10.仮装二人三脚
スタート地点にはもう結構な人が集まっていたけど、ペア同士や知り合い同士で会話していてけっこうなざわめきだ。
「シズクぅ……」
「あ~ら天使のお嬢ちゃん。おばちゃんとはイヤだったかい?」
「い、いいえ! よろしくお願いします!」
未練がましくこっちを見ていたニノは、ド派手な鳥みたいな仮装をしたおばちゃんとペアになったらしい。押しの強そうなおばちゃんにタジタジだった。
同じ羽と羽だし、龍と龍のオレたちといっしょで、見た目の相性はよさそうだ。
「それではお待たせしました、間もなくスタートです!」
しばらくして全員ペアが決まったのか、ようやくレースが始まりそうだ。
進行役のアナウンスに、選手たちのざわめきがピタリと止まる。
騒がしかった観客も、今は寝静まったようにおとなしい。
「いやぁ~今年も集まりましたね」
「はい、今年は例年より多く、100人を超えましたから実に壮観です」
「思い思いの恰好をした選手達ですが、これゴールまで辿り着けるペアは何組になるんでしょうね?」
「大通りの真っすぐなコースですけど、なんせ仮装でゴテゴテですからね」
「ぶつかりますか?」
「ぶつかるでしょう。私の予想だと~……」
進行役ふたりが今回のレースの予想をしゃべっている。
オレたちはと言うと、他の選手たちに押されて位置取りに手間取っていた。
「オレたちの位置は真ん中らへんか」
「一番前がよかった……まあいいけど」
確かに被り物がぶつかりやすいから、前のほうがいいのはわかるんだけど。
最前列はもちろん、前の方はかってを知ってる常連らしき人たちで、とっくに埋まっていた。うーん、スタートダッシュで前に出るか?でもぶつかるのが怖いしなあ。仮装が壊れた時点でリタイアなので、ここは悩みどころだ。
「初めはどうする?」
「観客ギリギリ近くまでひなんかな。ボクたちは小柄だから」
「なるほどいい手だ」
被り物をしてるから飛龍の子の表情は見えない。
けれど勝負が始まりそうになった途端、さっきまでとは変わって頭を回転させ始めたこいつは、きっと真剣な顔をしているんだろう。
オレも負けてられないな。
「それでは位置について、よぉーい……」
「スタート!!」
「「「わあああああ───────っ!!!」」」
「「「ギャアアアア───────ッ!!!」」」
観客の大きな歓声と、選手達の阿鼻叫喚の悲鳴がいっせいに響き渡る。
スタート直後はこの仮装二人三脚の第一の山場なんだ。
「ったく、いつもながらとんでもないな!」
「うわ……」
みんなスタート直後から早く前に出ようと、我先に身を乗り出すからなぁ。
仮装が余計引っかかって、転倒するペアが続出するんだ。
オレたちは予定通りギリギリまで端に寄って難を逃れたけど、転倒がまた転倒を呼びスタート地点はとんでもないことになっている。
うん、現在進行形なんだ。
「どけぇー!」
「お前こそ!」
「どけどけい!エッグブラザーズのお通りだ!」
「邪魔だよ引っ掛かるだうわあああ!」
次々と転倒していく仮装者ペアたち。
中でも全身着ぐるみでつるっつるの卵の仮装をしたエッグブラザーズとか言うペア
は、他の仮装者を押しのけて引っ掛かりなくスイスイと進んでいく。
「いくぜ兄ぃ!」
「おうよ弟よおぉぉぉぉ!?」
……が、よかったのは始めだけで、エッグブラザーズはすぐ転倒した。
「……まあ、全身ツルツルじゃな」
「えぇ……」
「のおおおおおおおおお!」
そして後ろからなだれ来る他のペア達に踏まれて、卵の仮装は無残にも割れていた。
「お~っと! 割れた卵から産まれたのは可愛い雛ではなくて、むさくるしいおっさんだぁーっ!」
「ズルなしでペアを組めたのは凄いクジ運でしたが、常連でありながらレースでは序盤で沈むことが多いですね」
「しかも全身着ぐるみ状態なので、引っ掛かりにくいのですが一度転ぶと二度と起き上がれないんですアレ」
そしてその後も転倒者はまだ続いて、オレたちの近くまで粉砕された仮装のかけらが転がって来ていた。
オレたちペアといえば、巻き込まれないようにまだ端っこで縮こまっていたのだけど……。
「ちょちょちょ、ちょっとぉ!」
「うわデカ!」
「たーおれーるぞー!」
あわてたような声に、何事かと思い視線を向ける。
そこではどデカい太陽の仮装者とそのペアが大勢のペアを巻きこみながら、丁度オレたちの目の前で倒れるところだった。
バキバキバキと派手に仮装が折れる音がして、燃えている太陽の炎の部分が何本もあたりに降り注ぐ。
「……うそ」
これはさすがに予想できなかったのか、飛龍の子はあぜんとした顔でその場から動けないでいた。
「まかせろ!」
オレは先に壊れて地面に転がっていた仮装の一部を剣に見立て、降りかかってくる大量の炎の仮装を切り払う。
「てりゃあ!」
「!」
縦横無尽に斬りつけると、カカカカカンッと派手な音をたてて炎が払われていく。
あれほど降りかかって来ていた炎の仮装は、あと一つをの残しすべて無くなっていた。
「……っと、ラストぉ!」
「……やるね」
パチパチパチパチ!!
最後の一つも処理し終えると、オレたちを拍手がつつんだ。
「いいぞいいぞー!」
「格好良かったぞぉーボウズー!」
一部始終を見ていた観客が降らす拍手の雨に、少し……いや、かなりの照れくささを感じる。けれど、今のアクシデントはかなりのタイムロスには変わりない。無事に切り抜けている間に、一番前を位置どっていた先頭集団はすでに結構な先を走っているのが見えた。
というか、先頭とそれ以外のスタート位置で差が出すぎだろこのレース……。
「マズいな、追いつけるか?」
「まかせて、足には自信がある」
よぉーし、その言葉を信じて今からでもトップを目指す!
オレたちは負けない、いっくぞぉぉぉぉぉー!
「…………」
「大人には勝てなかった……」
うん……まあ、そうだよな。
オレたち子供の足では先頭集団に追いつくことすらできなく、15位という微妙な結果に終わったのだった。
「また、次の機会……ふたりで……リベンジ……」
全力疾走したおかげで、ぜーぜーとあらい息をつきながら、大の字でゴール地点で寝そべるオレたち。ふたりとも汗だくで、ズレた被り物すら直す余裕もない。
「ああ……次会った時……約束……だ」
「! 約……束……」
気持ちのいい脱力感に身をまかせながら、飛龍の子と口約束をかわす。
ふと飛龍の子を見るとあちらもオレ見ていたようで、ふたりの視線がからまる。
「お前、女の子……だったん……だな……」
あらい息をつきながらこっちを見つめているのは、まるで空のような青い目に青い髪をした女の子だった。
「そういう……キミは……男の子……」
龍が好きだなんて言うから絶対男だと思ってた。
なのにそこにはまだオレと同じくらいの、表情のとぼしい顔の少女がいて──────
自然に小指を絡ませあったオレたちは、誓いの指切りをしたのだった。




