない、死んだふりとは食えないエモノじゃわ」
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ……こほっこほっ!」
それでもあの一撃だけでは、狩人のおじさんを倒すまではいかなかったようだ。
狩人のおじさんはナイフを落としながらも、またニノから距離をとり始める。
そしてニノはと言えば、さっきの一撃が限界だったのか、小剣を支えにしながらも片膝をついてしまった。息も完全に切れてるし、またせきが出てしまっている。
これはもう……。
「タフなエモノじゃな……なら完全に息の根が止まるまで、このままいかせてもうぞい!」
また腰のポーチから抜き出したナイフが、次々とニノめがけて降り注いぐ。
ニノは覚悟を決めたのか、膝をついたままで小剣を構えた。体はボロボロだけど、
その目はまだ、あきらめてはいなかった。
「はあ─────────っ!!」
襲い掛かるナイフの雨を、ニノは気合と共に切り払い続ける。
「がんばれニノぉー!」
オレはもう我慢できなくなって叫ぶ。
「お嬢様あと少しです!」
「「「うおおお! 頑張れー!」」」
今にも倒れそうなニノ。
それでも耐えて戦っている傷だらけの少女の姿に触溌されたのか、静まりかえっていた観客席がまた沸きだす。
「っ────……」
ニノの声も途切れたころ、ナイフもまた途切れた。
近づいて小突いただけで、今のニノはあっさりと倒れてしまうだろう。
この勝負、悔しいけど狩人のおじさんの勝ちだ。
「ふ────……」
狩人のおじさんもそれが分かったのか、天をあおいでゆっくりと一息つく。
「ナイフが尽きてしまったわい。これでは戦えんの?」
だけど狩人のおじさんは、審判役でもある神官をちらりと見てそうつぶやいた。
「あ……そ、それまで!勝者ニノ!」
「「「あ……え?」」」
おじさんの言いたいことを理解した神官が、数秒遅れてニノの勝利をせんげんする。どう見ても勝っていたのは狩人のおじさんだったため、観客席からも戸惑いの声が上がる。だけどそれは次第に賞さんの声へと変わっていく。
「ステキ!おじさん紳士だわ!」
「あそこでああはなかなか言えるもんじゃないぜ、大したもんだ!」
「ちっこい嬢ちゃんも最後までよく頑張ったぞー!」
両者に声援が送られる中、敗者のおじさんはゆうゆうと退場し、勝者のニノは医務室に消えていく。
「ニノもおっちゃんもすごいな!」
「ええ、素晴らしい試合でございました。それでは私はお嬢様へ付いていますので」
興奮するオレの横を、コリエルさんが気持ち早歩き気味に通り抜けていく。
試合が終わっても観客の興奮はおさまらず、会場にはしばらく拍手がひびいていたのだった。




