12.VS大男
「各々礼を……それでは一回戦第一試合始めっ!」
武舞台を一周し終わって控えの席でまた座っていると、神官の声が響いてくる。
ついに第一試合が始まった。
「うおーゴサークどん! 村一番の怪力を見せてやるだぁ!」
「サーブロー! こっちは長年の木こりで培ったスイングを見せてやれー!」
……まあ、うん。だいたい半分の試合はこんな感じかな。
子供であるオレたちも出られるぐらいだし?
「あっ、ほらミリカちゃんいたわよ。おーい!」
「遠すぎて聞こえないって」
ニノなんかはもうこの試合には興味がないらしく、向こうで記念参加の舞台に立つミリカに声をかけていた。見れば父ちゃん母ちゃんとおばちゃんたちも、向こうでミリカを応援している。
「「「わあああああーっ!」」」
「ああっ、ゴサークどん!?」
ただこういった試合でも、祭りを楽しみに来た観客には大興奮らしく、会場は熱気に包まれる。ちなみにオレは一応真面目に試合を見てた。スゴい泥仕合だった。
「ん? コリエルさんが応援席の最前列で座ってるけど……」
「周りの席も空いてるでしょ? お父様名義でみんなの席も確保してるの」
周りが混みあっている中、けっこうな数の空席を確保して、ひとりぽつんとその真ん中に座っているコリエルさん。あれはメチャクチャ居心地悪そうだ。
「ミリカちゃんも小舞台からおりたし、そろそろみんなこっちに来るわね!」
「そ、そうだな」
「ふふふ、えらいでしょ! 褒めてもいーのよ?」
ああ、えらいぞコリエルさん。
さらし者になってツラいだろうけど、ウチの家族とおばちゃんたちが来るまで、もう少しだけがんばってくれ……うん。
「それでは一回戦第三試合……」
そのあとは順当と言うかなんと言うか、オレの目を付けていた人たちが普通に勝ち上がっていた。やはり一番危険なのは、あのムキムキのおっちゃんだな。
対戦相手だった力自慢の青年の筋肉が、まるで小枝のように頼りなく細く見えた。
そして相手と手四つを組んだと思ったら、圧倒的なパワーでそのまま膝まづかせていた。涼しい顔のまま押しつぶしてくるおっちゃんに、青年は即ギブアップ。
まあ組み合わせ的に、オレが決勝まで勝ち進まないと当たりそうにないんだけど。
「それでは一回戦第四試合始めっ!」
そして待ちに待ったオレの一試合目だ。
木製の武器が並ぶラックから、小剣を選んで利き手である右手で握る。
今のオレだと普通の剣は長すぎるから、選ぶとなると小剣しかないんだよな……。
あとはナイフもあったけど、逆に小さすぎるしなによりオレには扱えない。
「相手は少年だぞ~手加減してやれ~!」
「さっきのちっこいの頑張れー!」
応援やら観戦している人たちの声が気になったのは初めだけだった。
武舞台に立って相手と向き合うと、そんなものは耳に入らなくなる。集中だ、目の前の相手に集中しろ。
「なんだぁ? このクアマッセ様の相手はちっこい小僧じゃないか」
相手はオレのよりずっと背が高く、父ちゃんの横幅の二倍はありそうなクマのような大人の男だ。
「どれ小僧、デコピンしか使わないからかかってこいや」
そう言って相手の男は、分厚くて幅の広い木の大剣を地面にドスンと落とした。
……オレが子供だから、舐められるのはしょうがないだろう。
だけど……オレは遊びに来たんじゃない、訓練の成果を試しに来たんだ!
「ホレ、どうしたどうしっ!? イデッ! イデデデッ!」
「かかって来いって言うから、言う通りにしてあげたよ」
子供だと思って舐めきっているその無防備な額に、木の小剣による連続突きをおみまいしてやる。軽めに放った突きの威力に、大男の額はまるでデコピンされたように赤く腫れあがった。
「こ、この野郎……」
「なんだクアマッセ! 逆にデコピンされてるじゃないか!」
「「「あははははははは」」」
余裕しゃくしゃくだった大男が、逆に子供であるオレにいいようにされたのを見て、観客からからかいの声があがる。
「小僧! ぶっ叩いてやらあああああ!」
観客の笑い者となった大男クァマッセは、自分の言ったことを撤回するように大剣を拾いあげ大上段に構えた。その顔は恥ずかしさと怒りの感情で、それはもう見事なほど真っ赤に染まっている。でもどうやら本気で相手をしてくれるらしい……オレにとってはこれからが本番だ。
「やってみろ!」
「そこを動くんじゃねえぞ!」
大剣を振り上げたままこちらに向かって駆け寄ってくる大男。
ドタドタと怒りのあまり走りも大股だし、下半身はまるで攻撃してくれと言わんばかりに隙だらけだ。
「そこぉ!」
オレは大男が大剣振り下ろせる方向とは逆側に回って、お留守だった足元に小剣を叩き込む。見た目通り鈍重なのか、回り込んだオレに反応できずにまともに喰らってくれた。
「おほっ!おほおっ!?」
「もう一丁!」
痛む片足を抱え、ピョンピョンと飛び跳ねる大男。
大剣も取り落としているし、これはもう隙とかそういうレベルじゃない。
残る片方の足へ止めの一撃。素振りで鍛え上げたおかげか、思い通りの場所にブレずに斬撃を加えることが出来たと思う。いや、これは相手が鈍重だったからかな。
「ぐわあっ!」
とにかく大男は両足を痛打して、前のめりに倒れた。
いまいち訓練の成果が出ていたかは怪しいけど、これでオレの勝ちだ。
「おお!ボウズが勝っちまったぞ!」
「きゃー、シズクく~ん!」
「クァマッセいいとこ無いぞー!」
「へへ、これで二回戦に進出だな」
父ちゃんたちは見てくれてたかな?
観客席に座るウチの家族を見てみると……お、いたいた。ん? なんだ?
父ちゃんがオレの方を指さして何か言ってるようだけど、歓声にまぎれて全然聞こえない。
「シズク後ろっ!」
「ニノ?」
突然のニノの叫び。
何かと思って振り向く前に、オレの片方の足首が強い力で掴まれる。
「うっ!?」
「ぐ、ぐへへ……やっと捕まえたぞ小僧ぉ~」
続いて中空に引っ張り上げらる浮遊感がオレを襲い、気付けば大男に逆さ吊りにさせられた。マズいっ! 父ちゃんたちに気を取られて、ラブ先生にも言われてた残心をすっかり忘れてた!
「今クァマッセ様のこの大剣を、そのどてっぱらにぶち込んで……ふぬっ! ふぬぬぅ! ……やるぜぇ~!」
大男はそう言いながら、片手で大剣をゆっくりと持ち上げ……ゆっくり?
見れば大剣は両手を使ってやっと持ち上げてられた重量だったらしい。
片手ではプルプルして、ゆっくりとしか大剣は持ち上がらないようだ。
「てい」
「おごおっ!?」
オレはちょうどいい位置にあった大男の両足の間に小剣を振り上げる。
「お、オレ様のキンッ……キン……」
股間を押さえながら、大男は今度こそどうと倒れた。どう見ても気絶している。
ごめん……ちょうどいい位置にあったからつい……。
「そ、それまで!勝者シズク!」
「きゃ、きゃーいいぞー……いいの?」
「ま、まあ、ボウズが勝ったみたいだし?」
あれほど歓声飛び交っていた会場には気まずい雰囲気が広がり、オレへの健闘を称える声はほとんど無かったのだった。




